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魔王

二話までは導入部です



 ウチのクラスには魔王が居る。


 写真だけ見せられたら「何この冗談みたいな美形」と言いたくなる外見はしているが、簡単に「爆発しろ」と言える様な相手ではない。

 そんな事を口にしようものなら、次の瞬間にはこっちが爆発するのではないかと思わせる雰囲気をまとっているのだ。


 別に暴力を振るうわけでも、ましてや超絶サイズの火球を放ってくる訳でもなく、常に穏やかな笑みをたたえ、丁寧な口調でクラスメイトとも応対しているが、それが仮の姿でしかない事はクラス全員どころか彼の存在を知る者ほとんどすべてが理解している。


 生物的絶対強者の気配。


 なにせ、動物ですら彼の前では死を覚悟するのだ。


 

 あれは小学校の遠足の時だった。


 遠足先の動物園で同じ班の友達と楽しく動物たちを見ていた俺たちは、後ろからゆっくりと違和感が近づいてくるのを感じ、足を止めた。


 最初は何が起こったのか分からなかった。


 「何か変じゃない?」


 他の子にそう言われて何が変なんだろう、と考えた。


 同じ小学校の子供らの声と、時折それを注意する先生の声、駆け回る足音。


 そこで気づく、動物たちの鳴き声や動き回る音が消えていたのだ。


 檻をゆするチンパンジーも、ウンコを投げるゴリラも、甲高い鳴き声を響かせていた鳥たちも、威嚇するように動き回っていた狼や虎も、すべてがじっとおとなしく、彼を迎えていた。


 ニコニコと楽しげに動物たちを見回し、時折声をかける彼。


 笑顔というものがこれほどまでに怖いものだと思ったのはその時が初めてだった。


 漫画では見たことがあった「動物ですらその前では死を覚悟する存在」というもの。


 それまでも、どこか明確ではないものの畏れられていた彼が、「そういう怖いもの」だとその時改めて俺たちは理解したのだ。




 小学校、そして中学校と、彼が成長するにつれ、その「怖さ」は知れ渡り、いわゆる不良っぽい存在はこの街から消えた。



 どんなに虚勢を張ってみたところで、所詮は子供の遊びレベル。

 

 明白な「死の気配」に比べればおままごとに過ぎない。


 本当の「恐怖」を知っているからこそ、誰もそういうバカな真似はしなくなった。


 拳を構えたり、暴言を吐いたり等は、本当の怖さの前では滑稽なものに映る。


 変に着崩した服を着て、威嚇的な髪型をして乱暴な言葉を吐く人間より、校則通りの制服をきっちりと着て、オーソドックスな髪型をして、丁寧な口調の「彼」の方が怖いのだから・・・。



 救いは彼が魔王ではあるものの、理不尽な真似はしないという事。


 とは言っても「自分を簡単に殺せる存在がそばに居る」というのは相当なストレスだ。


 入学式で倒れた生徒が例年より多く出たのは、校長の話の長さのせいでも、天候のせいでもなく、彼の存在によるものだと言って間違いないだろう。


 ウチのクラスの担任が新卒の若い女性なのも、他の教師が誰も引き受けたがらず、押し付けられた結果だと噂されている。

 やはり教師だって、怖いものは怖いのだ。



 実際のところ、その威圧感・恐怖感を別にすれば、彼が存在するクラスを担当する事は楽なはずだ。


 遅刻や不真面目な授業態度を取ったらどうなる事かと恐れたクラスメイトたちは、実に真面目な学校生活を送るからだ。


 誰だって怖い、俺だって怖い、そんな態度を取って「彼」に睨まれたらどうなるか?


 学級崩壊などに悩む教師が見たら、涙を流す様なクラスがここにある。




 そんな俺らが思い描いていた高校生活とは異なった学校風景だが、救いはある。


 魔王と同じクラスに勇者が居たのだ!



 彼女は「これから成長してナイスバディになるんですよう」と言わんばかりの大きめの制服を着た、勇者とは程遠い小動物系なごみキャラな外見をしているものの、その中身は真の勇者なのだ。


 初めてクラスの皆が教室に入り、魔王の威圧感に彼の席を中心に緊張と静寂が広がる中、にこやかに元気良く彼に近づくと声をかけたのだ。


 この時、クラスメイトの心は一つになった「勇者だ!」と。


 魔王もその存在を彼と対等のものと認めたのか、自然に応対している。


 それからも彼女は毎日の様に、ごく自然に彼に声をかけている。


 凄ぇと思う。


 蛮勇ではない、真の勇気を俺は見た。


 彼女のお陰でクラスの雰囲気も、緊張感は残っているものの、過度に張り詰めた状態ではなくなった。


 俺には出来ない。


 他の奴にも出来なかった。


 故に彼女はクラスの皆から尊敬の眼差しを浴びている。


 「勇者である」と・・・。





【魔王くんの日記】


 期待に胸を膨らませて入学した高校。

 これまでと同じだったら嫌だなぁ、と思っていたが、結城さんのお陰もあって楽しい学校生活を送れている。


 今までのクラスメイトはどこか壁を作って僕に接してきたのだけれど、結城さんは気さくに声をかけてきて、色々と話をしてくれる。


 ママが言うには「真くんが美形過ぎるから、他の子は遠慮しちゃうの、釣り合いがとれないんじゃないかって」と、僕の見た目が原因らしいが、結城さんはそういうところを気にしない人なので有り難い。


 クラスの人望も高く、他の人たちからも尊敬を受けている。


 彼女みたいな人が一緒のクラスで、本当に良かったと思う。


 これまではポチ太郎(ドーベルマン♂5才)や近所の野良猫だけが癒しだったが、やはり学校で楽しく話せる相手が居るのはいいものだ。

 

 パパはすぐにハグをするし、ママはすぐにキスをしてくるというかなりスキンシップ過剰な家庭とは対照的な学校生活だったが、これからは楽しく過ごせたらいいなと思う。


 

魔王と勇者以外が苦労する話です

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