褒美
「よくやってくれた勇者殿! まこと勇敢な戦いぶりであった! 其方のおかげで我が国は救われた!」
「……いえ、そんな……」
「魔王を打ち破った勇者殿はまさに英雄だ! 感謝の印として私から褒美を授けよう」
「……褒美、ですか?」
「まこと、ご苦労であった! では、気をつけて帰られますよう!」
「……へ? ……は?」
悠真は思わず呆気に取られた。感謝と賞賛の言葉から突然帰れと切り返され、一瞬頭が混乱する。すると、突如あのブラックホールが悠真の目の前に出現し、小さな渦を巻き始めた。
「ではまた! お元気で! さようなら!」
ポカンとする悠真の前、すでに見送り体制の住人たちはそんな言葉を向けてくる。戸惑う半面、もう用済みかよと思いながら、悠真は再びブラックホールに呑み込まれた。
「……うわあああッ……! 痛ッ!」
投げ出され、転がった体は何かにぶつかり停止した。確認すると、そこは元の自分の部屋であり、悠真はしばらくそのまま呆然とする。
一体あれは何だったのか……、あまりにも物事が忙しなく過ぎ去っていったので、夢か現実か区別がつかず、悠真は困惑した表情を浮かべている。それでも、机の上に置かれた宝箱を見つけると、やはりあれは現実で、これが褒美であると理解した。
よろよろと近付き、少しドキドキしながらその宝箱を開けてみる……。
中には黒い玉と手紙が入っていた。不気味な光を放つそれが何なのか分からず、悠真は手紙を開けて読んでみる。
「――ええと……、ご苦労。褒美にこれを授けよう。さあ、次は君が魔王になる番だ……」
瞬間、思考が一時停止して、それから一気に鳥肌が立った。目を見開き、食い入るようにもう一度じっくり読み返す。そこにはやはり信じがたい言葉が並んでおり、心臓がバクバクと激しく鼓動する。衝撃のあまり息をするのを忘れてしまい、悠真は相当に驚愕した。
「……ッ、……な、なんだコレ……、どういう事だ!? 次は俺が魔王って……」
思考はやがて一つの明確な真実へと繋がった。つまり、魔王の正体とは、実は前の勇者であったのだ。魔王が次々と現れるという事は、そのたびに新しい勇者が召喚されるという事で、勇者が順番に魔王になるという循環を繰り返しているのだ。
「……ひッ! そんなっ……、じゃあ、アレはっ……!」
魔王も、訓練所でのあの魔王崩れも、ボムボムも、元は自分と同じ人間だったのだ。そうとは知らずに潰しまくり、最後はあの世界の住人たちによって踏み潰され、ただの黒いシミになってしまった。なんともおぞましい真実に、視界がグラグラ歪んでくる。すると、黒い玉からモヤが立ちはじめ、また何かが始まった、そんな予兆に悠真の体は震えだす……。頭の中ではあの時、ニヤニヤと笑いながら語った騎士の言葉が響いていた。
『我々はこの遊びが好きなのであります! それはもう、たまらなく好きなのであります!』
あの時「お前もこうなる」と言った魔王の言葉、そして帰り際に住人が口にした「ではまた」の言葉の真意に愕然とする。
部屋にはまた小さなブラックホールが出現する。絶望した悠真はガクリと膝から崩れ落ちた。