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剣の誓いは時を超えて 〜騎士、フェンシングで世界を制す〜  作者: 南蛇井


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部活の変化と目標

放課後の体育館に響くのは、踏み込みの音とマスク越しの息づかいだけになった。

以前は笑い声や私語が混じっていた練習場が、今は張り詰めた空気に支配されている。


新入り――レオの存在が、その変化の理由だ。


誰もが彼を意識する。

「負けたくない」その一心で、突きの速度も、フットワークも、視線までも研ぎ澄まされていく。


試合形式の練習で彼に一本を奪われた者は、翌日の練習で必ず倍返しを狙う。

部活全体が、ひとつの獣のように目覚め始めていた。


キャプテンがホワイトボードに新しい練習メニューを書き出した瞬間、部員たちの表情が変わった。


「持久走、ダッシュ、間髪入れずの連続突き。……反応速度は、これまでの倍だ」


その声には、容赦のない決意が宿っている。

従来の型練習や基礎打ちは減り、対人戦の時間が大幅に増えた。

間合いを読む練習や、心理的な揺さぶりをかける稽古――まるで戦場を再現するかのような実戦形式が主流になっていく。


レオの異質な感覚を攻略するため、部員たちは互いに牙を剥き合う。

息が詰まるほどの駆け引きの中で、フェンシング部は日に日に「戦う集団」へと変貌していった。


蓮は放課後の道場で、一人ビデオを巻き戻しては再生していた。

画面の中で、海外の選手たちが荒々しく、時に予測不能な動きで剣を交えている。

その軌道は、美しさよりも「勝つための必然」に満ちていた。


――ただの技術では、この男に届かない。

脳裏に浮かぶのは、レオの一撃。

あの刹那の鋭さは、型やフォームの枠を軽々と超えていた。


蓮はふっと笑い、木刀を握り直す。

古典剣術の型を繰り返し、体に激情を呼び戻す。

足裏の感覚、握りの圧、呼吸の間隔――すべてが研ぎ澄まされていく。


「舞うだけの剣は、今日で終わりだ」


鏡の中の自分にそう告げた瞳は、かつての技巧派ではなく、獣の光を宿していた。


県内でも名の通った強豪校との練習試合。

数か月前なら、善戦するのが精一杯――それが今では、互角どころか勝ち越す場面すら増えていた。


観客席代わりのベンチから、部員たちの歓声が飛ぶ。

一本、また一本と奪い合う攻防。

とりわけ注目を集めるのは、やはりレオと蓮の手合わせだ。


金属音が鋭く響き、剣先が一瞬交錯――審判の「アレ!」の声と同時にライトが点く。

今日は蓮が先に一本奪った。

だが次の瞬間、レオが鋭い踏み込みで取り返す。

まるで、互いの隙を待っていたかのような精密な応酬。


そのやり取りを見守る部員たちの目は、勝敗以上のものを求めて輝いていた。

「もっと強くなりたい」――その思いが、部内全体を満たしていた。

士気は過去最高。もはや、このチームはただの部活ではなく、本気で頂点を目指す集団へと変貌していた。


地区大会当日。

緊張感が漂う会場に、選手たちの剣先が光を反射して揺れる。


レオにとっては初めての公式戦。

だが、その表情は静かだった。

「一本取れば勝ち」――その感覚は、戦場でも変わらない。


初戦、終盤まで互角の攻防。

最後の一本は、相手の足運びがほんのわずか乱れた瞬間を突いた。

会場がどよめく中、レオは淡々と剣を下ろす。

以降も同じく、すべての試合をわずか一本差で勝ち切った。


蓮もまた、冷静かつ華麗な試合運びで全勝を積み重ねる。

彼の剣には以前にはなかった「迷いなき踏み込み」が宿っていた。


そして最終戦――チームは全勝で優勝を決め、インターハイ出場を確定。

表彰台の上で、キャプテンが小さくつぶやく。

「……ここからが本当の戦いだ」


その声に、レオも蓮も、静かにうなずいた。


地区大会の朝。

体育館の空気は、剣先のように研ぎ澄まされていた。


レオは初めての公式戦にもかかわらず、まるで古戦場に赴く兵士のように静かな眼差しをしている。

一本の価値が勝敗を分ける――その単純で残酷な事実は、彼の本能に馴染んでいた。


試合が始まれば、レオは迷わない。

相手の呼吸の乱れ、視線のわずかな逸れ、足裏の重心の移動――そのすべてを一瞬で読み取り、鋭い突きで仕留める。

結果、すべての試合を一本差で制した。まるで獲物を狩る狼のように、確実に。


一方、蓮はいつも通りの安定感と、かつてなかった攻めの鋭さを見せた。

流れるような攻防、決め所での踏み込み――そのすべてが洗練され、彼もまた全勝を収める。


最終戦が終わった瞬間、得点表には「全勝」の二文字。

会場が湧き、チームメイトたちが歓喜の声を上げる。


インターハイ出場――

それは、ただの目標ではなく、次なる戦場への切符だった。


打ち上げの夜。

焼き肉店の煙と笑い声が入り混じる中、キャプテンがグラスを掲げた。


「――次はインターハイだ。全国制覇、取りに行くぞ!」


部員たちの歓声が一斉に響く。

その熱気の中で、レオは黙って肉を噛みしめ、短く言葉を落とした。


「……もっと強い奴とやれるなら、悪くない」


その声は大きくない。

だが、その静かな響きに、場の空気が一瞬だけ引き締まる。


蓮は隣でグラスを傾け、口元をわずかに上げた。

「ふっ……面白くなってきたな」


二人の間に、目には見えない火花が散る。

インターハイ――それはただの大会ではなく、次なる“戦場”の始まりだった。



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