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第45話 魔力覚醒

 マオの先導で魔王城に入城し、魔王ゴライアスに謁見するムサシ。

 待っていたゴライアスは先日見た時とは違っていて、玉座に座っているだけなのに威厳というか覇気というか、魔王という存在そのものを体現していた。

 見る者全てが畏怖し、思わずひれ伏す事間違いない感じがする。

 するのだが。


 「よっくきたなムサシ!歓迎するぞ!」


 満面の笑みでそう言うゴライアス。

 厳つい姿に笑顔で言われると、何か別の意味で怖いと感じたムサシであった。


 「まぁ、堅い話はナシだ。長旅で疲れているだろうから今日はゆっくりと休むといい。」

 「はい、有難うございます。」

 「で、だ。これはワシからのお願いなんだが、嫌なら断っても良いんだけどな……」

 「お願い、ですか?」

 「うむ、明日、ワシとひとつ手合わせをしてくれぬか?」

 「魔王様と!?」

 「あー、お前のほうが強い事はもはやわかっている事なのだがな、その実力が実際どの程度なのかを推し量る必要もあるのだよ。」


 どういう事なんだろう、とムサシは思う。

 確かリヒトの所で話をした時にも、「ワシより強いのではないか?」とは言っていた。

 ただ、それだけを確認したいのか、あるいは手合わせする事で実力を測れるのだろうか。

 そんな事を思っていると


 「ムサシ様、ゴライアス様にはそういうスキルがあるんです。」

 「スキル?」

 「特殊な能力は既に俺に譲渡してもらったんだがな、そもそも親父には相手の実力を見極める特殊な能力があるんだよ。」

 「へぇー……」

 「どうだろうムサシ、受けてくれるか?」


 ムサシとしても、自分の実力がどの程度なのかは把握しきれていないというのもある。

 客観的に見てくれるのなら、それは一つの手だとも思う。

 ただ、あのように言ってはいるが、ゴライアスもマオもマミも、相当な強さを持っている事は間違いないだろう。

 そんなゴライアス相手に手合わせをして無事で居られるのだろうか、とも思ったようだ。

 もっとも、父武蔵を相手に修練してきたムサシが手合いで怪我をする訳もないのだが。

 ともあれ。


 「わかりました。お受けします。」

 「おお、無理を言ったみたいですまないな。では明日だな。」


 魔王への謁見が終わり、ムサシ達は別邸とやらへと案内された。

 別邸は魔王城から少し離れた所にあり、そこはこの後魔王となるマオの住居となる建物だ。


 「ここは自由に使ってもらって良い。使用人も気兼ねなくこき使って良いぞ。」

 「こき使うって……にしても、広い屋敷だね。何か申し訳ないなぁ……」

 「わははは、まぁ、数日もすれば慣れるであろうよ。」


 こうしてムサシとヴァーリオは別邸にて寛ぐ事にした。




 翌日。

 魔王城裏手にある練兵場へとやって来たムサシとヴァーリオ。

 広い闘技場のような感じの場所だ。

 そこにはムサシとヴァーリオ、ゴライアスとその妃なのだろうか、美しい夫人が5名ほど、そしてマオとマミの10名だけが居た。

 他の者は立ち入り禁止としたそうで、何でも魔王が手こずる姿を見せる訳にはいかないから、なんだとか。

 そうは言いつつも、練兵場の控室の窓からは多数の魔族の人達が覗いているのだが。


 練兵場の中央、半径100メートルはあるであろう舞台のような所で向かい合うムサシとゴライアス。

 ヴァーリオとマオ、マミはその円形の縁で立っていて、その横には5名の夫人も並んで立っている。


 「さて、ではやろうか。一応怪我などしないように武器は使わない、素手での試合だが良いか?」

 「はい。問題ありません。」

 「うむ、さすがだな。ではエオリア、号令は任せる。」

 「はい、あなた。ムサシ様も、準備ができたら言ってくださいませ。」

 「あ、俺はもう大丈夫です。」

 「ワシも良いぞ。」

 「では、コホン……始め!」


 号令一下、目にも止まらぬ速さでぶつかり合うゴライアスとムサシ。

 激しい激突の衝撃は練兵場をも揺るがしているのではないかと思える程だった。

 覗き見ている魔族の人達は、その衝撃だけで身震いするのだが、それは体だけじゃなく実際に地盤が揺れたのだ。

 お互いの攻撃はそれぞれ受けられ流され、特にゴライアスは急所を狙いつつ突きや蹴りを繰り出すのだが、ムサシはそれら全てを受け流している。

 

 「す、凄い……」

 「ムサシちゃん……凄すぎ……」

 「ムサシ様……」


 マオもマミもヴァーリオも、その攻防を見ているのだがそれだけで戦慄を覚えたようだ。

 魔王能力、つまり相手の能力を把握し、それを確実に上回る力を得る事ができる能力。

 それをマオに譲渡したので持たないにしても、ゴライアスのその実力は地上最強に変わりはないのだ。

 そんなゴライアスと互角、いや、間違いなく上回っていると思えるムサシ。

 いつしかゴライアスもムサシも、その攻防が楽しくなってきたようだ。

 

 そんな戦いの様子を、練兵場の監視塔から眺めている者が居た。


 「何とも……ゴリとあれだけ闘りあえる者が居たとはな。しかも、人間だと?」

 「そのようですね。とはいえ、人間にあれだけの力は無いと思いますけどね。」

 「恐ろしいな。あれは確実に私よりも強いぞ……」

 「ふふ、あなたより強いなんて、魔王様、いえ、今はマオとマミくらいでしょうけどね。」


 魔王と並び地上最強の名を冠する種族、龍族。

 その女王ヴィーヴルだった。

 たまたまゴライアスの妻のひとり、親友でもありマオとマミの実母でもあるサラと一緒に見ていたようだ。


 「うん?何か……様子が変わったか?」

 「あら……これは……」


 ヴィーブル達もマオ達も、その変化に気付いたようだ。

 そもそもゴライアスはムサシの計り知れない実力を前に、全身に魔力を纏い攻撃に乗せていた。

 それ程ムサシの攻防は厚かったのだ。

 拮抗しているようにも思える攻防は、実はすでにゴライアスは全力だった。

 片やムサシとしては、まだまだ真の力を発揮していない。

 そして。


 「こ、これは!」

 「魔王様、ごめん!」


 ゴライアスの攻撃を流れるように捌きながら、左肩へと掌底を繰り出したムサシ。

 素早い動きではあったが見えない程ではなく、その動きはゴライアスには見えているのだが対処する事が出来なかった。

 そして何より。

 掌底だけではない、ムサシの体全体に何某かの力が加わっていた。

 ゴライアスが避けられなかったのは、その力に驚いたからだ。


 左肩を掌底突きで居抜かれ、後方へと吹っ飛ぶゴライアス。

 なんとか転がることは止められたが、その場で膝を付いてしまった。


 「くッ!!」

 「あ!す!すみません!」

 「な…何とも凄まじいな……というかだ。」

 「魔王様、大丈夫ですか!?」

 「アホゥめ。手合いで相手の心配などするな。とはいえ、ワシやマオじゃなければ大怪我コースだなこれ……」


 こうして手合いは終了となった。

 ゴライアスの見立てによると、最後のムサシの攻撃には間違いなく魔力が加わっていた。

 しかし、だ。

 それ以外の力も伺い知れることができたとゴライアスは言う。

 精霊の力にも似た、しかし今までに感じた事のない力だと言う。


 「ふむ、ムサシよ。」

 「はい。」

 「お前のその実力なら、魔法は直ぐにでも習得できるだろうな。というかだ、お前が魔法という武器を得たら、どれだけの強さになるか未知数ではある気がする。」

 「親父、ムサシはまさか……」

 「あ、いや、確実な事は言えぬがな。お前のその魔力とは違う力、もしかすると、とは思うが。」

 「ムサシちゃん、すげー……」


 そんな様子を始終みていたヴィーブルは戦慄する。

 あの魔王と戦って圧倒的優位とも言える攻防をしたムサシに。


 「恐ろしい者もいたものだな……それに、たった今実力が変化したようにも見えたが……」

 「何某かの力に覚醒したのかも知れませんね。」

 「アレは敵に回すべきではない…のだろうな。」

 「ふふ、そうですね。」



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