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おまちかねのお茶の時間

「美味しそう〜〜〜〜!!!」


 焼き上がったばかりのエッグタルトからは、香ばしい良い香りがする。

 ミアと嬉しそうに、取り出したばかりの天板を眺めていたら、アルバートもやってきた。


「いい匂いだな」


 相変わらずの仏頂面だが、視線はじぃ〜とエッグタルトに注がれている。……私も食べたいけれど、クッキーを砕くの手伝ってくれたしな……。


「ミアさん……。私が土台を作ったエッグタルトだけれど、アルバート様に差し上げても良いかしら?」

「もちろんです! そもそも、セレスティアさまの物を使わせていただいていますし……。その上で言うのも申し訳ないんですが……あたしが作った分を一つ、セレスティアさまに食べていただけますか?」

「え! いいの⁉︎」

「はい! セレスティアさまに食べていただきたいんです……!」


 思わずぴょんと飛び跳ねてしまった。


「お茶の準備をするわね!」


 手際よくお茶を準備し、用意しておいたテーブルに人数分のティーカップを並べた。

 私が作った分をアルバートの前に。ミアが作った物を自分の前に置いた。……そういえば……。


「ミアさんは食べないの?」

「えっと……。出来れば二つ、プレゼントしたいと思いまして……」

「…………なるほど」


 これは、あれだな……。友人の家に、食べたい新作ケーキを持っていくやつ! あわよくばお茶の時間に出してもらえて一石二鳥だものね!


 今回は食い意地というより、気になる相手と一緒に時間を過ごせるかもしれないというのがポイントなのだろう。


 にやにやにまにましていると、ミアの頬がかあっと赤くなっていった。ミアは、女の私からみても、十二分に可愛い子だ。村の生活がそうさせるのか、快活そうな顔立ちで、……スラリと健康的な身体だ。

 恋が実るといいなぁ、と思いつつ、フォークを手に取る。


「じゃあ……悪いけれど、先にいただくわね?」

「はい! お願いします……!」


 グッと力を込めて、エッグタルトにフォークを突き刺す。タルトを砕き、良い感じに三角形を作り、口に運んだ。


「〜〜〜〜〜っ!」


 素朴な味わいのエッグタルトだ。卵のシンプルな美味しさが、柔らかいフィリングに閉じ込められていて、ザクザクのタルト部分との融合で、食感の楽しさを倍増させている。

 焦がしたクッキーからできたタルトだけあって、香ばしさとわずかな苦味が、花蜜の甘さと混じり合い、複雑な美味しさを出している。


「美味しいですね、アルバート様」

「あぁ……!」


 にっこりと、心底幸せそうな笑顔でアルバートは言った。不意打ちの笑顔に、思わずどきりとしてしまう。


「よ、良かったですーー……!」


 今まで、ずっと緊張していたのだろう。肩の力が抜けたらしく、ミアがふにゃけた笑顔で言った。


 和やかな雰囲気が広がり、楽しいお茶会が始まろうとしていた——と思ったら、ドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。

 え、え⁉︎ なに⁉︎


「ここにいらっしゃったんですか、アルバート様!!!」


 ……奥の居住スペースではあったが、やましいことがあると誤解されてはいけないから、部屋の扉は開けっぱなしにしていた。

 廃墟化しているとはいえ教会だから、入り口から入りやすかったのだろう。


 一人の騎士が、肩で息をしながら入室してきた。


「何だ。騒がしい」

「何だではありません! 朝の稽古に出かけてから、ずっとお帰りになられないので、探していたんですよ! いくら平和な時代とはいえ、護衛の一人もつけずに公爵家の嫡男が出歩かないでください!」


 ……………………え?


「ええええええぇ! こ、公爵様……⁉︎ し、し、し、失礼いたちっ……いたしました!」


 椅子から転げ落ちたミアが、土下座をし始めた。昨日、ミアはアルバートのことを偉い人だと言っていたが、周りの反応や態度で察していただけで、正確な身分などは何も知らなかったと言うことだろう。


 ぽかんと口を開けてしまった私は、その挙動をいっさい馬鹿にできない。

 男爵家どころか、ロデリックの伯爵家よりはるか格上……王族に限りなく近い貴族階級だ。


「席に戻れ」


 ミアを仏頂面で見下ろし、アルバートは言った。怒っているような表情と声だった。けれど私には、どこか寂しそうにも聞こえた。


「えっと……」


 戸惑ったまま、顔をあげたミアは、視線をおろおろさせて、最後に私を見つめた。うなづく。なんとなく、アルバートは、そうして欲しいのだろうと思った。


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