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短編

魔法と副作用

作者: 綴 詠士
掲載日:2026/01/20

 ハンスは工房の作業部屋の床にでかでかと書かれた青い魔法陣を見る。

 

 「よし、手順の確認だ。魔法陣を起動させる。シャーロットを探す。聖具を渡して俺は逃げる。よしよし。いいよな? また副作用とか起きないよな?」


 ハンスは何度もしわくちゃの紙を見ながら頷いている。


 今頃、城には化け物の大軍が押し寄せているはずだ。


 この工房は城から遠く離れた森の中にあるので襲われることはないだろうが、それでもハンスには放っておけなかった。


 シャーロットを助ける。今のハンスの頭にはこれしかなかった。

 

「この部分はちゃんと書けてる。特に間違いは無いし、これだけ確認してるんだからいいはず? だよな?」

 

 ハンスは念には念を入れて何度も確認する。


「髪が白くなるくらいならまだしも、もっと変な副作用が出たら困るしなぁ」


 自分の白い髪を触りながらハンスはまだ確認する。しつこいくらい確認してようやく納得できたようだ。


「よしよし。じゃあ、始めるぞ」


 ハンスはコツコツと足音を立て、魔法陣の上に乗る。


 そして詠唱を始めた。


 魔法陣が星の輝きのように光りだし。


 ハンスは飛んだ。


 ***


 気が付くと真っ白な石造りの部屋にいた。


「よし! 成功だ! やったぞ、これは記録しておかないと!」


 ハンスは紙にメモを取り始める。


 ここまでの距離をぶっつけ本番で飛ぶのは初めてで、ハンスは興奮を抑えられなかった。


 と、そうしてハンスは我に返る。


 現状の問題点はシャーロットだ。

 

 シャーロット。この国の姫。美しい銀髪に青い瞳。いつも落ち着いた雰囲気の女性。

 

 彼女がこの城にいるはずだった。

 

 遠くからは叫び声や爆発音、悲鳴。様々な音が鳴り響いている。赤い火の手も見えるし、黒い煙が上がっているのが見える。

 

 時々衝撃も感じ、白い石の破片が飛び散ってくる。誰かが魔法でもぶっ放しているのだろうか。

 

 ハンスは眉をひそめ、心なしか息を殺し、辺りをきょろきょろ見回す。


 一日中工房に籠って、魔法の研究をするのがハンスの日常だ。こんな戦場は業務外で想定外だ。

 

「もう中に入られてるんだな?」

 

 どうも城の中から色々な声が聞こえるようで、それはもうそういうことだ。

 

 城の門が破られ、化け物たちが中に入ってきているという事。

 

 つまり、ハンスが思っていた以上に、この城の状況は悪い。

 

 多分大丈夫だと高をくくっていた。

 

 だけど現実は非情で、大丈夫なことは全くなかった。


 とにかく進んで、シャーロットを助けないといけない。


 そしてハンスは進む。


 ***


 ハンスは城の中をおっかなびっくり進んでいた。


 遠くからは喧騒が聞こえてきて、城の廊下の窓から外が見える。

 

 あっちで黄色い魔法の雷が落ちたと思ったら、こっちでは叫び声と共に人型の何かが空に吹っ飛ぶ。


「……」


 冷や汗を垂らしながらハンスは窓から目をそらす。


 聞き耳を立てて、ゆっくり進んでいく。


「何も来るな何も来るな」


 ぶつぶつ小さな声を発しながらこそこそ進んでいく。

 

 偶に化け物の気配がすると必死によけ、隠れる。


 それを繰り返していた。


 だけどここは一本道だ。

 

 遠くに見えるのは大きな姿の化け物。その周りに小さな化け物が何体もいた。

 

「……嘘だろ」

 

 周りにあるのは石の柱くらい。

 

 どう頑張っても避けられない。

 

「え、えっとえっと」

 

 ハンスは必死に柱の影に隠れた。柱から体が飛び出ないように手を上に延ばして、何かの儀式かのように全身を縦に延ばしまくる。


 小さな化け物は緑色の身体を揺らし、鼻をクンクンする。


 一瞬化け物たちはハンスの方を見て硬直するが、何故かスルーして、そのまま先に進んでいった。


「……」


 ハンスはじっとして、足音が遠ざかるのを確認すると、そのまま地面に崩れ落ちた。


「はあ、あぶなぁ。上手くいってよかったぁ」


 心からの安堵を見せると、ハンスは立ち上がる。


「でもあいつらの目って意外と節穴なんだな。化け物対策としての柱隠れ方は記録に残しておこう」


 そんな風にハンスはまたメモしていた。

 

 ***

 

 そして更にハンスが進むと、今度は戦いが城内で行われていた。


 兵士たちが化け物たちと戦っている。


 緑色の人型で豚みたいな顔をした化け物が斧を振るう。


 大きな盾を持った黒い鎧の騎士が斧を防ぐ。そして持っている剣を振る。


 他にも槍兵たちが宙を飛ぶコウモリのような化け物を突いている。


 ここは危険な戦場だった。


「こんな所で戦ってるのか……」


 ハンスは廊下から頭をのぞかせて、戦場になっている広間を見る。


 こちら側には化け物たちがいて、向こう側にいる兵士たちを相対している。


 背中側にいるハンスには気が付いていないようだ。


「こっそり抜けれないかなぁ」


 恐る恐るハンスが広間に入っていくと、兵士の一人が叫びだす。


「奥から化け物が追加で来たぞ!」


「ええ!?」


 思わずハンスが振り返ると、確かに廊下の奥から化け物たちが走ってきていた。


 あの兵士は随分目がいいらしい。あんな奥の化け物たちに気が付くなんて。


 ハンスは慌てて広間の端に逃げ出す。


 廊下から参戦してきた化け物たちは兵士たちを攻撃していく。


「……流石にマズそうか?」


 兵士はもはや倍くらいの化け物と戦うことになっていた。


 このままではじり貧だった。


「くそ、何かできないか?」


 ハンスは鞄に手を突っ込み手当たり次第に出す。


 眉を太くする薬の入った瓶。いらない。


 『世界魔法都市案内』の分厚い本。いらない。


 おたまじゃくしの声が出る笛。いらない。


「ん--。なんで今日に限ってがらくたばかり」


 そしてハンスが次につかんだのは、誰も読めないような黒い字が書き殴られた紙だった。『ただいま50%増量セール』という俗なシールだけが綺麗に貼られている。


「これだ!」


 そしてハンスはその紙を掲げる。


 ここで使わないと、シャーロットを助けられない。


「いでよ! ヴォルザーク!」


 そうハンスが叫ぶと、紙が赤く燃え始めた。


「熱ぅ!」


 ハンスが手を慌てて放すと紙は燃え尽きてしまう。


 叫び声を聞いて、広間の兵士や化け物たちの視線がハンスに向く。


 ハンスがあわあわし始めるが、状況は変わりつつあった。


 ハンスを中心に赤い炎が地面を走る。


 炎は広間を伝い、広間の壁に沿うように燃え始める。


「なんだ!?」


 兵士が驚く。化け物たちも動揺して周囲の赤い炎の壁を見る。


 その広間の中心。


 そこから赤い炎が立ち上る。


 炎は大きくなり、大きくなり。天井にまで達するかという大きさになると、爆ぜた。


 爆音と光。


 ハンスが耳をふさぎ、目をつぶる。


「……ん」


 そして再び広間の中心を見ると、そこには炎の巨人がいた。


 当然兵士たちも気が付く。

 

「な、なんだあれ! ヴォルザーク!? あんな大きさ見たことがないぞ!」 


「あの化け物が召喚したのか!?」


「にげろお!!!」


「おい、お前ら! 戦闘中だぞ! 戻れ!」


「隊長も死にたくないなら逃げましょうよ!」


 叫び、兵士たちは逃げていく。


「え? ちょっと待って! 俺は味方だよ!!」


 ハンスが叫ぶが全然聞こえていないようで、兵士たちは逃げてしまった。


 後に遺されたのは、ハンスと、大勢の化け物たち。そして巨大なヴォルザーク。


「えーっと」


 ハンスは気まずそうに言うと、ヴォルザークに命令する。


「やっちゃって。ヴォルザーク」


 ヴォルザークは命令通り、圧倒的な力で化け物たちを燃やし、消滅させた。


 後には黒い灰と、焦げた匂い。


「凄いな。召喚魔法は初めて使ったけど、こんなに使えるのか」


 ハンスはメモする。


 そしてヴォルザークはメモするハンスをじっと見ていたかと思うと、その火は徐々に消えていった。


 そして巨人の火は消え、後には何も残らない。


『またのご来店お待ちしております!』


 そんな音声だけが最後に聞こえてきた。


「……」


 ちょっと雰囲気が乱れて、ハンスはため息をついたのだった。


 ***


 そしてハンスがシャーロットを探していると、ようやく彼女を見つけることができた。

 

 何かの声がすると思っていってみたら、そこには兵士たちに囲まれたシャーロットがいた。

 

 彼女はまだこちらに気が付いていない。

 

「おーい、シャーロット!」

 

 ハンスは声を出し手を振る。

 

 彼女たちがハンスに気が付く。


 だけど彼らはなぜかすごく驚いていた。

 

「化け物だ! 全員姫様をお守りしろ!」

 

 兵士の隊長みたいな人がそう叫び、兵士たちが剣を抜く。

 

「え? ちょっと待ってちょっと待って!」

 

 ハンスは手をぶんぶん振って誤解を解こうとするが、全然警戒を緩めてくれない。

 

 予想外の展開に動揺しまくりながらも、誤解だと手を振っていたハンス。

 

 するとぶんぶん振っている自分の手がハンスの目に入った。

 

「あ?」

 

 その手の色は緑色だった。

 

 無言で頭を触ってみると、髪が無くなっていて、頭頂部に大きな角が生えているのが分かった。

 

「……」

 

「これは、まさか。……魔法陣の副作用じゃないか?」

 

 ハンスは過去のことを思い出し確信する。

 

(やばい、これ、魔法陣の副作用で姿が変わってる! 多分化け物の姿になってるやばい)

 

 ハンスは慌ててとにかく鞄の中をあさる。

 

 そしてシャーロットに向かって投げる。

 

「シャーロット! そいつを使ってくれ!」

 

「え?」

 

 シャーロットが驚きながらそれをキャッチする。

 

 それは聖具だった。

 

 シャーロットが持ってないといけない物。

 

 それを渡しに来たのだ。

 

 シャーロットがそれを受け取ったのを確認するとハンスは一目散に逃げだす。

 

 これ以上兵士たちに襲われないように無我夢中で逃げだした。


 ***


「……」

 

 シャーロットは手にした聖具を見つめる。

 

「姫様! それは?」

 

 隊長が聞いてくる。

 

「……。ハンス。無事受け取りましたよ」

 

 シャーロットは聖具を掲げる。

 

「祓え!」

 

 そして聖具が光り。

 

 城中に光が満ちた。

 

 そして光が消えると、化け物たちは浄化され、消えていた。

 

「はあ、はあ」

 

 シャーロットは息を吐き、疲労しながらも彼を思い浮かべる。

 

「ハンス。ありがとう」


 ***


 後日。

 

「ふう。とにかくどうにかなってよかった。」

 

 相変わらず姿は変わってないが、ハンスはそう呟いた。

 

 今はこの姿を元の姿に戻す薬を作ってるところだ。

 

 大きな鍋をかき混ぜながら、色々と考える。

 

 作業台の端には新聞が載っていて、そこには『シャーロット姫の力により、城が救われる』とでかでかと書いてあった。


 端には『城内で巨大ヴォルザーク! 敵の魔法技術は予想以上!』という文字も見える。

 

 ハンスはそれを横目で見ながらも木べらを動かす。

 

「ま、偶には副作用も悪くない」






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