メリークリスマス仮面夫婦クエスト
午後八時に帰宅したサラリーマンの要。本日クリスマスは、実は要の誕生日でもある。しかし彼は自分の誕生日など忘れているし、思い出した所で特別な事は何もしない。そう、彼は根っからの仕事人間。それは自覚しているし、こんな自分が家庭を持つなど以ての外だと考えていた。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさいませ、要さん」
だが大企業の出世頭である彼は、事あるごとに上司からの縁談の話に困り果てていた。今は仕事が忙しい、という言い訳が使えるのは一度きり。だからと言って別の言い訳を持ち出した所で、上司の不信感を買うのは目に見えている。そこで彼が至った結論は、仮面夫婦。
「要さん、本日もお疲れ様でした。お風呂とご飯と私、どちらからにしますか?」
「ありがとうございます、ではお風呂から頂きます」
なんとなく違和感を覚えた要。しかし恐らく聞き間違いだろうとスーツをハンガーにかけ、風呂へと足を運ぶ。
妻として選んだのは、自分と同じような思考の持ち主。結婚など考えてはいないが、とりあえず形だけの夫婦を望んだ女性。月三十万で家事を熟してくれる。まるで女性を道具扱いするようで顰蹙を買いそうだが、お互いが納得しているのならば問題ないだろうと早一年が経とうとしている。
「要さん、お着換え置いておきます」
「はい、ありがとうございます」
彼女、祥子は国家公務員の父を持つ、比較的裕福な家庭の娘。それゆえに貴族のように上品で、かといって世間知らずというわけでもない。常に無表情な彼女は、過去に男性とのトラブルがあったらしく、それ以降、恋愛感情という物が欠落しているという。
「要さん、お誕生日おめでとうございます」
風呂から上がった要は目を疑った。夕食の香りに誘われて居間に来てみれば、そこにはクリスマスパーティーのように飾り付けられたイルミネーション。
「これは……」
「折角のお誕生日ですから。プレゼントは何がいいのか分からなくて……いくつか用意しました」
自分のためにここまでしてくれるとは、と要は疲れた心に染みると泣きそうになる。
「プレゼントまで……何を用意してくださったんですか?」
「ネクタイと財布と私、どれにしますか?」
「……あの、祥子さん?」
二人は仮面夫婦。
誰が何と言おうと仮面夫婦。ちょっと歪な……仮面夫婦。