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父のこと

「良かったのか?」

「何がです?」

「貴殿の父のことだ。怒鳴り声がずっと聞こえていた。勘当されたのも正当な扱いとは言い難い。あれで良かったのか?」


 確かに、公爵家に対して不当な扱いをしたとして、激しく父を、エドヴァルトを非難することは可能だろう。望めば、何らかの処罰を与えることも可能かもしれない。


「良いんです。……御父様は、可哀想な人なんです」


 私には、産まれた時から前世の記憶がある。だから、エドヴァルトのことを心の底から父とは思えないし……心の底から、悪い人間だとも思えない。


「私の御母様は、私を産まれてほどなく亡くなってしまいました。私を産むことがなければ、母は生きていたでしょう。御父様は、御母様を愛していらっしゃいましたから……」


 だから、私のことを見たくなかった。

 不器用な手つきでそっと私を撫でるたびに、涙をこぼし号泣していた。いつからか、私のもとを訪れる頻度は減り、エドヴァルトは仕事にのめり込むようになっていった。


 心を亡くすと書いて、忙しい。

 忙しいうちは、自分の心と向き合わなくて済む。忙しいうちは、苛々している自分を仕方ないと思える。忙しいうちは、自分が何かを成し遂げた気になれる。


「……その気持ちは、私にも、少しは分かりますから」


 前世でブラック企業に勤めていた頃、私の心は確実に死んでいた。死んでいることに気が付かないために、仕事をし続けていた。心のどこかでこのままではダメだと思っていたのに。


「あんな状態で、人に優しくできるはずがありません」


 そんな生活の中にも、私には甘味(スイーツ)があった。……けれど、エドヴァルトには? そう考えると、ゾッとするのだ。


 ふと、アルバートが手綱を操り、馬を止めた。


「? 大丈夫ですか?」


 アルトハイム家に寄ってくれたのも、本来の行程からは外れた行為だ。それほど急ぐわけではないからと、アルバートは言ってくれたけれど、王都への帰りが遅くなるのは考えものだろう。


 不意にアルバートが振り返った。その瞳が私を優しく見つめて、その左手がそっと私の頬に触れた。

「……あの、アルバート様?」

 

 心臓がとくとくと小さく脈打つ。頬が少しずつ熱くなっていく。アルバートは何も言わずに手を離し、再び手綱を握り馬が歩き始める。


 でも、私の心臓は、なかなか落ち着かなかった。


リゼル村編完結。次回から新章です!

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