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metamorphosis  作者: シ閏
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三番目に好きな曲は椎名もたのうたをうたう人です。

 新緑の山肌がこちらへと近づいてくる。その様は、すごくめんどくさく言えば首に両手を回して、気がぶっ飛ぶまで力を込めることとなんら変わらない。端的に言えば、つまりは自殺行為だ。

 こんな絶望が生い茂った山々を見ると、そうとしか考えられなくなる。

 斜面からゴロゴロと崩れ落ちた土砂に埋もれるアスファルトとガードレールだけしかなかったはずの道をひたむきに踏んづけて進んでいく。

 日が照り付ける。数十メートル先の景色はどこも変わらず崩落してきた岩石が取っ散らかって、山を切り崩して敷かれていた広めの2車線の山道なんぞはとっくに消え果せる。

 第一管制塔まではこの道をあと2kmくらい進んだところにある。その管制塔の玉座に踏ん反り返るキモめの年寄り共に色々と詰め寄ってから、気分次第では殴る。

 ん?いや、ちょっと待て。ここは血族連合の敷地だよな?そうだよな?血族連合ってIROと酷く敵対してるよな?流石は獄介おじさん、いつも通りの浅ましさ。

 「はぁ……ここに来てから何発撃ったっけ……?一発……と、二発……」

 マズイ。懲罰委員会だ。謹慎処分だ……執行委員会も手を抜くって知らないからなぁ……あぁ、もうどうでもよくなってきた。もう何を言われても仕方ないか。

 それにしても何故だろう。電波が込み合っているのか、はたまた、山中が故の圏外なのか、機械のことには詳しくないためどうしてスマホが使えないのか不思議で仕方ない。あの大きな電波塔でも倒されたのか。

 兎に角して道なき道を進む。時々見えるアスファルトが唯一の標。ここから先はいつどこからミミズに襲われても不思議ではない。存分に注意して…あら?

 「おいおいおい」

 噂をすれば。

 右前方から土と石ころを身に纏い、地面を削って煙を撒き立てながらそれが姿を現した。全長は…全て引っこ抜いて見ないと分からないだろうが、それでもこの威圧感は半端じゃない。まるで電車だ。

 山から突き出ている奴らよりか幾ら分かは小さいが、その分体は軽そうで、見た目がキモい。

 そいつは、こちらを認識するなり緩急もつけずに勢いよく突進をしてくる。おぼつかない足場を滑るようにして右に転がり回避して、そうして地面に伏せて気付く。異様なまでに土煙が周囲を包んでいる。目や口に土が入り込む。目の前が霞む。顔を上げると、先ほどまで見えていた景色がいつのまにやら茶色一色に染まりきる。

 足場はどこだ。

 嫌な景色を前にして先ずはそれを考える。近くの露出した平面なアスファルト、木の枝にしがみつくのでも良い。とりあえず周りを少しでも見渡せる場所。そうでなくても、平衡感覚が十分に漂ってさえいれば良い。来た道、行く道、右左と見渡すがどこもかしこも汚い土の脆い壁に阻まれる。

 例えばここから闇雲に走ってみたとして、煙から抜け出せはしても運が悪ければ山の斜面に足を取られて山底に真っ逆さま。さて、やはり。

 「これしかないか」

 胸ポケットから飛晶石と彫られたテニスボール大の石を取り出す。

 煙が絶対に及ばない場所をおおよそで検討つけて、思い切り上空向けて振りかぶる。

 現状、上を見上げるのはなかなかに難しい。石が今どこを飛来しているか、土煙に燦燦と照り付ける陽光が上への視線の邪魔をして、石が弧を描くタイミングを大体で予測することしかできない。

 投げてから大体3秒。ここで息を吐く。瞬きの次の瞬間には空中にいた。全て見渡せる。崩れた土砂と少し先に続くアスファルトの道。そして、煙に紛れて蠢くミミズの頭と、絶えず藻掻くようにして出てくる胴体。そしてそこから擦り出されてくる土煙。なるほど、ここ一帯を包み込む土煙の正体はあれか。

向こうもこちらの存在を見失っているようだ。これは好機と銃を取り出し、確実に当たる場所を見極める。この場合は動きの少ない穴から出てくる胴体の部分。狙って、撃ちこむ。

 銃口が鈍く光り、炸裂した次の瞬間には肉片が飛び散り、周辺には一層土煙が広がる。空中に放り出されてから引き金を引くまでに掛かった時間はおよそ1秒。それ以上こいつに時間を食われるわけにはいかない。

 そうすると、間もなく獄介は軽く腰を捻らせ空中で姿勢を変え、飛晶石を持ち直し、道があるはずの方向へ向けて投げる。そうして次の瞬間には地面の一部が剥げ、アスファルトの露出した場所へと放り出せれる。瞬時に頭に手を回し、その場で2回ほど転がってからその勢いのまま立ち上がる。そうして飛晶析を拾い上げ、軽く後ろを振り向き息を吐く。

 そして再度進み始める。


 目的


 見なくても分かる。行かなくても分かる。この先、この山々を抜けた先の地獄。

 割れた窓、崩れた窓枠、無い壁。山の向こうで起こる爆発で小刻みに震える散乱したガラス片。山々の間からちらほらと見える煙と、天に亀裂でも起こさんばかりに巨大な緋色の生き物。それが、絶えず地を、空気を、自分の魂を震わせている。この揺れに慣れてしまった自分に胸糞の悪いものを覚える。

 体のほとんどを覆う黒い体毛と、その上に着込む不似合いな水色のポロシャツと小豆色のネクタイ。その横に座する下半身が赤く染まった赤寄りの茶髪をしたロングヘアの女性。

 「ゴリラぁ、腹減ったぁ」

 隣にへばりこんでいるその下半身を血液に染めた女性がそうごねる。

 「辛抱してください」

 「なんかないのぉ?」

 その女性、福里がくすんだ手をおでこに押し当て、少しばかりニヤついてそう言う。

 「ないです。辛抱してください」

 「うえぇ~...」

 そう言い、口角を上げたままうなだれる。

 「本当に大丈夫なんですか?こんなに出血してて、本当に?」

 「あーもうゴリラ、お前心配性過ぎなんだよ。ほら見ろ、こんなに腕動くし足も動くぞ」

 そう言い、傷だらけの腕と血だらけの足を大げさに動かして見せる。

 「あぁあぁ、そんな動かしちゃダメですって。とりあえず応急措置して、それからここも出ましょう。野田さんとか呉さんとかも下で心配してるでしょうし」

 トリュートの説得を聞いて、福里はいじけるような顔をして見せる。そのまま口をすぼめてハイハイとめんどくさそうに返事をして、ブツブツと何かしらを唱えだす。そして、浮遊する10cm大の水の球体を作り出す。

 「お借りしますよ」

 そう断りを入れ、その水に手を突っ込む。

 濡れた手で福里の血まみれの足に水をバシャリと掛ける。福里もその水の球体に手を入れ、ゆっくりと腕をなで、洗う。

 「そもそも、野田さん達はまだ下にいますかね?」

 トリュートが着ている水色のポロシャツを破き、それを水で濡らして絞って見せる。そして、それを出血を続ける福里のふくらはぎにきつく巻きつける。

 「さあね。結構長いこといるし、多分いないんじゃない」

 「30分…くらいですか。とりあえずは降りましょう」

 そうして未だ傷だらけの福里をおぶり、瓦礫のかぶさった階段を慎重に降りてゆく。

 「ねぇ、この一件終わったらどうしたい」 

 「これが終わったら…ですか。なんで急にそんなこと…?」

 突然の質問に驚いてそう返すと、福里が明らかにニヤけていそうな口調で返事をする。 

 「こういうのって死亡フラグとかって言うでしょ?ちょっとやってみたかったんだよね」 

 「死亡ふらっぐ?なんです?それ」 

 「ほら、あれだよ。なんて言うんだっけ…なんか……ザラキみたいな奴」 

 ザラキ…ってことは死の呪文…… 

 「ほんとに何なんですか…それ」

 


 エントランスへ降り立つと、待っていたぞと言わんばかりに20人ほどの社員達が駆け寄ってくる。

 「おい、福里!お前大丈夫か!」

 野田が叫ぶ。福里がその返事をぶっきらぼうに返す。

 「あぃあぃ私はピンピンでございますよ」

 その返事に野田が眉間にシワをよせる。

 「な、こっちがどんな気持ちでお前ら二人を待ってたか」

 「待ってねえで助けに来いよ」

 福里のその切り返しに野田が眉間にシワを寄せて面倒くさそうな顔をする。

 「へぇへぇそうですか。あぁ、トリュート。よくやった。昇給しといてやるよ。ボーナスもな」

 「えぇ~私はぁ?一応アナウンスとか色々頑張ったんですけど~?」

 「お前はなぁ…態度が悪いからなぁ…」

 「はぁ~?おめえそんなんだから嫁さんに逃げられんだよ」

 「おま、ふざけんじゃねえよこら。今関係ねえだろ、こら」

 そんなやり取りに汗臭いおっさん達の結構汚めの笑い声がエントランスに響き渡る。

 「すいません。渡邊さんたちはどうされたんですか?」

 そう質問を投げると、社員達の後ろでその一連を静観していたおよそ60歳ほどの婦人が口を開く。

 「あのじじい共なら”札”使って王室に逃げやがったよ。最初の地揺れが起こった頃には既にここにはいなかったそうだ。全く男ってのはつくづくねぇ。あぁ、ココちゃん?傷大丈夫?こっちで手当てしてあげるから来なさいな」

 そういい腰に提げてあるポーチから包帯を取り出す。

 「呉さんありがとう~。やっぱ呉さんが一番だぁ~」

 福里がヨロヨロと呉に歩み寄りエントランスの大理石の床にペタリとに座り込む。そうして手当てを受ける福里をよそに野田達に今の状況を聞いてみる。

 「野田さん。聖都は、どうなっているんですか…」

 「あぁ、聖都な」

 野田が一瞬の躊躇いを見せながら無精ひげが生えるその口を開く。

 「一瞬だけ、向こうと連絡が着いたが…まぁ…お前の想像する数倍か、それ以上は悲惨だ」

 そう言うと同時にほかの社員の顔も曇る。ここには知り合いの”同族”がたくさんいる。だとしても今の自分にできることは、おそらく何もない。

 「聖都へは行けそうなんですか?」

 その質問に、野田がポケットから煙草を取り出しながらに返答する。

 「…残念だが、向こうに行くまでの道が土砂で塞がっているようで、”札”もあのじじい共が使いきったから…ここにいるみんなで己らの命の採算が合わないくらいに無茶して、そんぐらい頑張れば、まぁ、行けなくもないんじゃないか」

 つまり、閉じ込められた。ということでいいのか。

 「無理に行こうとすればあの訳の分からないミミズが襲ってくるそうで、もうどうしようもない感じで」

 野田の隣にいる30代ほどの男性がうなじに手を当てながらそういう。

 「ミミズ…ですか」

 「言い忘れてたな。あの図面に映ってた馬鹿みたいにでかい怪物の正体。ありゃ束になった云百匹のミミズだったんだよ。ほら、ここからも少し見えるだろ?あれだよ」

 野田が煙草の煙を吹かしながらそういう。その視線の先には緋色だか赤色だか分からない色をした”何か”の頭部が見える。あの時に見た束の正体が、ミミズ……?あの、アスファルトの上でよく干乾びているあのミミズ?

 「ここで救助を……!」

 そう言いかけた途端、あの時と同じ地揺れが起こる。オフィスで感じたあの揺れと全く同じだ。あの絶望的な存在が、近づいてくる足音だ。

 「これは…こっちに…?」

 同じくそれを感じ取った他の男性社員がそう言った。それを合図に野田を含めたおよそ20名ほどの社員が、目配せを行いエントランスから駆け足で外の駐車場へと走る。そうして別々に周囲を見渡して身構える。

 「福里と呉さんはお前に託すぞ」

 野田がエントランス内にいるトリュートへ向けてそう言い放ち、それでもって先ほどまでと変わらぬ様子で片手を胸の前に突き出して、グーにも似た形の印を作って見せる。やる気だ。

 「お前ら、軍でやった対戦車を想定とした……あぁぁ…えっと…アレでいく」

 「かっこわりぃ……」

 隣で福里がボソッと呟く。

 「腕は鈍ってねえよな」

 野田のその言葉を合図に社員一人一人が、まるで点呼でも取っているかの様に順番に「勿論」と続けていく。

 その光景につい見惚れる。いつもはあんなに嫌な人たちだと思っていたのに。こんなに頼れてしまう人たちだったことに気づけなかった自分が嫌になる。いやいや、違う。そんなことに耽ている暇なんてない。福里と呉の方へ駆け寄り、彼らと同じように身構えて前に立つ。

 「向こうからの情報じゃ、奴らの表面は馬鹿みたいに柔くて、動きは大きさによって速かったり遅かったりと言ったところだそうだ。とりあえず火で攻める。無理そうなら氷で行く。デイビット、頼むぞ」

 野田が誰の顔を見ることなく、ただ周囲を警戒しながら指揮を執る。

 「火は野田さんとして、そのサポートを俺と佐藤さんで。」「じゃあおれぁスペースでバフか。他だれか行けるか。」「自分が行きます。」「他はサポートに回れ。俺が気を引く。立ち位置は、俺、火とスペース+サポート、氷とサポートの一、三、三、七、十変形態で行く。人数合ってるか。」「問題ないです。」「来ます。」「移動だ」

 目が釘付けになる。野田のあの野暮ったいいつもの印象を覆すその指揮と、それに確実についていく部下の忠実さ。まるでチームワークのとれた軍の小隊でも見ているかのようだ。

 そうして各自が配置に着き、息の詰まるような沈黙が地揺れをバックに周囲を包み込む。この少しの緊張に触発されてか、立ち込めていた悪寒が背中を伝っては空中の関節を強張らせる。

 「来る」

 不意にそう呟いた。その途端に、辺り一帯から轟音を犇めかせて土砂を吐き出し、アスファルトを裂きながら桁外れたサイズのバケモノがその姿を現した。途端に周囲が長くもごつい影に覆われる。そして、それが出てくることをまるで予見でもしていたかのような完璧な位置取りに改めて野田の采配に感心する。

 目が離せない。どこを見ていたらいいやら分からなくなる。息を飲んでその行く末を見守る。もしもの時は自分も参戦する。そんな気構えで駐車場から突き出た異様なバケモノを睨む。

 配置の先頭に立つ男が眩い光を纏った炎をミミズに浴びせ、それを合図に完璧な配置だと思ったものが変形を行う。ピラミッド型からミミズを囲うように変態し、それでも炎の勢いは止むことを知らず、それどころか一層勢いを増していく。ミミズが激しく藻掻いてその緋色の体をうねらせ、その麓から火を放ち続ける男を死に者狂いで轢き殺そうとする。しかし男はミミズの懐で素早く動き周り、ミミズに追撃と言わんばかりの炎を放ち、肉々しく重圧なその皮膚を焼きはらい、ミミズの腹を黒く焦がす。ミミズがそれに藻掻くと同時に、同じく別の方向からも火の手が上がる。その火の手は男の一撃と違い、まるで火炎放射器を発射するかの勢いで随時放たれ、ミミズの顔面を覆っては怯ませる。

 突然、ミミズの懐から「デイビッドぉぉお」という野次にも似た野田と思しき男の雄叫びが聞こえてくる。その名前を聞いた途端にハッとして、ミミズから一番遠い場所に突っ立っていた南米系の男の元へと視線を移すと、男が両腕を胸の前で広げては深呼吸を幾らか繰り返しているのが見えた。男のその呼吸は段々と大げさになっていき、その背後では多量の水の塊がおもむろに構築されては風船のようにして膨らんでいった。男は、トラック一台程度であれば余裕で収まりそうな規模まで水の塊を膨らませると同時に、広げた両手を大げさに叩き合わせ、指先でミミズを指し示す。

 その時、今までこれと言って感情を顔に出していなかった男がニヤリと笑って白い歯をチラつかせ、獅子のような鋭い眼光でミミズを睨んでみせる。そうしてミミズへ向けていた手先をぐるりと回して自分の胸へ向けたかと思うと、声高らかに叫ぶ。

 「Chivo‼」

 両手を勢いよく前方へ向けて押し出すと、形を成していなかった水の塊は異様なスピードで筒状に変形しては特大の氷柱を筒の中から風を切る音と弾ける水と共に放って見せる。

 氷柱は焼け焦げたミミズの皮膚を突き破り、鮮血を散らす。そして、それを追うようにしていくつもの火の玉がミミズのエグられた肉体に放たれる。悶絶し、それいらに耐えかねたミミズが氷柱の飛んできた方向へ大きく振り向き、そのグロテスクな口を開いては丸呑みに……………しようとしたのもつかの間、突然、全くの見当違いな方向から鈍い音と一本の白い閃光がミミズの顔を貫いた。肉がはじけ飛び、顔面を失ったミミズがその場に地響きを響かせながら倒れこむ。

 食い入るように見ていたからわかる。この戦闘において特段異質なレーザー攻撃。その場にいる全員がその音のした方を向いて制止する。そこには、どこか野田に似た野暮ったい風貌の男が銃を突き出し、おどけるようにしてつっ立っていた。


 何があったのか。

 呉の制止を振り切り、ふらつく足でエントランスをかけ抜け、様子を伺いに外へ出ると気の抜けるような声で名前を呼ばれる。

 「おぉ、福ちゃん。久しぶり、元気か」

 男は銃を腰にしまいながらニヤニヤとして近づいてくる。見たことがある気がする。この人は確か。

 「獄介さん?」

 「おっ、覚えててくれたのかぁ、良かった良かった」

 そう言うと、今度はゴリラの方を向いて口を開く。

 「お前がトリュートか。噂は聞いてるぞ。よろしくな」

 そう言って、銃のしまい終えた片手を軽く上げて何食わぬ顔で挨拶をする。

 「え、あ、よろ、しくお願いします」

 ゴリラが調子悪そうにそう返す。

 「あの、福里さん。この方は?」

 「えっと、結構前に顔を合わせたことがあって…」

 名前は確か……自分に負けず劣らず珍しい名前だったような。

 「獄介だ。IROで仕事しててな。何年か前にそっち関係のことで顔を合わせたことがあるってだけで。そんなことより、聞きたいことが山ほどあるんだが」

 「あんた、ここまでどうやって」

 いつの間にか隣にいた野田が獄介の話を遮る形で唐突に質問を投げる。

 「え?あぁ。いや、道路は土砂に埋もれてたけど、道がなくなってるとかそこまで酷くはなかったからな。あと、道中でちっこいミミズに何十匹と襲われたが、あの程度屁でもねえさ。それより聞きたいことが…」

 「あんたIROなんだろ?血族連には何も言われなかったのか?」

 野田の隣にいた男も同じようにして割って入る。

 「おいおい。勘弁してくれ。聞いてるのはこっちだぞ。はぁ、ここに娘が修学旅行に来ててな。仕事を抜け出して安否の確認に来て、場所を聞こうとしたらスマホが繋がらんくなって……何が何やら」

 そう言って、獄介は胸ポケットから煙草を取り出す。それを見た野田が胸の前でグーにも似た印を結び、宙に浮かぶ小さな火種を作って見せる。

 「使いな」

 「お、悪いね」

 獄介が煙草の先端を火に持っていき、煙草に火をつけて咥える。同じく野田も、ズボンのポケットから取り出した煙草を取り出しては煙草の先端を火元へ持っていき、火をつける。その途端に火種が消える。

 「今から一時間くらい前に、うちの第一支部からとある図面が送られてきたんだ。おい、まだ持ってるか。あれ」

 野田が近くにいた無精ひげの男へそう言うと、男のズボンのポケットからきれいに折りたたまれた白黒の紙面が取り出され、野田がそれを手に取って雑に広げる。

 「2枚目と3枚目は」

 「あー、置いてきたわ」

 無精ひげの男が耳の上あたりをかきむしりながらそう答える。

 「ったくこういう時に限って……これがそうだ。見えるか、この黒い線。これがあいつらだよ」

 野田が折り目の付いたその紙面を砂利の散らばる地面に広げて中腰になる。それに合わせて獄介は膝に手をつき姿勢を低くする。その周りに福里とトリュートを含めた幾数名がワラワラと集まっては、同じような態勢を取る。

 「こいつぁ…まて。この長っ細いハリガネムシみたいなのが…あの、ミミズか?」

 煙草の煙とその臭いが付近に薄く引き伸ばされるように充満してゆく。

 「中には全長が9kmとかいうふざけた野郎なんてのもいるぞ」

 小太りの男が口を開き、深刻そうな表情の獄介がそれを聞いた途端に乾いた笑いを煙と共に零す。

 「はは、だったら笑いもんだ。図体の割には柔いわ鈍いわで簡単にやれちまうんだからよ。まぁでも、量で押されて る、見たいなことを鑑ちゃんが言ってたぜ」

 「え?鑑って、あのサーティの?」

 おもわずに口に出してしまう。なにせ今朝方話題に上がったばかりだ。

 「前会ったときはこんな小さかったのに、もう娘とほとんど変わんねえくらいに大きくなって。ほんと子供の成長ってのは」

 「他には何か言ってたか」

 野田が食い入るように質問をする。

 「え?あぁ、指揮権を持つ奴が見当たらないとかで、軍諸々あんたらの指示待ちだってよ。まぁ、今頃連合がこっちに向かわせてるだろうが、もう手遅れというか、腰が重すぎっつうか……そのせいで低く見積もっても千人は逝っちまってるだろうな」

 そう言い中腰の姿勢を崩しその場に腰を付く。そうして深く煙草を吸って、上を向いてから大きく吐き、俯く。

 「そうか……サーティは、鑑ちゃん以外に何人?」

 「5人。そのうち2人は救出作業だと。鑑ちゃん以外にどんなサーティが居るかは知らないね」

 「じゃあたった3人であのバケモノの群れを?はは、流石はサーティだ」

 野田がそう言いながら煙草の灰を地面に落として、咥えなおす。

 「そういや、この通信障害……機械に詳しくねえから分からんが、ここの電波塔やらWi-Fiやらはすごいんだろ?一体何が起こってるんだ」

 「通信障害?……あぁ、それな。俺の予想じゃやられたのは中継器だな。そこに妨害電波見たようなもんを飛ばされてるんじゃないかと」

 「妨害電波ねぇ……その中継器ってのはどこに」

 「えーと、どこだったか」

 「八幡山のすぐそばです。高速道路の南側」

 福里の咄嗟のその言葉を聞くや否や獄介が耽入るように考え込む。

 「高速の南側……あぁ、あそこか」

 「…?何か心当たりでも?」

 「あぁ、いや、その場所だけやけにミミズが集中してたのを見て変だなぁとは思ってたんだが……俺の予想通りなら、こりゃテロってやつだ」

 「テロ……まぁ、そうじゃなきゃおかしいってとこまでは来てるよな。なら、誰が仕組んだのかでも調べにいくか?」

 「残念だが、それは無理だ」

 「なんで」

 「さっきの一発で俺の予備弾薬が尽きちまった」

 獄介はそう言うと、懐から口径の大きな銃を取り出し、空になったマガジンを地面に放り投げる。

 「あーあ、かっこつけるんじゃなかった。これじゃあ下に降りられねえなぁ。それに、一番の問題はさっき言ったミミズの量さ。殺っても殺ってもすぐに涌き出てくる。この銃なら一発で仕留められんだが、こいつが使い物にならん以上はこっちのベレッタちゃんでチマチマ攻撃するしかねえなぁ」

 そう言って、先ほどの口径の大きなものと異なり、口径も銃身も小さな拳銃を取り出す。

 「じゃあ結局、俺たちはここでじじい共待ってるだけってか……なんつうかなぁ…」

 無精ひげの男がそう言いながら煙草を咥え、口元を手で押さえながらライターで火をつける。

 「今更だが、そのじじいってのは第一支部の奴らのことだろ?今どこに?」

 「それな、ここに保管してた50個もの王室行きの札が全部消えててな。あのじじい共、自分らだけ安全圏へ避難しやがったよ。腰抜けが」

 煙草の灰を地面に振り落としながら野田がそういう。

 「そのじじい共を待つって、そりゃ一体なんで」

 「決まってんだろう。あのじじい共が、純血を除いて”この星”で一番強い連中だからよ。あんたも知ってるだろ?”第1管制塔第1支部の角位以上の場違いの強さ”を。俺らレベルが聖都で暴れまわってるあのどでかいバケモンを相手するなんて、命がいくつあっても足りやしねえしな」

 そう言い野田が煙草を再度吹かし、話を続ける。

 「俺らみたいな連中は、いっぱしの連携取れてなんぼ。1匹対俺らならまだしも、四方から攻め立ててくるバケモンなんざ相手した暁には、天国でばあちゃんになにバカみてえな理由で死んでんだってぶん殴られちまうね」

 「あっは、野田さん何言ってんでい。野田さんは嫁さんに逃げられてんだ。老衰で死んだってどっちみち向こうでばあさんにぶん殴られらぁ」

 「な、おめえ!何ちゅうこと言いやがんだ」

 「はっはは、ちげえねえや、はは」

 「野田さん落ち、落ち着けって、ぶっはは」

 途端に場が和む。そのやり取りに表情のこわばっていたその他数名も息を吹き返すように和らいでゆく。

 「それで、僕たちはここに残るとして、獄介さんはこの後どうするんですか?」

 トリュートが馬鹿笑いの吹き荒れる中、獄介の近くまで寄ってはそう話しかけ、それに対して獄介が似たり寄ったりの男どものその風景を眺めながら、頬を緩ませる。

 「そうだなぁ……」

 「俺は…その八なんちゃら電波塔を見に行くわ。あれをどうにかしないと、娘にも会えそうにねえからな」

 煙草を地面に押し当て、踏みつぶし。そうして立ちあがる。

 「おいおい、それの弾もうないんだろ。やめといたほうがいいんじゃねえか?」

 小太りの男が獄介の持つ小銃に指を刺しそう言っては獄介の前にしゃがみ込む。

 「え?あぁ違う違う、これは俺の愛銃で弾有りのベレッタちゃん。こっちがIRO支給の弾無しジェスコちゃんね」

 獄介のよく分からない紹介に小太りの男が色々と言いたげな表情をしてから諦めたように口を噤む。

 「俺は、ただ娘が心配なだけでね。それ以外のことはもう眼中に無いな……で、俺は機械とか全然知らんのだが、こん中に俺と一緒に地獄へ同行してくれる心優しい紳士はいるか?」

 「あっ…!私、詳しいです!研修であそこの設備の点検に何度か同行させてもらったりしてるので役に立つと思います!」

 獄介の問いに思わずそう叫ぶ。その声に一同が一様にしてこちらを向く。

 「ココちゃんはダメよ。こんなに怪我しているんだから」

 「呉さんの言う通りだ、それであのバケモノの巣窟に行くって、そりゃ死にに行くようなもんだ」

 無精ひげを蓄えた男が焦り気味にそう言って制止しようとするも、その言葉に対抗するようにしてトリュートが一歩踏みだしては口を開く。

 「福里さんは自分が担いでいきますから大丈夫です」

 「おいおい、トリュートお前まで……っかぁああああ。しゃねえなぁ」

 野田が頭を搔きむしり、まだ吸いどころの残る煙草を地面に捨て、それを踏みつけて立ち上がる。

 「お、漢になるときがきたねぇ」

 「うっせぇ」

 呉のからかいに野田が小声でそう言い返し、獄介の元まで歩を進ませる。

 「俺も、行かせてくれるか」

 野田のその言葉を聞いた職員たちが、皆一様に困惑した顔をする。

 「おいおい野田さん、あんたまでどうしちまったんだ」

 無精ひげの男が苦笑いを浮かべながらそういう。

 「どうもこうもねえよ。俺の部下が命張ろうってときに上司の俺がだらしないのはおかしいだろうが」

 「だからって、いくらなんでも急すぎやしないですかい?」

 「おい佐藤。あんたの嫁さん、確か聖都に住んでんだろ?」

 「あ?あぁ。だが、一番安全な北区に住んでんだ」

 「なんで安全なんて言いきれるよ」

 「なんでって、そりゃあ…」

 無精ひげの男の視点が左斜め下へ逸れる。

 「声、聞きたくなっただろ?ほら、お前も、お前らも、ぐずぐずしてねえで、回線復活させに行くぞ」

 野田がそう言うと、無精ひげの男がため息を吐いて立ち上がる。

 「俺らの頭がそう言うんなら、従わねえわけにはいかねえな」

 男のその言葉と共に、その場にいる職員皆が荷物を肩にぶら下げ、ある者はリュックサックを、ある者はトートバッグを、ある者は何も持たず、またある者は傷を負った女性を背負って、土砂を被ったアスファルトの道を下ってゆく。




 「ここかい?」

 「あぁ、そのはずだ」

 賀茂川の上流まで行き、そこから崩れかけの橋を渡って、木々に囲まれ、ヒビの入り、苔の生し生したアスファルトの坂を昇って、その電波塔とやらへ行ける道まで到着した。およそ20分の道のり。

 「怪我人はここに残すか?」

 「あぁ。この先はもっと危険かもしれんからな」

 「なに言ってんでいお二方。ここもこの先も死ぬほど危険なのには変わりねえだろう」

 頭に血の滲んだ包帯を巻いた無精ひげの男が木にもたれ掛かりながら、獄介と野田にそう言う。

 「まぁ、違いねえんだけどな。でもこれ以上は確実に死人出んぜ?佐藤さん」

 獄介が諭すようにそう言うと、男が軽く周囲を見渡す。管制塔からここまでの20分で4匹のミミズに遭遇、撃退。その一匹一匹と死闘を繰り広げるたびに手負いが増える。

 「無傷なのは、あんたと野田さん。ゴリラと呉さん。それから安瀬さんにデイブか。俺はこの通り元々へぼい頭に追い打ち喰らわされて、今すぐ寝込んじまいたい気分なんだが」

 「そう悪く言うでねえよ佐藤。こっちは邪魔な右の豚足吹っ飛んでんだ。こう何もないと案外スッキリすんぜ。どうだ、佐藤さんも頭吹っ飛ばしてもらいな」

 南米系外国人の男性に肩を担がれた小太りの男が嘲てそう言うと、少々かすれた笑い声がどっと起こる。

 「はは、冗談はよしてくれ。こちとら早く嫁とガキンちょ共の顔が見たくて仕方ねえんだ。目ん玉だけでも残しとかねえとな」

 「じゃあ、そうだな。安瀬とデイビット。こいつらのことを頼めるか」

 野田がその南米系外国人の男と、ピンク色のネクタイをした20代前半ほどの若々しい男に向けてそう言うと、ピンク 色のネクタイをした男が虚を突かれた様な反応をして口を開く。

 「え、か、構いませんが、できるだけ早く帰って来てくださいね」

 「っはは、心配すんな安瀬。ここら辺はそこまで被害がねえようだし。木もこんだけ生え散らかしてんだ。少なくとも、地上に顔を出してる奴らにゃ見つかりっこねえよ。それにデイビットがついてんだ。万が一のことがあっても何とかしてくれるだろ。な!デイブ!」

 「あ、ミー!?」

 南米系の男が声を大にしてそう言っては口をあんぐりとさせて顔色を曇らせる。

 「おいおい頼むぜアミーゴス。俺たちの命もかかってんだぜ?」

 デイビットに担がれていた小太りの男が汗を垂らしながらその場に腰を下ろす。

 「あぁ…もう。エンティエンド…野田さん」

 「あっはは、なんだその頼りねえ返事は、っははは」

 「おいおいしっかりしてくれよ、ぶっはは」

 再度ドッと笑いが起きる。

 「なんだ、怪我の割にはピンピンしてんじゃねえか」

 獄介が煙草を咥えたその口を開く。

 「まぁ、同類の寄せ集めだからねぇ」

 その隣で倒木に腰掛ける60代後半程の女性が青あざの目立つ福里の腹部に湿布を貼りながら呟く。

 「え、同類?……そういや呉さんは、なんでこの職に?呉さんくらいの実力ならもっと良いとこ行けてただろうに」

 「あ、それ、私も知りたかったです」

 呉の隣に座る福里が脇腹を押さえながらそう言う。

 「そうだねえ……5年…になるのかねぇ。わたしゃ、一端の医者として何不自由ない生活をしてたんだけどね」

 「……なら…なんで?」

 「医療現場、なんてのも、今じゃほとんど人工知能が主戦場さ。血も見ず、頭も働かせず、機械の出した完璧な答案を見て皮膚を裂き、悪戯好きの子悪党を除去すらぁそれで終わりの毎日。飽きたのよぉ。達成感の無い仕事なんざちまちまやったってねぇ」

 呉がそう言うと、福里が「ふーん」と、どこか別の場所を眺めて頷く。

 「なぁ、どうだい呉さん。いけそうかい?」

 野田がズボンのポケットに手を突っ込み、のしのしと近づいてくる。

 「そりゃこっちのセリフさ。そんなボケボケしてて私らを守れんのかい?」

 「ははは!言われてるぜ野田さん!」

 地面に寝そべり、頭部を包帯でグルグル巻きにされた血まみれの男が腹を抱えてそういう。

 「おめえはいい加減黙ってろっての、傷口開いたらどうすんだコラ……あぁ、よし、行くぞ」

 怪我人とデイビット、安瀬をその場に残し野田が先導する。

 「どうぞ福里さん」

 トリュートが呉の横に座る福里に背を向けて膝をつく。

 「頼むぜゴリラ」

 「はいはい」

 そう言って先を行く野田と獄介の後に続く。そしてその後を呉がついてゆく。この先は急な坂道が続く。ミミズも更に多く出現するだろう。気が抜けない。



 坂を昇りだしてからそれなりにが時間が経過した。木が周囲に生い茂って視界を妨げる。アスファルトの、おそらく長い年月をかけてできたヒビの狭間から雑草なり苔なりが生える。左は鬱蒼とした木々とその斜面。右は竹林とその斜面、そしてここから見下ろせる清らかな小川。そんな気の抜けない自然のトンネルを、ただひたすらに進んでいく。

 「気をつけろ。こっから先は電波塔の敷地内だ。もし本当にこれが仕組まれた…言うところのテロって奴なら、見張りの一人や二人いてもおかしくない」

 木々が晴れてきた。少しずつ景色が変わる。鬱とした空間に木々の狭間から陽光が差し出す。

 「どうだ、気配は」

 「……今のところは…特に…」

 野田の誰に向けて発したかわからないその言葉にトリュートが返す。

 「あの柵の向こうだな」

 木々のトンネルの先に、少々真新しい鉄の柵が設置されている。縦に3m程の大きさ。周りを見渡すと木々の間からミミズのテッペンが至る所に見受けられる。

 「ここって、監視員とかは?」

 獄介が不意に呟く。

 「いるはずなんだが…手遅れかな」

 野田が、徐々に近づくその場所に見受けられる”それ”を視認して含みのある言い方でそう言う。

 「…おいおい」

 柵の向こう側にはその場に突っ伏して倒れる複数名が見て取れる。どれも生きているとは到底思えない突っ伏し方で、ただただ悲惨だ。獄介が入口の門にゆっくりと手を押し当て体重をかける。

 「鍵は…開いてんな」

 「何がどこからくるか分からん。気を引き締めろよ」

 野田がグーに似た印を胸の前で結び、臨戦態勢で歩を進める。

 柵を超えると、先ほどの木々のトンネルとは正反対の、開けたコンクリートの大地と、その先にそびえる60m程の電波塔。その電波塔の足元を覆い隠すように発電機群と、それを囲むようにして金網が設置されている。

 「呉さん。念の為、生きてる奴がいないか確認してくれや」

 「はいよ」

 呉がコンクリートの上に倒れ伏す男の元へと歩み寄って、閉じた瞼を無理に開いてじっと見つめたかと思うと、今度は仰向けに倒れるその男の無精髭の顎を持って上下に動かし始める。次に服を捲って、そうすると今度は何かを察したようにして立ち上がり、それを他の幾数名に繰り返す。そして、どれにおいても呉の反応は皆同じ。

「ハハ、面白い死に方をしている…こいつら全員内出血で死んでやがらぁ。内臓出血から出血性ショック……あと、項部硬直っつうことは鈍器で叩かれたかぶん殴られた……と言いたいところだけんども、致命的な打撃痕がどこにも無い。外部からなのか内部からなのか、どっちつかずで気味が悪い……」

 呉が両肘に手を当て身震いの仕草をしながらそう話す。

 「パッと見ただけでそんな分かるもんなんですかい?」

 「呉さんは、医者は医者でも元脳神経外科医でね。当時は優秀過ぎるが故にそれと並行して科捜研にも務めてた超スーパーエリートさ。こんなん当たり前の所業だぜ」

 野田が周りを注意深く見渡しながらそう言う。

 「ひぇ~、そりゃすげえ」

 「ふん、無駄話はよそでやんな。それで、その妨害電波とやらがまだ飛んでんなら、どこかに姿形の分からん敵さんが潜んでるってそう言うことになるんだろう?項部の硬直具合から…死後1から2時間弱ってとこかね。こんな堂々としてて本当に大丈夫なのかい?」

 呉がそう言いながら立ち上がり、野田同様辺りを見渡す。

 「心配することはねえぜ呉さん。ここで襲ってこねえ臆病な奴に俺なんかが負けるわけがねえからな」

 獄介が拳銃を構えて自信満々にそう返す。

 「ははっ、こりゃそのうち痛い目に会うねえ」

 「へっ、言ってろい。それで、制御室は…?」

 「あの発電機の向こう側が制御室です。少しだけ白いのが見えてるはず」

 福里の指さす方を見ると、確かに金網やら発電機やらの隙間から白い建物や、カーテンの閉まりきった窓が見える。

 「あれか…しかし、気配がまるで無いな。まさか本当に誰も襲ってこないのか。たまに揺れちゃいるが、それにしてもミミズの襲来もなしときたら……気味悪いな。この周辺にいるミミズ共も聖都の方に気を取られてるようで、ここを守ってるようにはまるで見えないし……」

 「おそらく、聖都の軍の方々が尽力されているんでしょう。数が多いと言っても所詮はミミズです。もしかしたら渡邊さん達も参戦してくれているかも」

 トリュートが聖都の方をふり向いてそう言う。

 「だと良いがな。ほら、行くぞ」

 野田の合図で止まっていた足が再度電波塔へ向けて進みだす。そこから制御室までの道のりは……まるで何もない。神経の意図を張り巡らせていたことがバカバカしく思えるほどに。

 「何かを画策しての誘い込みか、それにしちゃあ緩すぎだな」

 制御室のドアを前に獄介がそう言う。

 「入るぞ」

 野田がドアノブを握り、捻り、ゆっくりと開け放つ。中はただの広いオフィスで、特段変わった様子はない。

 「とりあえず、俺と呉さんで1階を、獄介さんは福里と一緒に2階を頼む。何かあったら大声で叫べ」

 「りょーかい」

 獄介のその気の抜ける返事を合図に野田がオフィスの中へ踏み込み、デスクの上に置いてあるパソコンをいじりだす。

 獄介が、玄関から見てすぐ右側にある階段に足をかけ、上る。

 「福ちゃん。上には何が」

 「えと、2階には主電源システムって言うのがあって、そこからこの電波塔の主電源のON OFFを切り替えれた……はず。多分…」

 階段にしかれたカーペットを踏んでゆっくり、身構えながら一段、また一段と上がっていく。

 「そのオンオフでこの妨害電波が……」

 獄介がそう言いかけてピタリと止まる。

 「…?獄介…さん?」

 「………はは……そうか。あいつが、いるのか」

 獄介がブツブツと呟く。どこか落ち着きのないその口調が福里とトリュートの肩を震わせる。

 福里を背負ったトリュートが、階段を恐る恐る上がり、その光景を視界に入れる。


移動中のおっさんらのカッコいい戦闘シーンも付け加えたいけど、めんどうくさい。保留で!!

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