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metamorphosis  作者: シ閏
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lelelabってとこのキーボードかった。


 もちろん、電話で相手と会話を交える際の受け答えにはこうしろああしろと事細かにマニュアルが設けられている。相手方を不快にさせないよう、聞いていて心地よいと思うか、もしくは返答がしやすいかを徹底的に研究しぬいた結果こそが、その対応マニュアルという代物なのだ。電話の時だけじゃない、実際に人と会い、何かしらお世話になる時、此方の利益になる話だったり、そう言う系統のよくしてもらった時、もしくは”した”時。相手が不快になる様な言動、例えばため口や、親しい間柄でのみ使用するような挨拶、スラングといった、先方を不快にしかねないような発言は慎むべきというか、しないのが普通だ。そして、相手を上に置く、相手を立てる形で会話を成立させることで、美しくも簡易的な会話が成立するのだ。私達日本人は心身が成長するにつれ、それが赤の他人と接する場合の常識となり、通例となる。そしてそれこそがこの国の強みとも言える「尊敬」という概念に繋がるのだ。

 ……いや死ね。とりあえず死んでくれ。

 尊敬とか、そんなものを純粋に抱いている人間が本当にこの国にいるのか。

 無知な人間が夢を語る時、確かにそこには「生きた尊敬」がある。純粋に輝かしい星空を見上げて、興奮し、触れたい、近くで見たいと切に願う。しかし、地上と見えているものとの距離、そしてそれに近づくことすらも億劫であると痛感したとき、己の尊敬という意識は死に晒し「謙遜」になる。

 謙遜には、尊敬の純粋な動機と違い、己を卑下するという動作が加わる。相手を上に置き、自らを下に置く。そうして己の立場を明確にしてしまう。私なんてまだまだドウノコウノ、〇〇さんにはかなわないドウノコウノ。明らかこの国には尊敬よりも謙遜をしている人間が多い。

 別にそれが悪い事であるとは言わない。自らを卑下し、相手を立てる。いいじゃないか、その卑下が嘘であり、形だけのものであるなら尚良い。問題は、卑下することが目的になっているクソ馬鹿が多いことにある。謙遜を日常的に使うことで、自らの口から出た便宜上の自己嫌悪をいつの間にやら本来の自分であると勘違いし、それを繰り返すことによって、いつしか自らを卑下することそのものを目的としてしまう。そうしてそれを謙遜であると頑なに言い張り、見るも無残な自己満足を始めだす。

 そんなバカげた意識を持つこの国とその団体に属して生きるのは死ぬほど苦痛だ。本当にイライラする。


 と、夢をかなえたどこぞの天才少年がなんかしらの大会で目に余る功績をどうのこうのと宣うネット記事を眺めて耽っていると、控えめな音量とふざけたメロディーのコール音が鳴り響く。

 「うい、こちら第1第3の…ふ%#っす。なんすか」

 受話器を取り、マイクの部分へ向けてその懇切丁寧な言葉で応答する。

 「……え?あ、えーと……第一管制塔の方……で間違いない…でしょうか?」

 「うっす。第一管制塔第三支部のふ#@っす」

 「…え?なんか、電波が悪いんですかね?どうしてか上手く聴」

 「何がありました?どなたです?」

 「…あ、これは失礼しました。こちら東条区警備隊の安藤です。E-3地区にて迷子の報告をと……えー、人数は3名。6歳の光喜くん、9歳の柑奈ちゃん、11歳の泰斗くん、それぞれ面識はなく柑奈ちゃん以外はご両親と観光で来たとのこと。柑奈ちゃんについては会話が難しい状態であります。それで……あの?」

 受話器の向こう側からは大勢の人の声と明るいBGMがかすかに聞こえてくる。

 「おっけいおっけい。それじゃあアナウンスかけとくかね……出身と血族の有無は?」

 「…あ、えー、出身地は光喜くんと泰斗くんについては自分から話してくれました。言います」

 その言葉と共に散らかったデスクの奥底からクシャクシャの紙切れを取り出し、ペンを構える。

 「おう」

 「光喜くんは京都府の京都市から、おそらく新幹線で。泰斗くんは兵庫県の明石市から車で、共に家族旅行で来ているとの事。で………はい………はい…………はいはい、双方血族で間違いないそうです。そして柑奈ちゃんについてなんですが、制服を着てるので修学旅行生ではないかと思ってはいるのですが、所持品には何れも身元を特定できるものがなく、此方から話しかけてもよく分からないことを繰り返してて対処し兼ねている状況であります。以上です。どうぞ」

 「ふいふい、ありがと………とりあえず東条と北条区にアナウンスね。柑奈ちゃんについては状況を逐一報告。で、新しい情報出たらすぐ知らせるように。以上!」

 「はい、おねが」

 通話を切って大きく背伸びをする。

 今日は連日に比べ迷子が少ない。良いことだ、と言いたいところだがこういう場合はただ単に迷子が見つかっていないだけ。毎日何十人何百人と迷子が発生するこのイカレタ町ではその他に何が起こるか分からない。

 例えば、血族のカス達は気味の悪い理由を基に頭の悪い喧嘩を頻繁に起こすし、何を言っているのか理解もしたくない血族動物のバカ達は権利の主張の為に、やっぱり気味の悪い頭も悪い喧嘩を毎週のように起こす。気を引き締める……程度でやる気が出る訳でもないからもう自棄だ。

 「がはー…めんでぃ~…だっりぃ~…」

 今の時期は基本的に気候は落ち着くし、パーカーひとつ羽織るだけで温度の調節が出来るほどに丁度いい季節…なはずだと言うのに今日に限っては驚くほど暑い。どう考えても異常気象だ。もう本当にパーカーが邪魔で仕方ない。更には修学旅行シーズンとも重なっているため国内から観光客がわんさか訪れる。本当に大変だ。

 「おいゴリラ!南条の酔っ払いのやつは片付いたかー?あっちのほうは観光客多いんだから早く片しとけよ!じゃないとおやつのバナナが暑さで熟しちゃうぞ!ガハハ!」

  向かい側のデスクに向けてそう煽るように、いや、煽ると、向かいのモニターの向こうからため息交じりに、露骨に嫌な顔をしているであろう含みのある言いぐさで返事が返ってくる。

 「あーもうわかってますってば、警備隊員の仕事なんだからいちいち僕に突っかかってこないでくださいよもう」

 「あは!ゴリラ怒った!」

 「あーもう…」

 こいつは見た目通りゴリラの血族動物で名前をトリュートという。私とトリュートはほぼ同時期にここに来た。いわゆる同期で今年で3年目。そしてここは聖都ウィッチグレイブの第1管制塔の中にある第3支部。聖都の管制塔とは言っても、聖都の近くにあるというわけではなくて、そこから5㎞ほど離れた場所にある西日本最高峰の石鎚山の麓に建てられたサッカーグラウンド並に広い施設。ちなみに第2管制塔はその正反対である瀬戸内海の上にぷかぷかと浮いている。

 「はぁ、私もゆっくり観光とかしたいわ」

 「福里さんって休みの日は…あぁ、ゲームでしたね」

 「そう、やめらんないんだよねー」

 「スマホゲームとかですか?」

 「いや、ずっとCSやってる」

 「CS?…あぁ、この前福里さんが面白いって言ってた……あれ、試しにやってみたんですけどオンライン一戦目からいきなりいちゃもん付けられちゃって、自分なんて始めて1ヶ月で消しちゃいましたよ。やっぱり、自分はエルデンリングみたいなオフラインで一人でできるゲームの方が性にあってますね。ゲームの世界でも対面気にしなきゃいけないって、なんだかなぁって感じです」

 「おいおい、それがオンライン対戦だろうがよ。噛みつかれて噛みつき返してのやり取りが良いんだろうが」

 「そう…ですか…?どうせなら、もっと平和的にやった方がよくないですか?ゲームですよ?」

 「ゲームだろうがなんだろうが舐められちゃダメなの!この前なんて、ボイスチャットつけて敵の場所を丁寧に報告したらよく分かんねえ外人にスカ?ホイ?みたいな感じでめちゃくちゃに怒鳴られたからね!だから仕返しにマイクに息吹きかけて相手の鼓膜破壊してやったぜ。へへ」

「えぇ……スカ…って確か凄い下品な言葉だった気がするんですけど、福里さんなんか味方に嫌がらせでもしちゃったんじゃないですか?」

 トリュートがその大きな指で器用にキーボードを打ち、そのサイズに見合ったマウスを動かして左クリックをする。

 「いちいち細かいこと気にしてらっれっかっての。つかもう3年目だぜ?『さん』無しでよくない?」

 「ためぐちとかそういうの得意じゃないんですよ。なのでさん付けはさせてください」

 トリュートがキーボードから手を離し、肩に手をかけ腕を回す。

 その動作を見て、福里が嬉しそうに口を開く。

 「お!終わった?飯行くか!」

 「いや、まだです。福里さん先行っててください。この報告書片付いたら行きますので」

 「それは?あの酔っ払いのやつ?」

 「いえ、鑑さんと『王室』とのお茶会の件で、よそからのクレームというか、まぁ誹謗中傷が相次いでまして。本来はそういうの第5支部の仕事なんですけど、ほら、今第5は風邪が流行ってるじゃないですか。だからこっちに回ってきたって感じです」

 「ふーん、大変だねー。ってことで一緒に飯行こうぜゴリラ!」

 「あの聞いてました?自分この報告書を…」

 「はいはい、終わるまで待ちますよ」

 「いや、そういうことじゃなくて…もういいや、あと10分ほど待っててください」

 鑑さんとは。あまり聞いたことがないが王室とお茶会をするということはたいそうご立派な役職なんだろう……いや、お茶会って何だよ。

 デスク上に置かれた最新型のスマホをタップし、スワイプし、またタップ。

 『王室 かがみ お茶会』

 そう検索をかけると、1番上に記事が出てきた。画面をタップし内容を確認すると大きな見出しと共に”いかにも”といった容姿の女の子が映しだされる。いかにも思春期真っただ中って感じの年齢で容姿端麗。そして、特徴的なその少々金髪めいたぐるぐる巻きの髪を見てから「あぁ、こいつか」と脳みそのどっかで寝そべっていた記憶がよっこらと起き上がってきた。

 こいつはこの聖都の守護を務める『サーティ』のうちの一人。確か、その系統では歴代最強とも称されるとかなんとか。

 白萩 鑑、17歳。あの白萩財閥のご令嬢。大財閥の社長の娘で美人で歴代最強の純血でサーティなんて、一体前世でどれほどの得を積んだのか見てみたい。

 そんな奴がなぜ王室とお茶会なんぞを開き、何が理由で叩かれるのか。

 どうやら聖都に拠を構える白萩財閥が、裏でIROの運営するIT関連の子会社に資金援助を行っていたという事が公になったのだそう。そもそもIROと血族連は昔から仲が悪い。過去にはいちゃもんの付け合いから始まったものが、法廷バトルにまで発展し、それに続くようにして蚊帳の外での論争なんかも繰り広げられてきて、兎に角仲が悪い。そんな渦中に裏での繋がりが露呈。血族連は沈黙しているが白萩財閥のある聖都市は血族連の管轄であるがため、IROと裏でそういうことをしていたのは許せないとそれを支持する一定の層からは大ブーイング。落ち着いた話し合いと言う体で王室に赴き、お茶会と言う名目でことの説明を財閥の令嬢と役員たちが。それにネガティブな印象を勝手に持った輩が再プッシュ。結果今に至るというわけで。なんて可哀そうなのだろう。確か今はサーティの帰省シーズンで国外出身者のサーティの凡そが聖都を留守にしていたはずで、彼女にとっては最悪のタイミングなんじゃないだろうか。つくづく同情する。

 「終わりました。行きましょう福里さん」

 「よっしゃ飯行くぞゴリラ!!」

 「その呼び方いい加減やめてくれません?」


やっぱりお腹痛い

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