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お宝発見⁉︎

 セバスチャンの運んでくれた3人分のお茶を味わってから、公爵夫人によるキッチンの案内が始まった。

 アルバートと、ダリアの侍女の方も2名、何も言わず、ほとんど足音も立てずについてくる。


 広い公爵邸の廊下を歩きながら、私はダリアに質問責めにされていた。


「アルバートとはどこでいつ出会ったの?」

「リゼル村で……一週間ほど前に……」

「好きなものはなあに?」

「甘味が好きです……!」

「そうなのね!」


 賑やかなダリアの言葉だが、いちいち裏があるのではと考えてしまう。

(貴族同士なら顔も見ない婚約も当たり前だが)婚約には早すぎるよなぁ……とか、(甘いものが好きなら)それだけ太ってるのも納得だよなぁ……とか、そんなことを思われているのではと勘繰ってしまう。


 ブルブルと首を振った。いけない。相手の考えを、こちらで勝手に考えてしまうのはよくないことだ。


「さあ、着いたわ。ここがキッチンよ。といっても、わたくしに案内できるのはここまでなのだけれど。もしかして、貴方は料理をなさるのかしら?」

「いえ、料理はあんまり……お菓子作りを少々……」

「あら、そうなの?」


 ダリアが唇を尖らせ、不思議そうに小首をかしげる。この世界では砂糖はとぼしく、お菓子という文化自体があまり発展していない。

 そのため、乾燥果物を作るのが趣味、というふうに取られたのだろう。


「中を見ても良いでしょうか?」

「ええもちろん。良いわよね?」


 私に笑顔で快諾したあと、キッチンにいた使用人たちに向けてダリアが言った。公爵夫人の言葉を断れるはずもなく、使用人たちは快諾してくれた。なるべく邪魔にならないように見ていかないとな……。


 入ってすぐに目に入ったのは、壁際に備え付けてある大きな箱だった。ガラス張りの棚のような形状なのだが、少し違う。正面に回ってみたところ、中には食材が収められているようだった。

 これは……まさか……。


「わあ! 冷蔵庫……!」


 使用人に許可をもらってから開いてみると、中からひんやりとした冷気が漂って来た。


「れいぞうこ?」


 と、アルバートが首をかしげる。しまった。この言葉ではないのか。そう考えて焦っていると、ダリアが驚いた顔をした。


「あなた、よく知っているわね! そうよ、これは冷蔵庫。アルバートが魔物狩りに出かけた後に買ったの。王都で話題の新製品なのよ。素敵でしょう〜」

「そうなんですね……!」


 この世界では電気の代わりに、魔物から取れる魔石を利用して魔道具が動いている。この棚にも、大きな魔石が付けられているのがみれた。

 

 ふむふむと冷蔵庫を眺めていた私の真横に、スッとアルバートが寄って来た。


「そんなにこれが気になるのか?」

「ええ! これがあれば、美味しいお菓子が作れますよ!」


 温度的にアイスクリームは厳しそうだが、ゼリーやムースなどは冷やさなければ作れない。


「暑い日にぴったりのひんやりつるんとした甘味……ぜひ、作ってみたいです!」

「ほう」


 まだ見ぬ甘味に想いを馳せているのだろう。アルバートがうっすらと笑みを浮かべた。


「あら。貴方の笑顔久しぶりに見たわね」

 

 ダリアが驚いたようにいう。


「……リゼル村でシフォンケーキを召し上がった時にも、団員の方がそんなふうに言っておられましたが……アルバート様は、そんなに笑わないのですか?」


 確かに頻度は少ないし、主に甘いものを食べている時だけど、そんなにいうほどかな? 素朴な疑問をぶつけると、ダリアは小さく目を見開いた。


「あらまあ。あなた、この娘といる時は結構笑うのかしら?」

「うるさい」


 子どもっぽいやりとりに、思わずくすりと笑ってしまうと、アルバートに視線を向けられた。無表情だが、何となく、照れているような気がする。

 

「さて、他には何が見たいかしら?」

「あ。食材を少々……」


 気になる。砂糖があるのかなーとか、すごく気になる。


「なら食糧庫(パントリー)ね。こっちよ!」


 ダリアの後に続き、キッチンに隣接されていたパントリーに足を踏み入れる。魔道具で灯りがつく。中は綺麗に整理整頓された棚が、壁一面に広がっていた。


「わあ〜〜! 粉がたくさん……! 香辛料もあるんですね……!」

「ええ。うちの料理は美味しいわよ」

「砂糖! 砂糖はありますか?」

「少しだけね」

「すごい!」

「よかったら見せてあげるわ」

「わあ、ありがとうございます!」


 ダリアのいう通り、貯蔵されていた砂糖はほんの少しだった。手のひら半分ほどの量だ。うう、流石の公爵家でもこれだけか……。ああでも、久しぶりに砂糖と同じ空間にいられるだけで嬉しいなぁ……。


 自分でも何を言っているかよく分からなくなって来たが、それだけ、この世界では砂糖は貴重なものなのである。


「ほかには何か……」


 砂糖をしっかりとしまい、戸棚に目を向ける。ふいに、床に無造作に投げ捨てられた大きな袋に気がついた。


「ダリア様、あれはなんですか?」

「ああ、あれはちょっと変わったものなのだけれど、使い道がなくて……勝手に見てもらって良いわよ」


 許可をいただいたので、しゃがみ込み袋の口を開いてみた。ダリアの口ぶりでは、大したものではなさそうだけれど……。


 開いた袋を覗き込み、大きく目を見開いた。


「えぇ!!! これって、もしかして……!」


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