表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/45

ハンドミキサー

 楽しみにしていたアイリスとの再会は、お預けとなった。

 約束していた3日を待たずに、荷物と手紙が届いたのだ。どうやら、立て込んでいた依頼とやらが落ち着かず、日本の話はいずれまた、とのことだ。


 がっかりした気持ちを抱えながらも、一緒に届いた荷物を開く。

 そこには、見覚えのある形状をした、一つの魔道具が収められていた。るんるんとした気持ちで、ハンドミキサーを持ち上げていると、背後からぬっとアルバートが顔を出した。


「それはなんだ、セレスティア」

「ハンドミキサーです! これは、すごいんですよ!」


 言いながら、スイッチをオン。すると、二つの小型な羽根の部分がくるくると……回らなかった。


「あれ?」


 カチ、カチと何度もスイッチを押してみるが、うんともすんとも言わない。


「かしてみろ」


 アルバートに手渡す。横から見たり、ひっくり返したりした後に、「魔石がないな」と呟いた。彼が指差す先を見てみると、確かに、小さな魔石をはめ込むことが出来そうなくぼみがある。

 

「なるほど……では、早速街に買いに」


 行きましょう、と立ち上がりかけた私の腕を、アルバートがつかむ。ハッとして振り返ると、アルバートは無表情で、掴んだ腕をふにふにともんでいた。


「…………あの、ちょっと恥ずかしいのでやめていただけると……」


 肉でたぽたぽなんだよ……。


「あ。すまん、つい」


 心なしか照れ臭そうな表情で手が離れる。口元に拳を持っていき、ごほんと咳払いをしてから、


「魔石ならおれの部屋にあるぞ」

「本当ですか!」

「ああ」


 そういえば、アルバートと出会ったのも魔物狩りの帰りだった。魔石は魔物から取れるのだから、アルバートが所持していてもおかしくない。


「では早速行きましょう!」

「ああ」


 ハンドミキサーをすぐに動かせる嬉しさで、るんるん気分で歩き出してから、ハタと気がつく。アルバートの……っていうか、男の人の私室に行くのって初めてじゃない……? 

 

 途端に、顔が熱くなってきた。赤みがかった頬がバレないよう、数歩遅れてアルバートの後に続く。私の客室からもほど近い、2階の一室がアルバートの部屋だった。


 アルバートが開けてくれた扉をくぐり、室内に足を踏み入れる。もちろん、扉は開けっ放しのままだ。


「わあ」


 アルバートの部屋は、彼の性格をそのまま表したような、質素剛実なものだった。


 大きな天蓋付きのベッドに、書斎机と椅子。壁にはいくつかの武器がかけてあって、そのいずれも大きく、価値がある品のように見えた。

 室内にはほこり1つなく、綺麗に整理整頓されている。


 アルバートは無言で机に向かい、引き出しから麻袋を取り出すと、無造作に中身を机にぶちまけた。

 大小様々な魔石が机を転がる。

 

「どれが良い?」


 緊張しすぎて、足音一つ立てないようにと思い、まるで盗賊か何かのように、そっと室内に足を踏み入れる。


 机の上に置かれた魔石を見下ろすと、赤、緑、紫、黄色と様々な色をしており、どれも宝石のように綺羅綺羅と輝いていた。


「綺麗…………」

「特別綺麗なものを取っておいているからな」

「え! つまりこれ……アルバートのコレクションってことですか?」

「まあ、そうなるのか?」

「だとしたらとても、頂けませんよ! 綺麗じゃなくなっちゃいますもの」


 魔石は消耗品だ。今は綺羅綺羅と輝いていても、ハンドミキサーを長く使っていれば、その魔力は(かげ)り、魔石はにごってしまう。

 なのに、アルバートはきょとんとして、


「別に構わない。もともと、魔物狩りのお礼にと渡されて、その後もなんとなく集めていただけだ」

「でも……」

「美味い菓子が作れるのだろう? ならこれは、セレスティアに使ってもらいたい」


 そう言って、アルバートは手頃な大きさの緑の魔石を手に取ると、私に差し出すように手を伸ばした。


「…………ありがとうございます」


 そっと魔石を受け取る。翡翠のように輝く緑の魔石は、今まで見たどの宝石よりも輝いて見えた。


「私、必ず、今までで一番、美味しいお菓子を作りますね!」

「楽しみにしている」


 フッと、アルバートが微笑んだ。お菓子を食べている時は違う嬉しさをにじませた、引き込まれるような笑顔だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
前回と同じ内容になってませんか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ