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第14話 接敵!

 大阪城の天守閣。

 真田信繁が討ち取られ、幕府軍は大阪城を包囲し始めたとの報を受けたのは淀殿と大野治房だった。


 「あの首は信繁ではありませぬなぁ。」

 「そのようですな。」

 「たわけ!何を暢気に抜かしよるのか!さっさと家康の首も持ってこぬか!」

 「しかしサプン様……」

 「このおバカー!!今余は淀君だ!いつになったら理解するのだウセル!」

 「ご、ごめんなさい。間違えました、淀殿!」


 「まったく。とはいえ、またあの邪魔な存在が来たようですね。」

 「はい。それ故どうしたものかと。」

 「あの時のように逃げ隠れするのも疲れます故なぁ。とはいえ、何とかせねばなりませぬ。と言う事で。」

 「はい?」

 「お前が行けウセル。せめて家康の首級をあげれば世の混乱は続くであろうぞ。

 なに、心配するでない。消滅さえ免れればお前はまた肉体を得られるぞ?」

 「いやいやいや! 拙者単独であのバケモノな存在と事を構えろと!?」

 「そう聞こえなんだか?」

 「……悪魔め!」

 「くそバカ野郎!あんなのと一緒にするでない!」

 「いや、あんたは悪魔より質が悪いです。」

 「まぁ良い。さっさと行け。」

 「やれやれ……」


 多少の苛立ちを見せつつ、淀殿は下界を望み嘆息する。


 (全く忌々しい存在である。我に恐怖などという感情を抱かせたふざけた奴らめ。

 まぁ、いざとなれば、だ。あそこへ逃げ込めばよい。ようやく見つけた“扉”、有効に使わせてもらおうぞ。)


 そうほくそ笑む淀殿の下へ、一人の男が上がって来た。


 「母上……」 

 「おお、秀頼、どうなされましたか?」

 「母上こそこんな所で何を?」

 「心配いりませぬ。今ここへ向かってくる憎き家康を見定める為です。」

 「そ、そうなのですか……」


 天守閣へと上がって来たのは他でもない秀頼だ。

 秀吉と淀君との実子、現在豊臣家当主であり大阪城主、そして実質的な権力を持たない公家。

 父秀吉亡き後も関白として朝廷の傀儡として使えると考えられ公家とされたのだが、今現在は朝廷ではなく淀君の傀儡といえよう。

 要するに豊臣方の全権力は今や、淀君に一極集中している。


 「秀頼。そなたは何も心配いりませぬ。すべてこの母に任せてたもれ。さ、参りましょう。」

 「は、はい。」


 そう言って天守閣から降りてゆく二人。

 春の強い日差しが舞い込む天守閣の階段に、降りてゆく秀頼の影が映る。

 しかし。

 淀君には影がなかったのを、秀頼は気付かなかったのだ。





 その頃、真田丸付近まで進撃してきた家康本陣では、迫る大阪城攻略に向けて態勢を整えている真っ最中だ。

 その本陣には今、死んだはずの信繁、それに武蔵達に加え鬼まで居る。

 突撃を待つ間、今後の行動について作戦を練っていたのだ。


 「まぁ、こんな所だろう。儂と伊織は幕府軍とは別行動という訳だ。」

 「父上、突出して単独で城内に飛び込んでも良いんですか?」

 「善し悪しというよりもだ、儂らがそうせねばジュピアは機を見て逃げる可能性があるのだよ。故に一気に潰しにかからねばならぬ。」

 「真田だったか、あれの言を鑑みれば奴、いや奴らは大野ってのと淀殿か、それに化けているって事だろう。」

 「酒呑様、化けているってのは?」

 「正確には身体を乗っ取られている、だな。武蔵様や俺、大陸の姉ちゃん、そして伊織でも、それは見ればすぐにわかるだろうさ。」


 「いずれにせよ、逃げられては厄介だ。後を追えるかどうかも判らぬ故な。」

 「ていうか、だ。伊織、お前が要になるかもな。」

 「え?何で?」

 「タケミカヅチから受け取ったんだろ、そのカタナ。それな、使い方によっちゃジュピアだけを斬れるかも知れんぞ。」

 「??」

 「ま、そこも含めてもっと成長すべき所が有るってこったな。そんで武蔵様、ひとつ提案があるんだが。」

 「言わずとも解る。どの道儂以外の者からの手ほどきも必要だと思っていたからな。」

 「あはは、話が早くて助かる。ってことでだ。伊織。」

 「はい?」

 「この騒動が終わったら、付き合ってもらうぞ。」

 「それってもしかして……」

 「理解が早くて助かるぜ。」

 「……はい。」


 それから数刻後。

 いよいよ幕府軍は大阪城に籠った豊臣勢への突撃を開始した。

 城を守護するのは毛利軍や大野軍をはじめとした豊臣家の忠臣たちの軍勢で、もはや背水の陣とも言える籠城をも踏まえた迎撃態勢を取っている。

 とはいえ、籠城した所で援軍が無いのは明白で、孤立無援となったこの時点で勝ち目は微塵も無いといえよう。

 幕府軍はそれも理解した上で、うめられた南側の外堀を越え城内へと雪崩れ込む。


 そんな幕府軍から飛び抜け、城内へと入ってゆく武蔵、伊織、エイル、鹿島、酒呑、白蘭の6人。

 その6人を待ち構えていたのは毛利勝永だった。


 「ここから先は行かせる訳には行かぬ。俺がここを死守する。」


 そう言って立ちはだかる勝永だったが、まるでそれを無視するがごとく武蔵達はスタスタと奥へと進もうとする。


 「ちょ!ま、待て!武蔵様!俺が相手だと!」

 「勝永、だったな。そう死に急ぐな。儂らの標的は秀頼殿ではない。解るな?」

 「ッ!」

 「では、行かせてもらうぞ。」


 実の所、勝永も迷ってはいた。

 城へと撤退する際、望月六郎により事実を耳にし、それを裏付けるような事柄を多数見聞きしてきたからだ。

 だが、幸村同様に、仮にそうだとしても豊臣を滅ぼすような事だけは断固として拒まなければならない。

 それは勝永も豊臣に計り知れない大恩があるからであり、今の行動もその為の行動でもあったのだ。

 そして、そこにはもう一つの可能性もあると踏んでいた。


 「武蔵様……秀頼様を……」

 「勝永、心配するな。もっとも、それは儂らではなく家康へと伝えるが良いと思うぞ?」

 「は……はい……」


 確執と言うよりも、もはや相容れない敵である徳川家に、そのような言は口が裂けても言えない、と勝永は思う。

 がしかし、先の望月の話、そして現に武蔵という“ここに居るはずのない伝説の剣豪”、それに加え過去に一度だけ見た“鬼”までここに居ると言う事は、そんな勝永の矜持を吹き飛ばしてしまうほどの説得力があった。

 ならば、と。

 勝永は決断する。

 この首をもって、秀頼様の安泰を家康に乞うしかない、と。



 大阪城の二の丸を進み、本丸へと続く回廊へ出た所で武蔵達は一集団と鉢合わせした。

 大野治房とその取り巻きだった。

 その姿を見た伊織は、すぐに気付いた。

 大野治房という人物は、もはや人間ではない事に。


 きっと、そこに伊織の明確な意志は無かったのかも知れない。

 本能的に、あるいは何者かに告げられ後押しされたかのように。

 武蔵や酒呑でさえ驚く程の速さで、伊織は大野に襲いかかったのだ。


 恐らくは、大野本人にも理解できなかった事ではないだろうか。

 突然現れた青年が目の前まで迫り文字通り鬼の形相で、脇差を抜き大野の眉間を貫いたのだから。

 大野の周囲にいた取りまき数人は、一瞬の事で何が起こっているのか理解できずにただ茫然としている他なかった。

 そもそもこの取り巻きは、此度の戦とは無縁とも思える僧侶の集団だったのだから。


 大野治房の頭を貫く脇差を抜いた所で、伊織はその面前に静かに立つ。

 と

 頭を貫かれた大野は倒れる事もなく、伊織を一睨みすると


 「お前……くそッ!」


 そう吐き捨てた直後、全身から黒い霧のような、煙のようなものが噴出したと思ったら、その霧のようなものは何処かへ向かおうとした。

 伊織にはそれが何かを、朧気ではあるが直感で逃がしてはならないモノだと理解した。

 したのだが、そこからどうすれば良いのかが解らなかった。

 

 「伊織!ちょっとごめんよ!」


 白蘭が伊織の前に出て、何かをしようとした。

 しかし


 「ちぃッ!効かない!ダメだ!」

 「儂の力も通じん!くそッ!」

 「あ、あれは……」

 「伊織、あれは逃がしてはならぬ存在だ。追うぞ。」

 「酒呑様、でもその前に。」


 霧のようなモノ、それはウセルそのものだった。

 普通の人間相手ならば、ウセルは難なく殺めて消し去ることは造作もなかっただろう。

 しかし、鉢合わせてしまったのが、あの忌々しい武蔵、つまりは30年前に本体を殲滅した奴らだったのだ。

 敵わない事は明白である。

 ならば、取る手段は逃亡一択となる。

 ウセルはそのまま肉体を放棄し淀君、つまりはサプンの所へと逃げた訳だ。

 凡その逃避方向を掴んだ所で、伊織はその場に倒れ気を失っている大野を起こした。

 あれだけ深々と頭を貫かれたはずの刀の刺し痕は、一切痕跡がなかったようだ。


 「……う、うう……あ、こ、ここは……?」

 「気が付かれましたか。」

 「あれ?お、お前は……」

 「治房!!」

 「か、勝永?」


 後を追ってきた毛利勝永が、伊織に起こされはしたがその場にへたり込んでいる大野をみとめた。

 その大野治房が、違和感を持つ前の、良く知る治房に戻っている事に、勝永は気付いた。


 「治房お前、何をしていたんだ!」

 「俺は…俺は一体……というか、この者達は……というか、武蔵と、鬼?」


 「お主達、もはや豊臣はここまでだろう。この先は豊臣と徳川幕府の戦ではない。」

 「「 は? 」」

 「俺達と妖の存在との戦だ。これ以上はお前達人間は邪魔でしかない。」

 「さっさと家康の下へ降れ。」

 「し、しかし!」

 「心配するな。儂らは秀頼殿と淀殿を殺める事はしない。あの者の処遇はお主達が家康に委ねるべきだろう。」

 「父上。」

 「伊織、行くぞ。奴らはこの先、天守におるだろう。」

 「はい。」


 もはや秀頼と淀殿を守る兵はここには居ない。

 今何が起こってどうなっているのかさえ解らない大野としても、その危機感だけは肌で感じていた。

 その焦りを理解した毛利は大野に対し、首を横に振って(心配するな)との意を示した。


 この先に、ジュピアが居る。

 伊織は不思議な程冷静な思考でそう考え、武蔵達と共に天守へと歩を進めた。

 

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