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第一話 姫の目覚め

ある世界に、その少女はいた。少女は、人々と共に幸せに暮らしていた。

何もかもが平和だった。


だが、平穏は破られる。

狂気が運命を蝕む。


追う人々と逃げ惑う人々。悲鳴は黒い夜空へ呑み込まれていく。

少女は逃げ続けた。迫りくる悪意の塊から。

疲労で意識が朦朧とする中、最後に見えたのは、追いかけてきたであろう人影と、舞い降りた…白い…光…

―『…きて…ジュ…』


―…お母さん?


―『…よ…ルー…』


―…どうしたの?


―『…ルー…き…』


―…聞こえないよ?


―『ルージュ、起きて』



ルージュ「…っ!」


真っ白な肌と髪を持ち、血のように紅い瞳をした少女、ルージュは、壁も天井も、家具も真っ白な部屋の寝台で目を覚ます。

だが、そんなことよりも…


ルージュ(声が…体も!)


喉からは掠れたような音しか出せず、全身は動かない。

視界もすべてぼやけて見え、周りがどんななのか、一体自分はどうなっているのか確認することもできない。


ルージュ(ここは…、どこ?どうして私は…皆、は…)


その瞬間、まるで電撃のように、ルージュの脳内で記憶がフラッシュバックした。

撃たれていく街の人々。家族の悲鳴。守ってくれた唯一無二の親友。


そして、狂気に染まった恐ろしい形相の人間達。


自然と呼吸が荒くなる、動悸が早まっていく。

冷や汗で体中が蒸れていくのがわかる。恐怖で体が震える。

唇が戦慄く。瞼が焼けるように熱い。


ルージュ「ㇵァ、ㇵァ、ㇵァ」


ルージュの浅く、荒くなった呼吸が部屋に響く中。


ギィ。


ルージュ「っ!?」


突然の物音に、ルージュの体がビクッと震えた。

ルージュからは見えないが、恐らく部屋の扉が開いたのだろう。


???「…おや?目が覚めたのかい?」


ぼやけてはっきりと見えないが、誰かが顔を覗き込んでいる。


ルージュ「…ぁ…ぅ…」


喋ろうとするが、口をパクパクして言葉にならない言葉しか出ない。


???「ああ…ごめんね。…これでどうかな?」


ルージュ「えっと、どういう…!?」


急に喋れるようになったうえに、目の前にいる白髪の子供の顔もはっきり見える。


???「まずは初めまして。そしておはよう。」


ルージュがベッドから体を起こす。

驚いたことに、先程まで動かなかったはずの体が動き、ぼんやりしかけていた意識もはっきりしている。


ルージュ「は、はい。初めまして…その、あなたは?」


???「僕?僕の名は…そうだな…、ゼノン。僕の名はゼノン。君達で言うところの神様って感じかな。よろしく。」


そうだな、という言葉にルージュは少し引っかかったが、穏やかな口調で述べられた自己紹介の中に不穏な言葉が…?


ルージュ「え!?か、神様!?」


ゼノン「ああ、でも気にしなくていいよ。そんな風に堅くならなくていいから。」


自称神様を名乗る、性別もわからない謎の白髪の子供。

だが、先端が若干水色で渦巻きを彷彿させる長いぼさぼさ髪と、白い肌に白いぶかぶかの半袖半ズボンという、まるで外に出たこともない子供のような見た目をしているのだから、怪しいことこの上ない。


ルージュ「は、はぁ…」


ただし、それはもしもルージュが、その容姿と似た人物を見たことが無かったとしたならば、の話だが。


ルージュ「私はルージュ、ルージュ・ブラッドと言います。…あの、その…、」


グゥゥゥゥ。


ゼノン「…もしかしてお腹空いた?」


ゼノンは目を合わせて言っているつもりかもしれないが、ルージュからはゼノンの前髪で目が見えない。

そしてルージュは恥ずかしくて顔も合わせられない。


ルージュ「…はい////」


ゼノン「じゃあ」


ゼノンがベッドに腰かけ服を下ろし、きめ細やかな肌を、肩を見せる。


ゼノン「どうぞ」


ルージュ「あ、は、はい、…それでは////」


ルージュにとっては久々の食事。ただし何だか恥ずかしい気がする。


ルージュ「カプッ…えーっと、ありがとうございます…あの、どうして私が吸血鬼だと?」


ゼノン「勘」


立ち上がり服を戻しながらながら、間髪入れずゼノンは答える。

あまりの返答の速さに絶句してしまうルージュ。


ルージュ「勘…」


ゼノン「それでルージュ?聞きたいことがあったんじゃないの?」


まるでルージュの行動を先読みするかのようにゼノンが聞く。


ルージュ「それでは、その…、」


“私の住んでいた、あの街は?”


その言葉を聞き、ゼノンの微笑みが薄くなる。


ゼノン「…信じられないと思うが、言おう。あの街は、世界ごと、消えて無くなった。」


ルージュ「…え?」


告げられた言葉にもう一度絶句するルージュ。

二人の間に静寂という壁が生まれる。


ルージュ「…世界、ごと…そう…ですか。そう、なんですね…」


悲しそうな表情になりながらも、ルージュは取り繕うかのように笑みを浮かべる。


ルージュ「教えてくれてありがとうございます。…でも、これから…私、は…」


ゼノン「…提案だけどさ」


ルージュ「?」


ゼノンが口を開く。


ゼノン「一緒に旅に出ないかい?」


ルージュ「旅、ですか?」


知り合ってまだすぐの子供からの、旅の申し出。

だが自然とルージュは怪しいとは思はなかった。むしろゼノンと一緒に話していて安心感があった。

“旅”という単語を聞き、胸が高鳴る。

だが、まだ、世界が消えたという事実が受け入れられない。


ゼノン「“世界”を渡る旅。異世界の旅。どうかな?」


自分の住んでいた世界が、思い出の場所がもう消えていることが強く悲しい。

それでも、ルージュは見てみたかった。

今までで見たことのない景色。一体どんな光景が旅先で待っているのか。


ルージュ「ごめんなさい、少し考えさせて下さい…」


ゼノン「…いくらでも待つよ。君の決心が着くまで。」


ルージュは思い出そうとした。

輝かしい日々。

そして、反対に、蘇る悪夢。

人々の血走った瞳。

そこに映っているのは、襲われるだけの無力な自分…。

あの時、全てを失ったルージュにとって、それは大きなトラウマである。


強くなりたい。

ただ、それだけを思う。

そのためにも…


ルージュ「…私は、強くなりたい⋯です。もう、これ以上大切なものを失わないために…」


ゼノン「…」

ゼノンは黙って聞いた。

彼女の熱意を、受け止めて。


ルージュ「もっと、いろんなものを見て、もっと強くなりたい、です。だから行きます!いいえ、私も連れて行って下さい!」


ゼノン「よかった。早速皆を呼ぼう。まずはついてきて」


朗らかに笑い、ゼノンが扉に向かって歩き出す。ルージュもベッドから立ち上がり、ゼノンの後を追いかけた。



ルージュ「ここは、一体?」


ゼノンの後ろをついてきながら、ルージュは真っ白な寝室を出た。

その外の廊下は先が見えないほど続いており、扉と思わしきものがいくつも見える。


ゼノン「ここだよ。」


そう言ってゼノンは部屋から最も近い扉を指した。

ゼノンと一緒に部屋に入り、置かれてあった椅子に座る。


ゼノン「廊下とその他の部屋を含めて、この空間は僕の『神界』ってところかな。」


ルージュ「すごく広いですね。」


ゼノン「そうかな?僕は意外と狭いと思うけどな。」


???「おいゼノ!まだ皆はそ、ろ…」


二人が話しているところに少女が扉を強めに開け、入り込んできた。


???「お、メーフィスも戻っ、て…」


更に入ってきた好青年もメーフィスと呼ばれた美少女とともに、ルージュを凝視している。


メーフィス「…ゼノン、起きた、のか?」


メーフィスがおもむろに聞く。


ゼノン「そう。さっきね」


メーフィス「…なるほど」


メーフィスがルージュに歩み寄る。


メーフィス「妾の名はメーフィス。よろしく。」


青年もメーフィスの隣に歩み出る。


???「俺の名前はランドラ。よろしく。」


ルージュ「私の名前はルージュと言います。よろしくお願いします。」


まさに歓迎といった自己紹介を、ルージュがペコリとお辞儀で返す。


???「あら?もしかしてその子…」


ルージュが丁度頭を上げたタイミングで、美女が入ってくる。ランドラと同じくらいの背丈があるように感じる。


ルージュ「ルージュと言います。」


???「ええ、聞いていたわ。私の名前はパルトよ。よろしくね。」


とてもよく透き通ったソプラノボイスで自己紹介を終える、パルトと名乗る妖艶な美女。

同性であるはずのルージュが見惚れてしまいそうなほど、動作が綺麗だ。


ゼノン「あとはグレイだけど…」


???「呼んだか?」


更に青年が入ってくる。こちらはランドラとは違う、寡黙な美青年といった風貌をしている。


???「俺の名はグレイという。ルージュ、よろしく」


ルージュ「よ、よろしくお願いします。」


いつの間にか距離が迫っていることに驚き、少し詰まってしまうルージュ。

ルージュは今来た4人を見て、ゼノンと共通点があることに気が付いた。髪の色が先端も水色なことも含めてゼノンと同じなのである。


ゼノン「自己紹介も済んだし、行こうか。」


ゼノンが指で部屋の壁を指した瞬間、空間が歪み、森のどこかを水晶で映したような緑の景色が見える。


メーフィス「いいのか?ルージュは…」


そういいつつ、メーフィスはルージュの服装を見ている。

ルージュの今の服装は、赤と黒を基調としたショートドレス。旅に向いた服装とは言えない。


ゼノン「大丈夫。だろ?」


メーフィス「うーむ…わかった。」


まさに説得は不可能という空気に渋々と頷くしかないメーフィス。


かくいうメーフィスの服も、まさしくお嬢様といった感じだ。

グレイはルージュのいた世界とは無縁の、着物に刀というまるで典型的な侍のイメージを体現したような装い、パルトの服装は女王や女神という印象が合いそうな丈の長い白のドレスで、いかにも旅向きではない。

ただしランドラだけは、白の胸当てに動きやすそうな黒のインナーという戦士のような恰好をしている。


ゼノン「さぁ、行こう。」


そう言ってルージュの手を取り、歪んだ景色へと、ルージュと倒れるように引き込んだ。


ルージュ「わっ、あぁぁ」


ルージュの消えゆく声を聞きながら、ゼノンに続くようにして四人が入り込み、歪みは消えた。



誰も居なくなった部屋で、一人の少女が姿を現した。

その容姿は、どことなくゼノンに似ているが、ゼノンよりも、床に付きそうなほどに髪が長い。


???「…行っちゃった。見送りたかったな。」


そう言い、ゼノン達が消えた空間を見ながら、静かに微笑んだ。

この作品をお手に取って最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

初めまして、シロマルです。

今までずっと抱いていた世界をぶつけられる機会と場所を探し、「小説家になろう」に着きました。

一話一話の文の長さをどうするか迷いましたが、とりあえず場面の様子がよく伝わり、読み手にとって想像しやすいように、どうまとめたら良いかを考えながら書いてみました。

物語の感想や、書き方へのアドバイスなど、自由な感想をお待ちしております。

それではまた、次の物語でお会いしましょう。

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