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第39話 マオとマミ

 最強クラスと思われるモンスターを前に臨戦態勢で構えている3人。

 斬られたモンスターは声を上げる事なく、未だにその場に佇んでいる。

 

 「どうした、さっさと逃げろ。邪魔になる。」

 「……あ、いや、逃げろと言われても……」

 「うん?お前……」

 「あ、話は後で。ごめんだけど、あのモンスターっていうのは俺が仕留める。」

 「は?何をバカな!人間にアレが……って、お前、人間……なのか?」


 そんな話をしている真っ最中だった。

 瞬間移動とも思える程の速さで、モンスターはマオめがけて襲い掛かって来た。

 気づくのが遅れたマオに、モンスターの強靭な前足が振り下ろされようとした、まさにその刹那だった。

 同じように信じられない程の速さでムサシは突出しモンスターを蹴り飛ばそうとした。

 しかし。


 《伊織!触れてはダメ!》

 (くッ!わかった!!)


 ムサシは脇差で斬り倒す戦法へと変更し、居合い抜きのような動きでそのままモンスターを4分割して倒した。

 一刀両断、いや、二刀分断されたモンスターはその場で活動を停止したようだ。

 そんなムサシの動きを見ていたマオともう一人は、目の前の出来事に驚き固まるばかりであった。


 (母さん?触れてはダメって、いったい……)

 《……》


 ムサシに注意喚起した茨木童子の返事は無かった。

 もとより、そうそう簡単に茨木童子の魂が叫ぶ、あるいは語り掛けるという事はないはず。

 きっと、これ以上ない危機に精神が一瞬だけ繋がったのだろうかと、ムサシは思う。

 とはいえ、救われたと言えるのだろう、茨木童子に感謝を示したムサシだった。

 脇差を鞘に仕舞い、4分割されたモンスターを見ると、明らかに先のモンスターと違うと実感した。

 強さもさることながら、物体となったであろう今でも、何か嫌悪感の塊のような気を放出しているのだ。

 茨木童子が叫んだ“触れてはいけない”は、この禍々しい気の事なのだろう、と思う。


 「凄いなお前、人間技じゃないな……」

 「というかマオ、これ、処分しないと。」

 「あ、そうだったな。」

 「まぁ、私がやるわよ。」

 「そ、そうか。頼む。」


 そう言うと、女性の魔族の人は魔法、なのだろう、火の玉のようなものを物体へとぶつけてモンスターだったものは灰になり消滅した。

 あっけに取られているムサシに、マオが声を掛ける。


 「お前、最後まで処理しないとダメじゃないか。」

 「あ、え、いや、それがですね……」

 「というかだな、その強さはやはり人間ではない、と言う事なのか?」

 「えーっと、そこは少し複雑なんですが、ところで君達はいったい?」

 「ああ、そうだな、自己紹介しないとな。俺はマオ。魔族の王子だ。」

 「私はマミよ。マオの妹なの。貴方は?」

 「あ、俺はムサシと言います。」

 「おお!お前がムサシか!!」

 「ウチに来て魔法を勉強するってお父様が言ってたムサシ様!」

 「あ、はい。」


 どうやらゴライアスからその旨の話は聞いている様だった。

 というよりも、なぜここにその魔族の王子と王女が居るのかがわからないというのもあって、少し困惑気味ではあるムサシ。

 そこに人々の避難誘導を終えたヴァーリオが戻って来た。


 「ムサシ様、お見事です。って、マオ様とマミ様。」

 「おお、ヴァーリオではないか。そうか、ムサシと一緒か。」

 「あはは、はい。丁度そちらへとお邪魔する道中でした。」

 「ヴァーリオありがとう。というかやっぱり知り合いなんだね。」

 「はい。話せば長くなりますが、こちらのマミ様は私の魔法の師匠でもあるのです。」

 「あは、ヴァーリオまた一段と奇麗になっちゃったねー。」

 「ありがとうございます……」


 「ってことで、つまりムサシはウチに来て魔法を習得するんだったな。」

 「じゃあ、このまま一緒に行く?」

 「そうなのですが、エスト王国へも寄らないといけないので…」

 「そうなのか。」

 「マオ様、マミ様。早くとも一週間でデミアンの魔王城へ辿り着けると思います。ですので…」

 「わかったわ。じゃあさ、歓迎の準備をしてまってるわよ、ね、マオ。」

 「わはは、そうだな。慌てる事はない、ゆっくりと来ればいいさ、ムサシ。」

 「あ、ありがとうございます。」

 「では、な。また会おう。」

 「じゃねー、ばいばい。」


 そう言ってマオとマミは北へと飛んで行った。

 あの二人が、魔族を束ねる魔王の子、つまりは次期魔王か、と、ムサシはどことなく感慨深げに思った。

 何故か、気持ちがざわついたようなそんな感覚を覚えながら。



 ―――――



 デミアン王国へと飛んで帰っているマオとマミ。

 こうして飛行能力を有するというのは、実は魔族でも有翼種以外は居ない。

 魔王一族が、魔族の中でも特別な存在である事の一つの証でもある。


 「ねー、マオ。」

 「ん?なんだ?」

 「あのムサシって人、怖くない?」

 「お前も感じ取ったか。あいつ、人間じゃないな。」

 「あ、やっぱり……」

 

 モンスターとの闘いにおける身のこなしや瞬時の判断能力など、とうてい人間では到達できないレベルにあると思えた。

 下手をすれば魔族よりも大きな力を持っているとも。

 それに、どことなく天然で抜けている様な、あるいは庇護欲を掻き立てるような、不思議な感覚をも感じ取った。

 何より


 「まぁ、親父が推薦するくらいだしヴァーリオがあんなに親密に一緒にいるって時点で、な。」

 「ってかさ、ヴァーリオはまた違う意味で親密なんじゃないの?」

 「あはは、それはあるかもな。ま、ともあれ、だ。」

 「だね。興味は深まるよね。早くウチに来ないかなぁ。」

 「お前、まさか……」

 「うふふ、だったらどうする?」

 「どうもこうも、そん時はそん時だろ。今は何も言えないぞ?」

 「あ、そーなのね。でも、さ。」

 「ああ、あいつ、もしかすると俺の能力も効かないのかもな。そうなるともう、強いとかいう話では無くなるな。」

 「やっぱり怖いよねー。」


 魔王の実子であるマオには、既に魔王だけが持つ特殊な能力が備わっている。

 代々魔王が持つ、“最強である為の能力”だ。

 それは、常に対峙する相手の力に対し、自身の力をそれ以上に増幅する、いわゆるチート能力だ。

 それ故にこの世界においてマオは実質最強の、頂点の存在なのだ。

 父ゴライアスから受け継いだ能力。

 ゴライアスが近々王位を譲ると判断した根拠でもある。


 そんなマオをしてそう言わしめたムサシという存在。

 ほんの僅かな時間の邂逅ではあったが、マオには何か言いようのない運命のようなものを感じた。


 「ま、それよりも、だ。」

 「うん?」

 「あのモンスター、少し毛色が違っていたな。」

 「そうだね。アレが例の……」

 「これは少し、面倒な事が起こる……かな。」


 西日が眩しい空を飛びながら、マオは言い知れない嫌な予感を肌で感じ取ったのだった。



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