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第36話 検問所にて

 ラディアンス王国に到着したムサシとヴァーリオ。

 城下町には簡素な柵が張り巡らされており、それらは魔獣に対しての防御策のひとつなのだとか。

 以前は特に入出国の検問などはされておらず自由に出入りできたはずなのだが、今は一応の検閲が実施されているのだそうだ。

 そんな王国への入り口で、やや長い人の列の最後尾についたムサシ達。

 

 「けっこう並んでるねー。」

 「昨今の情勢ではやむを得ないのでしょう。とはいえ、こんな状況はラディアンスだけでなく周辺国も意にそぐわないと思っているでしょう。」

 「だろうね。もっとも、俺が居た所でも関所とかあったし、こういうモノなのかなっていう感じだなぁ。」

 「かつてはそうだったとも聞き及んでいますが、それで問題なかったのがこうして変化したというのは……」

 「なんとなく、だけど、こないだのヴァーリオが教えてくれた事の意味、その深い所が見えたよ。」

 「そう…なのですか。」


 30分程だろうか、列は進みあと10組程でムサシ達の番になろうとした時だ。

 ムサシは強烈な嫌悪感を感じた。

 それは、今まさに入国の検閲を受けている男からだった。


 外見は普通の人と変わらない。

 やや小太りで体格はがっしりとしているが、何と言うか、目が死んでいるというか、そんな気がする。

 何よりも可視化されてはいないようだが明らかに人間とは違う気を纏っている。

 周囲に居る人も、検閲している兵も、それに気づかないのだろうか。


 「ヴァーリオ……」

 「どうしましたムサシ様?」

 「今検問受けてるあの人……」

 「ふむ、商人…のようですね。彼が何か?」


 ヴァーリオも気付かないようだ。

 が、この嫌悪感は気のせいではない、明らかな“悪意”を感じた。

 この世界に来て、初めて感じた“人間の持つ悪意”のようなもの。

 それを機に、ムサシの中で何かが警鐘を鳴らす。


 「ヴァーリオごめん、王への謁見は後回しになりそうだよ。」

 「ムサシ様? まさかあの男は……」

 「確証はない、けど、モンスター並みに危険な気がしてならないんだ。」

 「……わかりました。検閲が済んだら後を付けてみましょう。」

 「ごめんね、面倒な事を……」

 「ふふふ、面倒だなんて。そんな事はありませんので気になさらずに……と、あれは…」


 恐らくはムサシ達を出迎えに来たのだろう、検問所の向こうにデモンとクリスがやって来た。

 まだ並んでいるムサシ達には気付いていないのかも知れない、と。

 デモンとクリスは、検問を抜けた先ほどの男が纏う違和感に気付いたらしい。

 付き従っている兵に、男を引き留めるよう指示を出した。

 が、しかし。


 兵が呼び止めた瞬間に、男は隠し持っていたのだろう小刀を袖口から出して握り、兵に襲い掛かった。

 呼び止めた兵は一瞬の事で対処が遅れたようだ。


 「まずい!ごめんヴァーリオ!」


 遠目に見ていたムサシは、検問所を突破してその男の元へとすっ飛んでいく。

 およそ30メートル程はあっただろう距離を一瞬で詰め、男の小刀を持つ左手を掴むと間接を捩じり男の動きを止めようとした。

 だが、男は痛みを感じないのか動きを止める事はなく、結果左手首は折れて小刀は落ちた。


 関節を極められて尚動きも止めず、表情も変わらない不審な男は。

 微妙にほくそ笑んでいる。


 一連の出来事を見ていたデモンとクリス、そして近衛兵は即座にムサシとその男を取り囲んだ。


 「ム、ムサシ様!」

 「さ、さすがだ……」


 目にも止まらぬ動きにデモンとクリスはやや驚いた様子だが、直ぐに現実へと戻る。

 男を取り押さえているムサシだが、そうして近づいてくるデモンとクリスを静止させた。


 「デモン様、クリス様!近寄っちゃダメだ!」

 「む?」

 「それは……」

 

 それを聞いてクリスは男の思考を、感情を読もうとした。

 薄々感じていた悪意、それを確かめる為に。

 すると


 「デモン、これ……」

 「何だこれ……」


 男の思考は“無”だった。

 感情も感じられない、ただただどす黒い悪意に満ちたような感覚だけが感じられた。


 取り押さえているムサシも、そんな感じを直接受け取った。

 関節を極めて地面に抑えてはいるものの、痛がっている様子もなくデモンとクリスを睨んでいる男。

 大騒ぎとなった検問所の前は、駆け付けた警備兵や住民が集まってきていた。

 このままでは埒が明かないと思ったムサシは、おそらくはダメだろうと思いつつも男に聞く。


 「あなたは何者ですか。

 なぜ兵を殺そうとしたんですか!」


 あからさまな殺意を持って兵に襲い掛かったのは、当の兵士もデモン、クリスも解っていた。

 一切の躊躇が無かったことも。

 

 「へ、へへへへ!」


 ムサシの問に答えず、男は笑った。

 その声は、可聴域全ての周波数を全開にしたような、聴く者に不快感を抱かせるには充分なほどの声色だった。


 「邪魔者は消す!次はオマエもだ!」

 「な、なん……」


 そう言うと男はとたんにぐったりとしたかと思うと、四肢の先から赤い霧のように蒸発していく。

 ムサシはとっさにその男から離れ、カネシゲを抜いて男の心の臓に突き刺した。

 男はそれでも笑いを止めず、デモンとクリスから目を離さない。

 

 「こ、この男!」

 「ムサシ様が危険なんじゃ!」

 「お二人とも下がって!」

 「ヴァーリオ!?」

 「大丈夫です。ムサシ様が何とかします!」


 ムサシは一度刺したカネシゲを抜き、力を抜いたように、本当に軽やかにカネシゲを横に薙いだ。

 すると四肢から蒸発していくようになっていた男は、今度は光に包まれながら蒸発して行っている。


 「な!なんだこれは!? ま、まさかオマエは!?」

 「……」


 瞬く間に光によって蒸発されたように、男はその痕跡も残さずに消えた。

 落ちた小刀をそのままに。


 男の消滅によって騒動は沈静化された。

 しかし、謎だけが残る事になったようで後味が悪い。

 ムサシはカネシゲを鞘に仕舞うと、デモンとクリスに告げる。


 「大丈夫でしたか?」

 「う、うむ、済まないムサシ様……」

 「とりあえず助かったが、これはあの時の……」

 「あの時?」

 「あー、ムサシ様?」

 「ん?どうしたのヴァーリオ?」

 「ムサシ様は逮捕されるそうです。」

 「へ?」

 「あの、検問を破ったので……」

 「あ!」


 「あ、あはは、そうか、ムサシ様は検問突破しちゃったのか!」

 「あは!なら、逮捕だな!逮捕!」

 「逮捕って……」

 「ま、私も同罪なのだそうです……」

 「よし!ではムサシ様を逮捕し連行しよう!」

 「では連行します!我が城へ!」


 どうも、事情はどうあれ検閲を逃れ入国する事は、要するに密入国や侵攻、つまり重罪なのだとか。

 もっとも、それは形式上の話なのだが、ルールやモラルは大事なのでこうして形と言うか話の上だけだが逮捕となった。

 幸いにも一般市民と同じように並んでいたし周囲からは貴賓客とは思われていなかったようなので、これ以上の騒ぎにはならなかったようだ。

 もちろん、手枷などで束縛はされず、デモンとクリス、ムサシとヴァーリオは4人並んで歩いて城へと向かった。


 そして、デモンの手には先ほどの小刀が証拠品として布に包まれて持たれていた。



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