ミアへの手紙
『ミアへ
忙しい村の毎日の中、お手紙をくれてありがとう。
今朝、エルダンさんから手紙を受け取ったので、急いで返事を書いています。
早いもので、公爵家についてから一週間が経ちます。初めは戸惑っていたけれど、ダリア様も執事長のセバスチャンも、とても素敵な方達でした。
公爵閣下には会えていないけれど、きっと素敵な方だと思うわ。
最初は使用人やメイドさん達とは壁を感じていたのだけれど、マリー(仕事ができる優秀なメイドさんです!)に、私が作ったお菓子を配ってもらってから、嬉しい変化がありました。
「とても美味しかったです!」
「どうやって作るのですか?」
こんなふうに、感想を伝えてくれたり、笑顔で話しかけてくれるようになったの!
作ったのはチョコレートという、南方から取り寄せるカカオ豆を使った、甘苦いもので、食べたらきっと、ミアもびっくりすると思う。いつか食べさせてあげたいなぁ。
そうそう、びっくりと言えば、手紙を読んでびっくりしたけれど、ミアもお菓子作りを続けているのね!
質問があったあの花蜜は、シルフィラの木から採っていたの。群生地までの簡単な地図と採り方・作り方のコツを添えておくわね。
本当は養蜂でも出来れば良かったのだけれど、私は毎朝ちょっとずつ集めて、お菓子作りをしていたわ。
ところで、手紙を受け取った時に、エルダンさんとお話したのだけれど、ミアの手紙、とっても嬉しそうだったわ。二人の幸せを心より願っています。
セレスティアより』
筆を置き、書いた文章にさっと目を通す。二人のことに触れた後に、アルバートとの出来事も書こうかと思ったけれど、照れ臭くてやめてしまった。
庭園でベンチに座り、チョコレートを食べた翌日。
「あ。……その。おはようございます、…………アルバート」
「…………おはよう、セレスティア」
朝食室で顔をあわせた私たちは、お互いに、少しだけ気まずそうに、その名を口にした。
その後も、できるだけアルバートは時間を作り、私のそばにいてくれる。
最初こそぎこちなかったものの、名前を呼び捨てにするのも定着して、なんだか少し良い感じだ。
ダリア様もにこにこと微笑んで、「あらまあ」と笑っていた。
それともう一つ。
近況として、書こうか迷い、やめてしまったことがある。
「…………はぁ」
「またため息ですか? セレスティア様」
ビクッと振り返ると、メイド服に身を包んだマリーが立っていた。いつの間に背後に! という驚きが、顔に出ていたのだろう。
マリーはどこか呆れた様子で、「ノックをしましたし、返事もされていましたよ」と口にした。どうやら、上の空のまま、入室を許可していたらしい。
「それほど、婚約発表パーティーが不安なのですね?」
「うっ」
「それほど緊張なさらずとも、大丈夫ですよ。アルバート様もダリア様も、セレスティア様には自然体でいて欲しいとおっしゃっていましたし。……もう少しお痩せになったほうが、見目麗しいとは存じますが」
悪気のないマリーの言葉が、ちくりと突き刺さる。
公爵家で開かれるパーティーだが、国の有力貴族達だけでなく、王族まで招いた盛大なものになるという。
伯爵家のバートン家では、パーティーが開かれる前に婚約破棄されてしまったし、開かれていたとしても規模も桁違いだっただろう。
アルバートやダリアは私を気遣って言ってくれているのだが、自然体でいろとは無理な話だ。
「まあ、今から不安になっても、仕方ないわよね」
考えても仕方がない。こういうことは、さっさと振り払うに限る。
それよりも、今日もパーティーに出す、美味しいお菓子の研究をするのだ。
「セレスティア様、今絶対、お菓子のこと考えていますよね。ダメですよ。今日は街に出て、パーティーに向けたドレスを選ぶのですから!」
「…………そうでした」
拳を握りしめ、マリーが言った。ずいぶんと気合いが入っているようだ。
お買い物に興味がないわけではない。むしろ、ショッピングは好きなほうだ。ただ、それが婚約パーティーに向けたものとなると、途端に不安が先行して、心の底から楽しもうという気持ちにはなれない。
「マリーにお任せください、セレスティア様! パーティー会場の誰よりも素敵に仕上げて見せますから」
そんな私の心情とは裏腹に、マリーは心底楽しそうな笑顔を浮かべて言った。
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
おかげさまで完結の目処が立ちましたので、
本日から1日3話(朝・昼・夕)のペースで投稿させていただきます。
金曜日の完結を目指しており、最終日は複数話投稿予定です。
皆様に最後まで楽しんでいただけるよう、物語の結末まで全力でお届けいたします。
最後までどうぞよろしくお願いいたします!




