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剣の誓いは時を超えて 〜騎士、フェンシングで世界を制す〜  作者: 南蛇井


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春──新たなる舞台へ

春の訪れと選出の報せ

桜が咲き誇る校庭。春の陽射しが明るく照らし、緑の葉とピンクの花が鮮やかにコントラストを描いている。空は透き通るような青さを見せ、心地よい風が吹き抜けていく。


昼休み、部室に集まっている剣道部員たち。レオは仲間たちと一緒にランチを囲んでいるが、どこか落ち着かない様子だ。今日の昼食後、監督が急いで部室に入ってきた。


「おお、ちょうどいいところに!」

監督の声に、部員たちは一斉に顔を上げる。

「これだ、ナショナルチームからの通知!」


監督が大きな封筒を掲げ、部室にいる全員の目がその封筒に釘付けになる。レオもつい立ち上がり、意識がそこに集中した。監督は封筒を開き、目を通しながら静かな声で言う。

「この度、我が剣道部から……」

その瞬間、監督の指が紙を引き寄せて、レオと蓮の名前をしっかりと読み上げる。

「レオ・ガラン、伏見蓮、U-18ジュニアナショナルチームに選出だ。」


部員たちは一斉に歓声を上げ、喜びの声が部室中に響く。

「すげえ!」「やったな、レオ!」「蓮も!全国の中からだぞ!」

拍手と笑顔が溢れる中、レオはその場で立ち尽くした。

心の中では、信じられない気持ちが渦巻いていた。


レオの目の前には、数秒前までいつもの仲間たちが笑っていたのに、今、彼自身がその名を呼ばれたことが現実味を帯びてこない。

レオの手がわずかに震える中、心の声が小さく呟く。


「本当に、俺が……?」


その声は、まるで自分に言い聞かせるように、頭の中をぐるぐると回った。レオの目は窓の外の桜の花に向かい、浮かび上がる晴れやかな春の日差しをじっと見つめた。




初めての合宿地

舞台は国内のナショナルトレーニングセンター。そこは近代的で広々とした施設で、白い壁が光を反射し、まるで未来の世界に迷い込んだかのような空間だった。壁一面に並べられた外国製の器具、専用の剣技測定装置がピカピカと輝き、最新鋭の設備が並んでいる。


施設内には、各地のトップアスリートたちが集まり、競技の最前線を追い求めて日々努力している。その中でも、レオは少し浮いているような気がしていた。周囲の選手たちは皆、既に名を馳せた全国大会の上位常連校から選ばれた猛者たちばかりだ。彼らの存在感は圧倒的で、試合後に交わされる会話の内容も、レオにはまだ理解できない領域に感じられた。


レオは、目の前の鋼の道場に立ち、深く息を吸い込んだ。

(戦場じゃなくても……ここは、剣の最前線だ。)


心の中でそう呟き、気を引き締める。コートの端では、チームメイトの蓮が静かに準備運動をしている。まるで“戦い”のために生まれてきたかのように、その姿からは一切の無駄が感じられない。レオは、自分のエペを握る手に力を込め、少しでも追いつこうとする気持ちが膨らんだ。


周りの選手たちが持つ優雅で無駄のない身のこなしを目の当たりにすると、レオの胸の中で焦燥感が芽生えた。まだ、自分は本当にこの場所に立つ資格があるのか、疑問に思えて仕方ない。だが、そんなことを言っている暇はない。レオは視線を真っ直ぐに前へ向け、心の中で誓った。


(ここで負けるわけにはいかない)


部屋の奥からは、コーチが近づいてくる気配がする。レオは一度、深呼吸して自分を落ち着かせた。その瞬間、蓮の静かな声が響いた。


「お前が一番強いんじゃないか?」


その一言に、レオはびっくりして顔を上げたが、蓮はすでに淡々と別の準備を始めていた。レオはその背中に、何度も自分を重ねながら、心の中でもう一度だけ誓った。


「勝つために、強くなる。」


新たな舞台が、今、始まろうとしている。



近代的指導との衝突

ナショナルチームの合宿が始まって数日。コーチは世界大会の経験者であり、その指導は徹底的に科学的で近代的だった。全員が集められ、まず最初に聞かされたのは戦術の理論。


「レオ、蓮。君たちの基本動作は問題ないが、これからは“秒単位、ミリ単位”で考えていく必要がある」


ナショナルコーチが言うと、周囲にいた選手たちは一斉にメモを取り、鋭い眼差しでコーチを見つめた。レオはその言葉が頭に入らず、ただ「次はどんな指導だろうか?」と考えながら、エペを握り直す。


「この場面では踏み込みは0.12秒以内」「相手の肩の動きで次の技を読む」「相手の反応速度を計算して、最適な距離を取れ」――


コーチの声は続く。すべてが数字で、計算されたデータで埋め尽くされていた。レオは、これまで直感と感覚で戦ってきた自分にとって、その全てが重くのしかかる。


(こんな細かい数字、戦場じゃ誰も教えてくれなかった……)


レオはエペを持ちながら、どうしてもその細かな数値や理論が頭に入らない。戦場では、相手の動きを“感じ取る”ことがすべてだった。しかし、ここではそれだけでは足りないようだ。レオは指示された通りの動きをしようとするが、どこかでミスを犯し、コーチからは厳しい指摘が飛ぶ。


「レオ、反応速度が遅い。次は数字通りに動いて」


その度に、レオの心は焦り、体はぎこちなくなる。


「感覚だけではダメだ、数字に従え!」


レオは口の中で何度も呟いた。自分が得意だった「直感」での戦いが、ここでは通じない。どんどん自信がなくなっていく。


その光景を、静かに見守っていた蓮は、言われた通りに動き、すぐに指示通りに完璧に再現する。コーチはすぐに蓮を高評価し、レオはその様子を見ながら複雑な心境に陥る。


(どうして、蓮はすぐにできるんだ?)


レオは何度もその光景を頭に思い浮かべながら、焦りと劣等感が胸に広がっていく。


その時、蓮がふとレオに向かって歩み寄り、静かな声で言った。


「君のやり方も悪くはない。でも、今は違う戦場にいる。今は数字がすべてだ」


蓮の言葉は、レオの心にずしりと響く。その言葉の奥にある“冷静さ”を、レオはまだ完全には理解できなかった。



劣等感の芽生え

練習後、ナショナルコーチと蓮が休憩中に戦術談義を交わしていた。コーチは新しい戦法やデータ解析の結果を述べ、蓮はそれに冷静に反応し、次の練習内容を論理的に整理していく。


「次は相手の肩の動きに合わせて、ステップの角度をもう少し浅くするべきだな。反応速度を1ミリ秒早くするだけで、試合の流れが変わる。」


蓮の言葉は鋭く、的確だ。レオはその様子を施設の隅から見つめながら、エペを握りしめてストレッチをしていた。


(蓮……また、あいつは……)


レオは肩を軽く震わせながら、蓮の冷静で正確な動きを思い出す。蓮がどれだけ理論に基づいて動くか、それを理解し、実践できることに、レオは一層の劣等感を覚えていた。


自分は直感で戦ってきたが、ここでは数字がすべてだ。自分の戦い方がすぐに通用しないことに、レオは深い不安を感じる。


(また……置いていかれるのか)


思わず拳を握り締めた。その手の中にあるエペの柄は、少し汗をかいていて、握るたびに滑りそうになる。その感触が、今の自分の焦りと焦燥を象徴しているようだった。


効果音:ぎゅっと握る音。


レオはその音が耳に響くのを感じながら、ふと自分を見つめ直す。


(俺は、どうすればいい?)


その問いが頭の中をぐるぐると回る中、レオは肩を落としてもう一度エペを握りしめた。



夜の自習練習

夜、宿泊棟の灯りが消えた後、静かな施設内。レオは寝室を抜け出し、一人で体育館へ向かう。


体育館は誰もいなく、広い空間に自分の足音だけが響く。レオは机に置かれたエペを見つめ、決心を固める。


(ここでやるべきことは、ただひとつだ)


日中の練習メニューを思い出し、レオはそれを忠実に実行しようとする。コーチが教えてくれたように、動きを分解し、意識的にフォームを整えながら、剣を振る。


動きはぎこちなく、計算されたステップを踏んでいくが、どこか違和感が残る。瞬時に足が止まり、レオは自分の姿勢を確認しながら再度剣を握る。


「まずは、肩の動きだ。次に踏み込みのスピード……」


そう、口にしながらも、どこか焦りが込み上げてくる。


彼は反復練習を続けるが、どうしても感覚が鈍くなる。無理にスピードを意識しすぎたせいか、フォームが崩れ、思い切り剣先が壁に当たる音が響く。


カンッ!


その衝撃に、レオは短く息を吐く。目を閉じ、心の中で小さく呟いた。


(俺は……変われるのか?)


その言葉に、自分の足りない部分がすべて集約されているように感じた。頭では理解しているつもりだが、体がついてこない。目の前に広がる壁を乗り越えられるのか、自信が揺らぎ始めていた。


手にしたエペの重さが、いつもよりずっしりと感じられる。


心の声:(俺の剣は、どこに向かうべきなんだ?)


彼は息をついて、再び剣を構えた。明かりの消えた体育館の中、静かな夜の空気に包まれて、レオは再び一歩を踏み出す。



静まり返った体育館の隅に、ひっそりと立つ人物――ナショナルチームの元主将で、今はコーチ補佐を務める青年。


彼はレオの練習をじっと見守り、しばらく何も言わずにその姿を観察していた。


レオが壁に当たった剣を振り直し、再び動き始めた瞬間、その青年が静かに歩み寄る。


青年:「面白い剣だな。……お前、本当に世界を見たいか?」


その問いに、レオは驚いて顔を上げる。青年の瞳には、試すような鋭い光が宿っていた。


レオは言葉を探しながらも、ただ黙ってその目を見つめる。心の中で、次第に大きくなる決意の芽生えを感じていた。



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