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不思議の国で

「この国は魔王によって人々の命が脅かされている。情けないが、私たちは異世界より召喚した勇者に助けを借りるしか手立てがないのだ。どうかこの国を救ってくれないか」

「……いや、救うも何も、俺……、戦った事とかないですよ。無理ですって」

「大丈夫だ。戦った事がなくとも、ここへ来れば勇者は誰でも強くなる。それこそ魔王を指一本で倒せるほどに」

「はあ!?」

「だから頼む! この通りだ!」


 そう言って深々と頭を下げる王。それに続き、王妃と王女にまで頭を下げられたら無碍に断る訳にもいかず、悠真は「ハァ」と溜息をつく。


「……本当に、俺、強く? なってるんですかね……?」

「むろん、異世界より来た者は皆、強いと決まっておる!」

「……ええ? ……うーん、それじゃあ、まあ……とりあえずはやってみないでも――」

「そうか! 引き受けてくれるか!」


 前のめりになった王が喜びをあらわにする。次の瞬間にはバタバタとさっき城へと連れてきた騎士たちが現れて、悠真は慌ただしくまたどこかに連れ出された。

 

「つか、なんであなたたち、そんなに急かすんすか!?」


 連れて来られたのは騎士の訓練場だった。なんでも、魔王と戦う為に早くもその準備をしろという。悠真からしてみれば、ついさっきこの世界に来たばかりで、まだ頭が追いついてない状態だ。それなのに、こんな風にやたらせっかちに事を進められて、戸惑うのも無理はない。普通はもっとそれなりに時間を与えられても良いのではないだろうか。そんな風に考えていると一人の騎士が口を開く。


「のんびりしている時間はないのであります! なにせ、あと二時間後には魔王がやって来るでありますから!」

「はあ!? 二時間後!?」

「そうです! ですので、さあ……、この中から早く自分に合う武器を選ぶのであります!」


 そう言って、騎士は大きな箱を差し出した。中を確認してみると、そこには野球のバット、スリッパ、帽子が入っている。よく見てみるとそれは以前、自分が所有していた物だったので悠真はとても驚いた。


「……えっ、なんでこれがっ……」

「細かい事は気になさらずに! さあ、一つお選びください!」

「……いやっ、気になるだろ! ……しかも何? バットとスリッパと帽子!? そんなんバットしか選択肢が……」

「バットでありますね! では武器も決まりましたのでこちらへどうぞ!」

「いや、だからアンタさあ!」


 急かされるように、また悠真は移動する。連れて来られたのは、さっきの訓練場とは別の、隔離されたある特別な建物だった。そこに足を踏み入れた途端、悠真は思わずギョッとする。

 そこにはすでにたくさんの人型の何かが蠢いていた。人のようで人でない、どろどろに溶けた黒いゾンビのようなそれは呻き声を上げながらウゾウゾと地面を這い回っている。


「……な、なんですかっ、これ……!?」

「これは前の魔王たちであります」

「……はあ!? 前の魔王!? てか、魔王ってたくさんいるんですか!?」

「はい。それはもう、次から次へとやってくるであります。さあさあ、それより、まずはこれを相手に早く特訓するであります」

「……ちょ、だからそんな急かさなくてもっ……」


 聞きたい事はまだあったが全て受け流されてしまう。強引にバットを握らされた悠真はさっそくそれらと対峙した。

 喧嘩など滅多にしたことのない悠真にとって、これは初めての刺激的な体験だった。妙にドキドキしているが、それでも思いきってバットを振り下ろしてみると、それらは何の抵抗もなく、すぐに潰れて動かなくなる。潰されたその物体は分裂し、今度は黒いスライムみたいに姿を変えた。


「上出来であります! いやぁ、さすがは勇者様でありますなぁ。この魔王崩れも、我々では倒せないでありますから」

「ええ!? そうなんですか!? なんか、誰でも出来そうですけど!?」

「いやいや、勇者様にしか倒せません。…………しかし、このボムボムになった状態であれば、我々でも倒す事が出来るようになるのであります」


 すると、その騎士は突然目を輝かせた。興奮を抑えられないように、そのスライムみたいな見た目のボムボムに近づくとグシャリとそれを踏み潰してしまう。踏み潰されたそれはもう物体ではなくなり、ただの黒いシミとしてそこに残るだけだった。


「ほうら、お前たちも来るであります! こんなにボムボムがあるでありますよ!」


 呼びかけに、他の騎士や使用人たちがそこにワラワラと集まってきた。そのボムボムを見た途端、みんなは同じく目を輝かせ、それを蹴飛ばしたり踏み潰したり、野球のボールのように投げては剣で斬ったりしている。その異様な興奮状態に悠真が若干引いていると、さっきの騎士がニヤニヤと笑いながら悠真に伝えた。


「我々はこの遊びが好きなのであります! それはもう、たまらなく好きなのであります!」

「……はぁ。そう、なんすね……」

「はい! なので、勇者様はもっとこの魔王崩れを潰してボムボムを作るであります! さあ! さあ!」

「……もう、分かったから……」


 その後も悠真は魔王崩れを潰し続けた。そうしてあっという間に二時間が経ち、あまりの慌ただしさに不安を隠しきれない悠真だったが、それでも魔王はやってくる……。


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