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剣の誓いは時を超えて 〜騎士、フェンシングで世界を制す〜  作者: 南蛇井


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16/33

騎士か、選手か

大会二日目の朝。

準決勝の組み合わせが貼り出された瞬間、控室の空気が一段引き締まった。相手は全国でも名の知れた強豪――名簿にその名を見つけた瞬間、レオの胸に小さな棘が刺さる。


ストレッチを始めても、筋肉は温まる前に固まっていくような感覚。視線は落ち着かず、周囲を彷徨うばかりで、動きにも集中できない。


ふと視線を向ければ、他校の選手たちはそれぞれ仲間や監督と短く言葉を交わし、頷き合い、静かにコートへ歩みを進めていた。

その背中は迷いなく、目はただ一点、勝利だけを見据えている。


――なぜ、あんな顔ができる?

胸の奥で、ざわめきが消えなかった。



待機エリアのベンチに腰を下ろし、レオは進行中の試合をぼんやりと眺めていた。


コートの端で、一本を決めた選手が観客席に視線を向ける。そこには手を振る家族の姿――選手は一瞬、柔らかく笑みを浮かべ、すぐにまた戦う顔へと戻った。


別の選手は仲間と短く言葉を交わす。「次は必ず決める」――その声は小さいのに、強く響く。交わされた視線が、迷いを切り裂くように鋭く変わっていく。


(あいつら……誰もが、何かを背負って戦っている)

(俺は……何を背負っている?)


胸の奥で、言葉にならない空白が、じわりと広がっていった。



レオの視線は、コートの上で交錯する剣先を追いながらも、どこか遠くを見ていた。


脳裏に浮かぶのは、土煙と血の匂いが満ちたあの日々。

仲間の背を守り、民を逃がすために、何度も刃を振るった戦場――そこでは理由など考えるまでもなかった。ただ、生き残るため、守るために剣を振るう。それがすべてだった。


だが今、目の前にあるのは、整然と敷かれたコートと、審判の声、拍手の音。

守るべき村も、命を賭ける仲間もいない。


(戦場では勝てた……)

(だが今は、なぜ勝てない? 何のために、この剣を振っている?)


手の中のエペが、まるで問い返すように重く感じられた。



夕方の道場は、窓から差し込む橙色の光で静かに染まっていた。

練習を終え、レオは無言でエペを布で拭い、鞘袋へと納めていた。


背後から、軽い足音。

振り返る前に、低く冷ややかな声が落ちてくる。


「――勝ちたい理由がないなら、俺に勝てない」


伏見蓮だった。

その瞳は笑っておらず、剣先よりも鋭くレオを射抜いてくる。


「理由……?」

思わず繰り返す声は、わずかに揺れていた。


蓮は視線を逸らさず、ゆっくりと言葉を重ねる。

「剣の速さも、力も……もしかしたらお前の方が上だ。でもな、勝ちたいっていう執念がない奴には、絶対に負けない」


それだけ告げると、蓮はレオの返事を待たず、エペを担いで背を向けた。

その背中は、まるで次の試合にすでに向かっているかのように、迷いがなかった。


レオは言葉を探したが、何も出てこない。

ただ、その背中が夕日の中に溶けていくのを、黙って見送るしかなかった。


道場にはもう誰もいない。

窓の外では夕焼けが終わり、群青色の夜が静かに広がっていた。


レオは片付けを終えても、エペを手放さなかった。

手のひらに伝わる冷たい金属の感触が、やけに重く感じられる。


(――騎士としての剣か、選手としての剣か)


心の奥底でその問いが何度も反響する。

戦場で振った剣と、今ここで握る剣。

同じ形をしているはずなのに、その意味は遠く離れている気がした。


答えは出ない。

ただ、沈黙と夜の気配だけが、彼を包み込む。


そしてレオは、握ったエペをゆっくりと見下ろしながら、深く息を吐いた。

答えのない問いを胸に抱えたまま――夜の静寂へと沈んでいった。



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