クラウディアからの手紙
『セレスティア・アルトハイム様
先日は大変素晴らしいパーティーにご招待いただきまして、誠にありがとうございました。
是非とも交流を深めたく、茶会にお誘いいたします。
クラウディア・ローズウェル』
上質な紙に書かれた文言をもう一度読み直し、折りたたむ。
はぁとため息をつくと、馬車の向かいに座るマリーが呆れた声をあげた。
「それほど嫌ならば、お断りすればよかったのではないですか、セレスティア様」
「そうなんですけどね……」
ローズウェル家とは同じ男爵家同士であるし、社交のマナーとしては断りにくい。さらに、クラウディアの様子や態度には、気にかかることが多すぎた。
それに、バートン家には行きにくかったが、同封された日時の案内には、王都のローズウェル家での開催とあった。
場所は、モンフォール家とそれほど離れていないようだ。
「…………差し出がましいとは思いますが、セレスティア様とクラウディア様は複雑なお立場のはず。本来なら、顔も見たくないというのが本当ではないでしょうか?」
「知っているの?」
「社交界での噂になっていますから。そう言ったものに、メイドや使用人も詳しいものですよ。知らないのは、それこそアルバート様くらいのものではないでしょうか?」
なるほど……。言われて見てれば確かに、そういうものかもしれない。
「……まあ、あまりに気まずかったら、すぐにおいとましましょう」
「そうですね」
マリーがうなづく。そんな話をしている合間に、ローズウェル家に到着した。
「ようこそお越しくださいました、セレスティア様。どうぞこちらへ」
馬車を止めるとすぐに、正門に待ち構えていた執事の男性がやってきた。彼の案内に従い、屋敷の玄関へと向かう。
公爵家と比べると小さいが、十分に立派なお屋敷だ。執事さんが開いてくれた扉から玄関ホールに足を踏み入れると、クラウディアが待ち構えていた。
「お忙しい中ローズウェル邸にお越しいただきまして、ありがとうございます、セレスティア様。本日は天気も良いので、庭の一角で茶会をもうけさせて頂きましたわ」
「お誘い頂きありがとうございます、クラウディア様」
お互いにカーテシーをして、挨拶を終えると、庭へと案内された。
「わあ、すごい」
クラウディアのいう通り、今日はカラッとした心地の良い天気だ。それに加えて、案内された茶会の席は、見事な薔薇園のすぐそばだった。咲き誇った赤い薔薇だ。
「見事なものでしょう? 我がローズウェル家は、家紋にも薔薇をよういておりまして、薔薇には特別な思い入れがあるのです」
「名前にも入っていますものね」
私が指摘すると、クラウディアはくすりと笑った。
……あれ? なんか思ったよりも良い感じかも。
初回の印象は大きく外れることはなく、パンやチーズ、乾燥果実と共にハーブティーを楽しむ茶会は、薔薇の香りと共に穏やかに進行した。
天気や気候の話、王都や貴族の噂、流行のファッションなど、そつなく他愛もない話題を、クラウディアは最適なタイミングで振ってくれた。
「今度はぜひ、公爵家に招いていただきたいわ」
「あ、はい……」
別れ際の言葉に、思わずうなづく。もともと茶会は相互に開催するのがマナーだから、違和感はないけれど……。
「改めて、アルバート様にもご挨拶をさせてくださいね?」
クラウディアの瞳に、どこか歪なものを感じてしまうのは、なぜだろうか。




