第44話 秘められた力
ようやく辿り着いたデミアン王国の王城、魔王城の城下街。
結局マズダーとの邂逅以降、遅れを挽回する為不眠不休での旅路となった訳だが、ムサシ達はともかく、馬の負担が大きく疲弊させてしまったのは申し訳ないと思ったようだ。
魔王城のすぐ近くにあったサロンに着き下馬するや否や、馬たちには水と餌を与えつついたわる様に毛並みを繕ってあげている。
と、そこに
「わーッ!!ムサシちゃん!!」
「わわッ!って、マミさん?」
そういって脇目も振らずにムサシに飛び付くマミだった。
「おいおい、いきなり過ぎだぞマミ。というか、長旅ご苦労だったなムサシ、ヴァーリオ。」
「マオ様こんな所まで出迎えなんて、恐れ入ります。」
「わははは、良いって事さ。それより道中色々あったようだな。」
「はい。私もムサシ様も、それで少し遅くなってしまいました……」
「ま、無事なら良いさ。」
「というか、マミ様はどうしたのですか?」
「あー、うん、なんというか、ムサシが気に入ったようでな……」
「あ、なるほど……」
「なんだヴァーリオ、少し妬けるか?」
「えーと、まぁ……でも、仕方がありませんね。」
馬の手入れを終え、ムサシ達とマオ達はサロン店内に入って少し休む事にした。
まずは腹ごしらえ、という事でここで早めの昼食と相成った。
店内に入ると、店主らしき人というか魔族の人が奥の部屋へと案内した。
ここはいわゆるVIPルームというやつなのか、聞けば魔王城の重臣たちがよく利用する部屋なのだとか。
「ロクサブロウ、すまないが疲れを癒せるようなモノを頼むよ。」
「承知しましたマオ様。ではしばらくお待ちください。」
「あ、ロクさん、私はいつものアレも一緒にね!」
「はい、心得ておりますマミ様。」
そんなやり取りをして、ロクサブロウと呼ばれた者は下がっていった。
まずは、という事でキンキンに冷えたエールで乾杯となった。
「では遠路はるばる来てくれたムサシとヴァーリオに乾杯だ!」
「ムサシちゃんに乾杯!」
「あ、ありがとう、か、乾杯!」
「ふふふ、乾杯です!」
透明なジョッキになみなみと注がれたエールを流し込む4人。
ジョッキを空けたムサシは、初めて飲む感じのこのエールに驚いているようだ。
「ぷはー!!何コレ!?旨い!!」
「わははは!良い飲みっぷりだなムサシ。」
「マオさん、これって?」
「これはな、エールとは少し違うんだよ。ラガーと言ってな、醸造時の発酵方法が違うんだ。旨いだろ?」
「はい。初めて飲みましたよ。酸味が少なく苦味が強くて、何と言うか喉越しが気持ちいいですね。」
「実はこれはな、ジパングで教わったモノなんだよ。」
「ジパングで?」
「ああ、西方にもあるんだが、ジパングの造り方のほうが旨い。手間はかかるがな。」
「へぇー……」
「あ、それとだな。」
「はい?」
「ムサシ、俺の事はマオでいい。言葉使いも普通にしてくれると嬉しいぞ。」
「は、はい…じゃない、うん、わかったよ、マオ。」
「私の事はマミって呼んでね。同じく敬語は禁止よ。」
「わかり…わかったよ、マミ。」
「きゃー!ムサシちゃん!」
「これこれマミ、ビアーが零れるって。」
そんな感じで打ち解けた、と言うよりもマオとマミのフランクな接し方が何故か心地よく感じるムサシ。
ヴァーリオは黙って聞いていたが、その眼差しはどこか微笑ましいと思っているような優しい眼差しだったのが、ムサシには印象に残った。
「ところで、だ、ムサシ。」
「うん?」
「早速だが、お前は魔法を習得したいんだったな。」
「そうだね。というよりも、俺が何を扱っているのかの究明もしたいと思って。」
「扱っている?」
「うん。何て言うか、魔法とも魔術とも違う力だって言われた事が有ってさ、それが何かを知りたいんだ。」
「うーん、まさか古の妖術や神通力とかいうモノなのか?」
「それがね、解らないんだ。妖術に長けた人、というか存在にも違うって言われたし……」
「なるほどなぁ……」
「確かに、ですけれど、ムサシ様の使った術は魔力が感じられませんでした。でも、起こった現象はまんま魔法だったんです。」
「ヴァーリオでも不明なモノか……」
「まぁね!どっちにしてもさ、ムサシちゃんに魔法を教える事は決定だからね!私が手取り足取り教えるよ!」
「マミはこう見えて魔族の中でも最高最強の魔法の使い手だ。シヴァをも超える魔法特性を持っているんだよ。」
「シヴァ?」
「精霊女王だ。全てのエレメントを司る、怖い存在だよ。後で会う事になると思うがな。」
「へぇー……そういえば前に魔王様が言ってたな……」
「まぁ、とりあえずムサシの住居は別邸に用意した。後で案内するが、そこは自由に使ってよいぞ。」
「何なら私が一緒に!」
「マミ様、それはさすがに…」
「あ、そうか!ゴメンねヴァーリオ。」
そんな話をしている所で、料理が運ばれてきたようだ。
鼻腔をくすぐる、何とも言えない良い香りが漂う。
ロクサブロウという者が運んでくれた料理は……
「お待たせしました。」
「こ…これって!」
「これはジパングに古くから伝わる料理です。ジパングにおいてもそうそう食せるモノではないと自負しております。」
「……和食……」
「ムサシちゃん?」
出された料理を見て、少しこみ上げるものを感じたムサシ。
焼き魚に天ぷら、猪肉の生姜焼き、芋や椎茸の煮物、白菜の漬物、麦を混ぜた白米、豆腐とネギの味噌汁。
羽黒に居た時に、エイルが作ってくれたご飯そのままだった。
鼻の奥に少しばかりの痛みと目頭の熱さを覚えたムサシだが、何とか抑える事はできた。
が、その表情は何とも言えないものとなり、そんなムサシを見たマオやマミ、ヴァーリオも言葉を出す事ができなかったようだ。
「う…うん、美味しそうだ……い、いただきます!」
ムサシのその言葉で、皆が倣って「いただきます」と言うと、一口一口を噛みしめるように食べ始めた。
そんな様子をみていたロクサブロウも、どこか満足気な表情を浮かべていたのだった。
「ど、どうだムサシ、口に合うか?」
「うん!合うどころか、とっても美味しい!」
「ロクさん、ありがとうね。」
「喜んで頂いて、私どもも嬉しく思います。白米と味噌汁はお替り自由ですので気兼ねなくおっしゃってください。」
「ありがとうございます! うん、美味い……」
結局、ご飯を三合も平らげたムサシ。
大食漢でもあるマオも驚く健啖家ぶりだったようだ。




