本性
待ち望んだクラウディアとの再会は、マダム・ローズに通い始めて3回目に訪れた。
「ようこそクラウディア様。今年もお誕生日のドレスの仕立てでしょうか?」
「ええ」
どこかつんとすましたその声は、間違いなくクラウディアのものだ。奥のソファに腰かけていた私は、慌てて立ち上がった。
「クラウディア様! 偶然ですね」
「…………セレスティア様」
クラウディアが、不愉快そうに目を細める。蛇が睨みつけてきた様なその瞳に、うっと足がすくむ。
「ええと、この間の婚約発表のパーティーでも、こちらにドレスを仕立ててもらったものですから、次は結婚式のパーティーを仕立てにこちらに……」
なんだか言葉を吐けば吐くほど、言い訳みたいになっていく。実際、言い訳なんだけれど。
しどろもどろの口調が疑わしいのか、クラウディアの瞳は、ますます冷えたものになっていった。
「そうなのですね。すみませんが、わたくしは急用を思い出しましたのでこれで……」
「ちょっと待って! 私、あなたと話がしたくて!」
「…………何のお話でしょうか? わたくしは、貴方と話すことなどないのですか」
「何と言ったら良いのかしら……。
クラウディア様、何か、強い心労を抱えていらっしゃいませんか? 私も昔、同じ症状だったのですが、時折、まぶたが痙攣しているようですから……」
おそるおそる私が切り出すと、クラウディアは一瞬、虚を疲れた様な表情を見せた。けれども、すぐに姿勢を引き締めて、いつもと同じ凛々しい表情を見せた。
「……いえ、そんなことは」
「本当に……? 差し出がましいとは思うけれど、私にもすごく苦しくて悩んでいる時期があって……。悩みは、吐き出すだけでも楽になると言うし、もしよかったら、貴方の力になりたいの」
「……わたくし、これでもう、失礼いたしますわ。先ほども言いましたが、急用を思い出しましたので」
言って、クラウディアは踵を返して、マダム・ローズから出て行った。
「あ、待って!」
私は慌てて、クラウディアの後を追った。「お待ちください、セレスティア様!」マリーの慌てた声が聞こえるが、止まれない。クラウディアときちんと話したくて、マダム・ローズで待ち伏せていたのだ。この機会を逃したら、彼女はもうこの店には近づかないだろう。
幸い、馬車を待機させてはいなかったらしい。石畳を歩くクラウディアの背中と、その従者の姿が見えた。
「待って、クラウディア!」
私は思わず手を伸ばし、その細腕をつかむ。振り返ったクラウディアは、まなじりを釣り上げて、見たことのない表情をしていた。
「んもーうう! しつこいんですよ、貴方! 悩み⁉︎ あるに決まってんじゃろうがボケェ!!」
それから、ハッとして、表情を引き締めた。
「…………」
「…………」
「…………あの、今の、見なかったことにしていただけませんこと?」




