食べましょう?
おそるおそると言った様子で、ミアが席に腰を下ろした。
けれど、楽しいお茶会は再開しない。
アルバートの背後に、駆けつけた騎士が立っているからだ。
ミアは先ほどからちらちらと、その兵士の様子をうかがっている。
そうだよね、公爵家の嫡男に加えて、明らかにその護衛として私たちを監視している騎士だもんね。和やかな雰囲気なんて吹き飛ぶよね……。
「あの! よ、よ、よ、良かったらその、一緒に食べませんか……っ! 『えっぐたると』……っ!」
えぇ⁉︎ 思わず振り返って、騎士の顔を凝視してしまう。整った顔立ちの爽やかなイケメンさんだった。
「いえ、私は結構です」
「そ、そ、そ、そうですよね……」
秒速で断りを入れられて、ミアの肩がズンと落ち込む。タイミングの悪さがいたたまれない……。
「つまり、貴方の気になる人とは、エルダンのことだったのか?」
と思っていたら、アルバートが爆弾を投下した。
「アルバート様ぁ……⁉︎ そういうことは、はっきり言ってはダメです!」
「そうなのか?」
「そうなのです!」
あぁぁぁ、どうしよう! ミアははち切れんばかりに顔を真っ赤にさせているし、エルダンさんも……って、あれ?
「えっと、あの、エルダンさん、一緒にお茶します?」
「……いえ、結構です」
同じ返答が帰ってきたけれど、耳まで真っ赤だ。これって、もしかしてもしかしたりする?
そう思っていたら、アルバートが唐突にお茶のカップとエッグタルトを持って立ち上がった。藍色の瞳が私を見つめる。
「エルダン。こちらのセレスティア嬢と二人きりにしてくれないか?」
「⁉︎」
どきどきどきと心臓が爆音を奏でだす……って、違う、そういう意味じゃないの!
「わかりました」
同じく、自分の分を持って立ち上がる。
「あ、アルバート様が女性と二人きりでお茶を……⁉︎」
騎士が驚きの声をあげているけれど、アルバートの狙いはこちらの二人きりだろう。
「申し訳ないけれど、エルダンさんの分のお茶はミアさんが用意してあげてね?」
そう言って、下手くそなウィンクをして見せる。ミアさんは赤い顔でぷるぷると震えている。……大丈夫かな?
こうして、アルバートの後を追って、礼拝堂へと足を踏み入れる。居住スペースへの扉は当然開け放ったままだ。
長椅子に腰掛けたアルバートから少し距離を取り、腰を下ろした。
「ありがとうございます、アルバート様」
エルダンが椅子に腰掛けたのがうっすらと見えて、嬉しくなった私はそう言った。
「おれがあの場にいても、気まずいだろうからな」
うっすらと、やっぱりどこか寂しそうな顔でアルバートは言った。
気持ちがわかる……といえば、おこがましいだろう。
それでも、やっぱりわかるような気がした。男爵家だって、階級で言えば貴族だ。幼い頃から、私には友達がいなかった。母は出産と同時に命を落としたと告げられ、父には冷たくあたられた。
社交の場にはうまく馴染めず、ようやくできた婚約者のロデリックとはご覧の有様だ。
前世でも、立場の違いを感じることはあったけれど、これほど強烈な階級社会ではなかった。
この村にやってきたばかりの頃だって、村人達とは距離があった。勘当されていることを繰り返し説明したことと、シフォンケーキの力で、少しずつ距離が縮まった今でも、私の名前の後には必ず『さま』がつく。
「アルバート『様』」
外すことはできない。それでも、ほんの少しだけ座る距離を縮める。
「食べましょう? エッグタルト」
落ち込んだ時は、甘いものが一番だ。
うなづき、アルバートがエッグタルトを口に運ぶ。目尻が下がり、口元がほころぶ。隣で、私もエッグタルトを口に運んだ。
ザク、サク、と美味しい音を奏でながら、私たちは美味しい甘味を食べた。