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第9話 開戦!大阪夏の陣

 家康としては、このまま豊臣家を存続させるという気もありつつ、政には介入できない程にその地位を落としたいと言う思いがあった。

 その葛藤の表れが、秀吉公の息子秀頼、もっと言えばその母君である淀殿へと提示し要求した武力、及び城の解放だ。


 昨年冬の騒動後の和議においても、同じ想いで下知した事ではある。

 が、此度このようにあからさまな反逆行為に出た事は、その背景を考えれば想定の範囲内である。

 しかも、その裏にある、かつて感じた不穏な気配を考慮すれば尚更だと家康は嘆息したものだ。


 とはいえ、事態はもはや引き返す事などできない所まで来てしまった。

 現状、この日本の国を二分している勢力の衝突。

 戦国の世と言われた頃よりは安定しているように見えている今でも、その余波、影響は続いている。

 これで終わりにすべきだと、家康も気を引き締め決断した。

 いよいよ徳川勢は豊臣家へと襲撃をかける時がきたのだ。


 そして、そんな人間同士の争いを俯瞰しつつも、一つの事柄にのみ注意を払っている、この世に非ざる存在。

 武蔵と伊織は、結局家康と行動を共にし、この戦に参加する事にしたのだ。

 武蔵としては嫌と言うほど見てきた戦と言う現実。

 伊織にとっては初めて見る人間同士の殺し合い。

 視点は違えど、見るであろう光景、そして背景は同じであり、その先にある目的も同じだ。

 武蔵と伊織とエイルの3人は、家康が居る本陣に組み入れられた。

 ただ、その実は遊撃隊としてどの軍勢にも属していない点で異色とも言えるが、乱派衆もその性質は近似している。

 故に3人の御付きとして半蔵配下の忍びの者が同行する事になった。

 その随伴者を見た途端、エイルの表情が険しいものになった。


 「拙者、百地三太夫と申します。武蔵様、伊織様付きとして同行いたします故、何卒よろしくお願いします。」

 「よろしく頼む、とはいえ、儂らについてこれるのか?」

 「……善処します。」

 「百地さん、くノ一っていうやつですね?」

 「はい。特に頭領からは伊織様を何としてもお守りせよと仰せつかっております。」


 百地三太夫と名乗る女忍者は、そう言うとエイルを見て何かを察した様だ。


 「エイル様、あの……」

 「何だ?」

 「邪魔だては致しませんのでご安心を……」


 そう言われて頬を赤らめたエイル。

 それを否定もできず肯定することも憚られる状況に言葉が見つからず、ただ一言


 「う、うん。」


 とだけ答えたのだった。





 5月5日、家康の幕府軍本陣は京都を出発した。

 これに先立って、幕府軍先鋒勢はすでに京を発し大和路、河内路に分かれて南下している。

 武蔵と伊織は、その先鋒隊である水野の軍勢と行動を共にした。


 家康の軍勢は、現時点で豊臣方の倍の戦力である。

 この軍勢を二手に分け、枚方方面と奈良方面から大阪城を目指すとし、家康は奈良方面、いわゆる大和路から明神山を挟んで西進していく。

 

 既に幕府方を迎え撃つべく、豊臣勢は大阪城を出発し、柏原あたりを目指しているとの情報だった。

 その先鋒は、後藤又兵衛率いるおよそ6千の兵との事だ。


 「又兵衛、か……」

 「三太夫殿、知り合いか?」

 「いえ、見知りはしていますが知り合いとまでは。ただ、彼の者は軍師としても優秀で自身の強さもありながら、情に信に厚い優秀な武将との事です。」

 「と言う事は、秀頼に忠心を誓っている、と。」

 「恐らくは。それ故、激突は免れないかと。」


 その話を聞いて、伊織は考える。

 君主に忠誠を誓い身を捧げる、というのは理解できる。

 でも、その君主の行動そのものが理に適っていない、あるいは時世に反発しているとした時、その忠臣はどう思うんだろう、と。


 聞いた話でしかないが、過去、数多の同様な事柄が連綿と続いていて、時に主君に殉ずる事こそ誉とされた時も多々あったと聞いた。

 それはそれで崇高な志だとは思う。

 でも、だ。

 聞く限りでは豊臣方の所業は単なる家柄の堅持がその目的ではないと思った。

 それは、あくまで家康から聞いた一方の話でしかないが、それでも客観視すると整合性が取れていない事柄が多すぎる。

 唯一、考えられる根本的な原因としてはやはり……


 「父上、俺、先行して見てきたいと思います。」

 「豊臣の先遣隊をか?」

 「はい。あ、発見されないように注意はします。何というか、見てくる事が必要なのではって気が……」

 「ふむぅ…三太夫殿、どうであろうか。」

 「申し上げますが、お館様の意向と作戦に影響がでるのは少し如何なものかと。」

 「そこは大丈夫、だと思います三太夫様。見るだけですので。」


 食い下がる伊織の、何とも言えない圧を受け三太夫は渋々許可を出した。

 ただ、三太夫も思うのだ。

 伊織がこれほどまでに“見て確認する”という重要性は、この度の戦に置いては重要なのではないか、と。

 

 「ただの戦ではない。」


 とは半蔵、そして家康がポロっとこぼした言葉だ。

 そこに、何か含まれた事実が隠れている、と、忍びであり現実主義の三太夫が抱く疑問でもあったのだ。


 「俺一人で行きます。」

 「ダメ、伊織。」

 「へ?」

 「私も一緒。じゃないと、危険。」


 伊織の袖をぎゅっと握り、険しい目でエイルはそう訴える。

 エイルも何か気になる事があるのだろうか、とも思ったのだが、少し違っていた。


 「私達は身を暈す術が使える。それなら見敵されない。」

 「そうなの?」

 「うん。だから、一緒に行く。」

 「わかった。ありがとうエイルさん。」

 「エイル殿、すまぬな。頼んだ。」

 「まかせて。」

 「えーっと、身を暈す術?」


 伊織とエイルは、先鋒隊から突出し、いわゆる偵察行動を取ったのだ。

 それを聞いた先鋒大将の水野勝成は呆れた様子だった。


 「あー、まぁええけどな。しゃーけど何かあったらお館様にど叱られるの儂やないかい!」


 そうは言いつつも、武蔵達の只ならぬ気配を察していた水野は、半ばその情報収集に期待をしていたとは後で語った言葉だった。

 


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