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第52話 西よりの使者

 ムサシがジパングに戻ってから、魔法の錬成に勤しむこと早2か月。

 ジパングの兵の中に、魔法を行使できる者が4人ほど誕生した。

 したのだが、実はその最中には魔術と混同してしまい命を落としそうになった者が数名居た。

 結局はムサシの手当てにより一命を取り留めたばかりか、後遺症も残らずに済んだようだ。

 その数名の中にフォスが居たのは何とも困ったものではあったのだが。


 「ま、結果として助かったのだ。それにムサシには何の責任もないからな。」

 「いや、本当に申し訳ありませんでしたムサシ様。私が軽率すぎでした……」

 「そう言われると……でも、無事でよかったです。それに怪我の功名っていうか副産物も手に入れられたし。」

 「結果的に、ではありますが……」


 既に知られている事ではあるが、改めて魔術を少しでも齧ったことがある者は絶対に魔法を修得しようとしない事、との厳命が下された。

 それによって魔法を操れる人間が極めて少なくなったとしても、だ。

 幸いにもフォスは助かったが、過去にはそれによって命を落としたものは全世界で3桁に届くのだそうだ。

 魔術と魔法の力の干渉、その現象自体不可避なのである。

 その為、ムサシがフォスにとった処置は、体内にある魔力と思しき要素を排出する事だった。

 “魔力”という要素の実感がないムサシだったが、ヴァーリオの補助があったことでできた処置だ。

 実はその行為そのものが、これまでに誰も成しえなかった事でもあるのだが、ムサシにもヴァーリオにもその認識はなかったようだ。


 「でもさ、フォスさんも術の威力や精度が格段に上がった訳だから、ね。」

 「そうだな。がしかしそれはフォスだったから、と言う事でもあるのだろう。他の者にこの事は言えぬな、マネされても困る故。」

 「他の者も無事だったから良かったんだけど、これは少し根深い問題ではあるよね?」

 「実際のところ、無意識のうちに魔術に触れてしまう者が少なからず居るというのが厄介ですね。」

 「ヴァーリオにもその判別はできぬのか?」

 「はい。実際に行使するところを見れば判別は容易でしょうけれど……

 実は、そうした診断といいますか、見分けられる術が無いわけではないのですが……」

 「ヴァーリオ、それってあの?」

 「はい。精霊様の力、です。」


 此度、魔法を行使できるようになった4名に関しては精霊との繋がりは無かった。

 そもそも精霊は人間を嫌っている節があり、人間の前に顕現することは極めて稀なのだと。

 その原因ははるか昔から続く人間への不信が根本にある、というのは精霊女王シヴァが言っていた事なのだとヴァーリオは言う。

 そのシヴァでさえ、人間の前に現れる事はまず有り得ないのだとか。

 

 そんな精霊の力を、人間の力の増強の為に借りると言う事は、そんな事情からしてまず不可能に近いというのが誰もが思う事だろう。


 「精霊……かぁ……」

 「ムサシ、君はその精霊というものは?」

 「ごめん、認識は全くない、かなぁ。

 今まで見たことも無いし、この世界に来て初めて聞いた事だよ。」

 「ふむぅ……どうしたものか……」

 「でしたら。」

 「うむ?」

 「ヴァーリオ?」

 「シヴァ様に相談してみるのも手かと思います。」

 「あ、いや、しかしそれは……」

 「そのシヴァ様には会う事自体はできるの?」

 「えーと、難しい事ではありますが不可能ではないと思います。

 事実として魔王様たちや龍王様たちはシヴァ様とはよくお会いになっておられると聞いています。」

 「じゃあ、魔王や龍王にお願いすれば可能性はあるってことだね。」

 「ならばだ。ゴリを通してお目通りする算段をつけるとしよう。時間はかかりそうではあるがな。

 ムサシ、それでだ。」

 「うん、わかったよリヒト。俺が行って話を聞いてくる。」



 こうして後日、ムサシは再び大陸へと渡りシヴァと謁見する事とした。

 そんな事もありつつ、ジパングで軍の錬成と魔法の訓練を続けていたある日のことだ。

 ラディアンス王国に駐在しているジパングの外交官、及びアリシア王国に常駐している監視員から連絡が来る。


 その連絡を受けたリヒトはすかさず重臣を集結しムサシとヴァーリオも呼ばれた。

 もたらされた情報は、リヒト達には信じられない事であったようだ。


 「これは少し、いや、かなりの大事ではあるな……」

 「殿、ラディアンス側は何と?」

 「周辺の各国は静観する他あるまい。

 ラディアンスとしても龍族と軋轢を生むのは得策ではないし、な。」

 「しかし、このままでは……」

 「魔族側はどうお考えなのでしょう。」

 「ゴリには直接聞くほかないであろうが、うーん……どうしたものか……」

 「えーと、ちょっと良い?」

 「どうしたムサシ?」

 「なぜ龍族は人間の村を襲ったの?」

 「それなのだが……」


 その情報とは、『龍族が人間の村を襲い壊滅させた』という話だった。

 そもそも龍族は魔族と違い人間との共存にそれほど積極的ではない。

 というのも、人間が龍族の支配地域であるロプロスという地に赴く事が殆ど無いからだ。


 デミアンからさらに北西へ進んだ所にあるロプロス領。

 活火山が複数存在し、人間が暮らすには適していない場所も多い。

 人間との交易自体もそれほどなく、言ってみればロプロスは大陸内では孤立した秘境といえる場所なのだ。


 とはいえ、その周辺地域には人間が暮らす集落も点在している。

 そこに暮らす人々は、地震などの天災において龍族に助けられる事が多く、むしろ龍族を神とまで称して崇めているくらいなのだとか。

 友好的ではないにせよ、そんなある種共存関係にあった龍族と周囲の村民の間に、何かがあった、と言う事なのだろう。


 と、そこに。


 「殿!魔王様がお越しに!」

 「なんだと!?直ぐに応接の間に通せ!」

 「ははッ!」


 やってきたのは魔王ゴライアスだった。

 リヒト、ムサシ、ヴァーリオ、そしてヒカリが応接の間へと入ってゆく。


 「ゴリ、歓迎するよ。」

 「リヒト……すまぬ、少し厄介ごとだ。」

 「龍族の事であるか。」

 「そうだ。」


 ゴライアスの表情はやや深刻な、それでいて本当に困ったような感じではあった。

 それはまるで仲の良い親友同士が喧嘩を始めてしまい、その間でどうすべきかを迷っているような感じだ。


 「ヴィーブルとも話はしたのだが、いかんせんあいつは一度怒りだすと、もう手が付けられないからなぁ……」

 「魔王様。」

 「おお、ムサシではないか。どうした?」

 「龍族と人間の間で、何が起こったのですか?」

 「うむ、そうだな、それが先であったな。

 実は……」


 ゴライアスの話は、魔族としては厄介極まりない、そして人間としては愚かではあるが仕方がない事でもある、そして龍族にとっては裏切り行為そのものという話だった。


 「村人が……龍族を……」

 「何てことを……」

 「それは龍族とて怒り心頭であろう、な……」


 事の発端は、ロプロスに一番近い人間の村での出来事だったという。

 村人が龍族の者数名を招いて酒宴を開いたそうだ。

 その席で、酔った勢いを理由に龍族の者に鱗をせがんだらしい。

 はじめは断っていたのだが、最後には涙を流しながら懇願する村人に根負けした感じで、自身の鱗数枚を与えたのだそうだ。


 「なぜ鱗を?」

 「それなんだがな、龍の鱗は貴重で高価な物という話が持ち上がったようでな、実際かなり高価で取引されたから、なんだそうだ。」

 「取り引き?」

 「その村ではな、元々助けてくれた龍が落とした鱗をご神体として祀っていたそうだ。

 そこにそんな話を持ち掛けられて、な。」

 「あ、いや、しかしそれだとしても……」

 「その村では天候不順もあって農作物も全滅していたらしくてな、村全体が困窮していたそうだ。」

 「農作物が……全滅?……」

 「一昨年までの蓄えはあったらしいが、それでも次の年まで暮らせる程あった訳ではないのだそうだ。おまけに…」

 「おまけに?」

 「事件の少し前に村人数名が失踪したとかでな、働き手も居なくなったそうだ。」

 「……」


 ゴライアスは、その当該村に近い似たような村でその話を聞いたのだそうだ。

 近隣の村でも同様であったらしく、龍の鱗の話はそんな村々に一気に広まったらしい。

 そして、決定的な事件が起こったという。


 「宴に招待され酔い潰れた龍族の者が、村人に惨殺され鱗を剝がされ遺棄されたのだよ。」

 「それって……」

 「なんと愚かな……」 

 「それが発覚してな、龍族は怒りに震えたのだそうだ。」

 「「「 …… 」」」


 ありえない話ではない、とリヒトもムサシもゴライアスも思う。

 ただ、この話には少し違和感もあった。


 そもそも、魔族と並び地上最強と言われる龍族の者を、酔って寝ていたとはいえ人間が殺める事などできるのだろうか、と。

 加えて、リヒトによれば龍の鱗自体の希少性は知られてはいるが、それを取り扱う者や市場は存在しないはずだった。

 何故なら、ダイヤモンドよりも硬いと言われ魔力耐性すら持つという龍の鱗を加工する技術が人間界に存在しないからだ。

 ともあれそれは即ち、龍族に対して敵意を表すと公言するようなものだから、というのが大きな理由だ。


 そんな希少価値のあるものを飢饉をしのぐほどの高価で売買すると言う事自体、これまでなかったことなのだ。

 そしてその買い取っていた国というのが


 「どうも、な。トレイトン王国が裏で何かしている可能性がある。

 手にした龍の鱗を持って、村人はトレイトンへと向かったという話だ。」

 「……」

 「トレイトン王国……」


 ともあれ、魔族としてもこの件は放置できないとして収束に向け色々画策しているという話だった。

 だが、怒りに燃えたヴィーブルは聞く耳を持たないという。

 そもそも、そんな状態にある龍王は本当に厄介なのだと、ゴライアスをして言わせる程なのだ。


 そしてこうしている今も、龍族による人間への復讐は続いていたのだった。



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