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第六話 逃げ場はない

 歩と小弓との間に新たな条件が設定された。どちらかというと、歩だけが従う内容だが。


 第一に、歩は平日の買い物を手伝うこと。ただし、土日の買い物は付き合わなくていい。

 第二に、そのことを小弓の両親にアピールすること。つまり、買い物後に小弓の家に寄れということだ。べつに夕食を共にすることは強制されないとする。

 第三に、それ以外のことでは今まで通りで構わない。すなわち、お互い無理に目を合わせる必要はないし、学校で会話しなくてよい。


(第三が救いだよな、ほんと)


 教室から帰った後ホームルームを終えて、歩は椅子の上でぐったりしながらこの約束を確認していた。ようやく緊張感が解れてきて、安心する。

 教室まで戻る間、意外なことに、先程の野次馬からどすの効いた声をかけられることはなかった。おそらく歩が別の街から来たばかりであり、かつ周囲の誰ともろくな会話をしたことがないために話しかけづらかったのだろう。妙な理由で助かった。

 

(それにしても千世川は、よくもまあいい打開案を考えてくれたな)


 週一で彼女の買い物につきあい、帰ってから彼女の家に顔を覗かせればいいだけなのだから。歩が小弓を手伝っているのを見せたら、決して彼女を嫌われているわけではないことを知ってもらえる。

 要するに昨日は、まったく顔も見せずに早々と退散してしまったのが悪かった。しかも嘘をついてまで夕食の同席を断って。あれでは、偶然会ってしまっただけで仕方なく手助けしたようにしか見えなかったのだ──実際のところほとんどそんな感じだったのだが。

 これから繰り返していけば信用も出てくることだろう。


(……などと前向きに考えてはみたが)


 歩は再び机に伏した。


(ごく普通の生活よ。彼方へさらば)


 ……結局のところ、彼女の買い物に付き添うわけで。彼女と何らかの関わりがあることが先の一件で知られ、かつこれから週一で一緒に買い物をすることまで聞かれてしまっているわけで。

 

(もういっそ、話した方がいいのでは?千世川の旅館に居候しているただの同級生ですと言えば、大した関係がないと理解してくれるはず)


 歩はそろりと顔を上げ、教室を見渡した。


 スッ、スッ、ザワザワ……


(……今一瞬、クラスメイト全員と目が合いそうになったよな。すぐにそっぽ向かれたけど)


 背筋がぞわりと蠢く感じがした。

 歩は前方の小弓の席に目を向けた。小弓の周りには何人か男女が集まっていて、おそらく自分との関係なんかを聞かれているのだろう。

 小弓の表情は前を向いていて見えなかった。歩は視線を外した。


(きっと彼女の方から話してくれる。俺から広めるとなると、どうも妙な反感に立ち向かわなくちゃいけないようだから)


 それでもただ一人、歩が視線を向けても目を逸らさなかったクラスメイトがいた。隣の席の上成だ。

 

「……何か用か?」


 ニマニマしながらこちらを見ているのに対し、歩は問うた。


「いやー。野次馬根性で見に行ってみたらすごいカップルが見つかっちゃってさぁ」

「……勝手にカップルを作り出すな」

「えっ違うのか?」

「違うに決まってるだろ」


 そら、変な誤解が生まれたじゃないか。

 歩は盛大にため息をついた。


「まあまあ。それなら今困った状況にあるわけだ」

「他人事だな。いや……他人事に違いはないか」

「俺に相談してくれていいんだぜ?」

「出会って数秒で友だちヅラしてくる奴なんて……」

「もう一か月経ったよな!?一か月も隣の席にいる奴のことを何とも気にしてないなんて、あんまり聞かないぞ……」

(そういうものなのか?)


 歩のこれまでの転校生活で、転校先の学校で友だちというものがほとんどできなかった。たとえ友だちができたとしても、父親の仕事ですぐにその街を離れてしまった。それだけに、彼にはよくわからなかった。

 隣の席の人とは一か月経っても二か月経っても、「隣人」だろうと思っていたけれど……


(隣人と友人、か)


 歩は暫し考察に耽った。突然沈黙した彼に上成が、「おーい、どうしたー?」と声を掛けてくる。

 一限が始まるチャイムが鳴った時、歩は「よし」と静かに呟いた。


(千世川は友人だ。友人として買い物に付き合っていればいいわけだ。なるほど納得できる。今までは関係の名前が俺にはわからなかったから、過剰な気遣いをしてしまったんだ。それに、これなら周りも誤解なんてしないはずだ)


 彼は一人頷いて、教科書を鞄から出した。

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