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社交界デビュー


 心地いいとは言えないまでの揺れを伝えながら動いていた馬車は、やがてゆっくりとスピードを落として停車した。

 到着したかな? と思っていると、ガチャリとドアが開いて御者をしていたフィルという男が顔を出した。



「クロウ様、到着しましたよ」

「ありがとう、フィル。アレは持ってるな?」

「もちろんです」

「よろしい。じゃあ、パーティの間、適当に時間潰しててくれ。小遣いもやろう」

「ありがとうございます。では、また後ほど」

「ああ。あまり酒は入れるなよ」

「もちろんです」



 馬車を降りつつそんな会話を交わして、フィルに金貨を2枚ほど渡してやる。

 その辺の飲食店で飲み食いするには過ぎた額だが、まあ、別に構いやしないさ。


 さて、と今回のパーティ会場を見つめる。

 今回のパーティは皇子のお披露目もあるという事で主催は帝室。ということはつまり、パーティ会場も皇宮という事になる。



「久しぶりに来たなぁ」



 皇宮に来るのはこれで2度目だ。

 初めての皇宮はうちの親父につれられて『こいつに当主任せるから、そういう事でよろしくねー(原文ママ)』という報告をするために登城した。

 女帝陛下から宰相からなにから『え? 何言ってんのこいつ?』という表情をしていたのは今でも記憶に新しい。いや本当にあの時は生きた心地がしなかった。

 帝国を支えるお歴々の前で『じゃ、そゆことで!』などと口走るが早いかさっさと帰ろうとする親父を咄嗟の判断で氷漬けに出来たのは、流石はオレと自画自賛を厭わない瞬間だった。

 お陰様で女帝陛下の覚えもめでたく、あれから随分とお手紙を貰っているのは身に余る幸甚だが。


 さておき、パーティだ。

 このパーティでは第一皇子も宰相の息子も近衛騎士団長の息子も公爵子息も、グレイスも他の婚約者たちも勢揃いする。

 もしかしたら、もう第一皇子とグレイスの婚約は雛形が出来上がっているのかも知れないが、もしもシナリオ通りに事が進むのならグレイスはいずれ皇子の手を離れる。最悪、その時を待ってもいい。

 もちろん一番は、このパーティで交流のきっかけを作り、グレイスとの結婚に向けて互いに――というのが理想だが。



「失礼。身分の照会をさせていただきたい」



 皇宮に向けて歩いていくと、門のところで鎧姿の男にそう言って止められた。

 当たり前だが門番である。



「クロウ・C・ウルフハート辺境伯だ。身分は……これを」



 懐からウルフハート家の家紋が刻まれたメダリオンを取り出して見せてやると、門番はしばしそれを見つめてから、やがてひとつ頷いた。

 ちなみにウルフハート家の家紋はクロスした長剣と狼の意匠だ。



「はい、確認出来ました。ウルフハート辺境伯、ようこそ皇宮へ」

「ありがとう。パーティ会場はどこになる?」

「入口入ってすぐのところに案内のメイドがいるはずですので、そちらにお声掛けいただければ」

「わかった。門番の仕事、頑張ってくれ」

「ありがとうございます!」



 ニコリと笑いかけながら言えば、感無量という様子で返事をする門番。オレの言葉なんぞ女帝陛下が言うのに比べれば如何ほどの事もないと思うんだが……まあ、本人が幸せならオッケーです。


 門番の彼と別れて皇宮の入口ロビーにまで歩を進めると、確かに案内役を担っているのであろうメイドがいた。それも1人や2人ではなく、10人くらい。

 恐らくだが、立て続けに何組か来ても対応出来るようにしてあるんだろう。



「会場へ案内を頼む」

「畏まりました」



 メイドたちに声をかけると、そのうちの1人だけがそう返してきた。どうやら対応する順番を決めてあるらしい。

 まあ、そうしないと滅茶苦茶になっちゃうよな。



「では、先導いたします」

「ありがとう」



 そうして先導役にと立ってくれたのは、歳の頃はオレより7つほどは上だろう金糸の髪のメイドだった。

 皇宮で働く使用人というのは誰しもがどこかの貴族の子女であるので、この女性もまたいずれかの貴族の息女なのだろう。長女や次女は大体政略結婚だかなんだかで消費されてしまうので、三女以降と見て間違いない。


 ……と思うのだが、なんかおかしい。

 オレもこの歳にして色々と人は見てきているのだが、どうにもこうにも、目の前のメイドが単なる貴族息女であるとは思えない。そう判断出来ないだけの何かがあるんだが、何が違和感としてあるんだかわからない。

 わかんないなら訊けばいいか。



「ところで、つかぬ事を訊くが」

「はい、なんでしょうか?」

「――お前、どこの手の者だ?」

「……何の事でしょう?」



 歩みを止める事なくメイドは答える。



「まあ、隠したいならそれで構わないが。もし、今回パーティに集まるいずれかの貴族を害そうとして派遣されているなら、諦めた方が無難だぞ」

「それは……何故でしょう?」

「オレがいるからな。……ま、最悪あのバカの第一皇子は殺してくれたって構わないんだが。あと宰相の息子と近衛騎士団長の息子とフォールストラ公爵子息。権力を笠に着るだけのバカは帝国には必要ないからな」

「……あまり、そうした事は口になさらない方がよろしいかと」

「ああ、そうだな。……時に、君を手練の隠密と仮定した上で提案がある」

「この身はただのメイドでございますが、戯れに付き合えと仰るのであれば如何様にでも」

「ここしばらく、ウルフハート家では諜報員を募集している。諜報員と言っても、別にどこかと戦争をしたいとかいうわけではない。ただ、国内外の情勢を逐一把握しておきたいのだ。そこで、有望そうな者には直接スカウトをかけているというわけでな。良ければオレのところに来ないか? 興味があればウルフハートの別邸を訪ねてくれ」

「……こちらがパーティ会場となります。それでは、楽しい時間をお過ごしください」



 こちらの言葉には一切返答せず、金糸の髪の彼女はぺこりと一礼して去っていった。

 ……もしかしたら帝国の影だったかもなぁ。



「……ま、それならそれで。女帝陛下もオレのやる事に文句は言うまいよ。説明責任は果たさなきゃだろうけど」

「――その通りだ、ウルフハート辺境伯」

「!?」



 突然背後からかけられた声に死ぬほどビックリして軽く身体を飛び上がらせた後、恐る恐る声のした方を振り向いてみる。

 そうして振り向いた視線の先にいたのは、長い金髪にアースアイの大変整った顔でさながら兄貴分のようにニカッとした笑みを称えた、アイリ・イリューシア女帝陛下であった。



「こ、これはこれは陛下。無沙汰をしております。本日は第一皇子のお披露目を兼ねたパーティ、恙無く開催出来そうで大変喜ばしく存じます」

「ありがとう、ウルフハート辺境伯。しかし、斯様に堅苦しいのは好かんな。過日、私が卿に言った事を忘れたわけではあるまい?」

「忘れてはおりませんが……しかしながら陛下、陛下は陛下であり私は臣下でございます。ましてやここは皇宮。陛下と親しくしているところを他の貴族に見られては、今代のウルフハート辺境伯は女帝陛下の玉体を我が物にせんとしているのか……などという噂が立ちかねません。火のないところに煙は立たないなどと言いますれば、どうかご容赦を願いたく」



 この女帝陛下、何故かは知らないがオレを狙っているようなのだ。本当に何故かは知らないが。

 月氷の設定集だと、実はクロウは最初、この女帝陛下の伴侶として描かれる予定だったと書いてあったが……まさかそれが影響しているんだろうか。……いや、まさかね。まさか自分の息子と同い年の男を自分の伴侶にだなんて……まさかねえ?

 ちなみに女帝陛下は御年30歳になられる。個人的には女帝陛下も守備範囲内だ。



「どちらかと言えば私が卿を狙っているんだがな?」

「ははははは。陛下は冗談もお上手ですね」

「冗談ではない。……まあ、卿は成人もまだの身ゆえ、今すぐにどうこうとは言わぬがな」



 目が真剣(ガチ)だ。間違いなく本気(マジ)だ。

 この女、伴侶もいて息子もいるくせに、その息子と同い年の臣下を欲している……! ショタコンってレベルじゃねえぞ……!?



「……お言葉ですが陛下、自分の息子と同い年の男にコナかけようなんて、理性が咎めないんですか?」

「本能だけで考えているわけではない。全属性の適性など、果たして向こう10年……いや数百年単位でいつ現れるかわかったものではないからな。それを皇室の血筋に取り入れられればという打算的な面もある。もっとも、卿の見た目が実に私好みであるという事実はあるがな」

「それはそれは光栄な事でございますね。もう10年ほど歳をくってれば、二つ返事でしたが」

「なんだ、好いておる女子でもおるのか?」

「リオトルム公爵令嬢ですかね。好きというわけではないのですが、たいへん美しいと耳にしたもので。果たしてどのような方なのだろうかな、と」

「おお、ウィロウの娘か。そうだな……確かにあの娘は随分と美しい。だが、令嬢としては幾分格が落ちるぞ」



 唸るような声で陛下は言う。

 令嬢としては格が落ちる? どういう意味だ?



「格が落ちる、とは?」

「とにかく笑わんのだ。……いや、笑わんだけならば私もそうは言わん。とにかく表情が変わらん。怒っておるのか、泣いておるのか、嬉しいのか、楽しいのか……それらの感情表現が無いのだ」

「それは……。他の面ではどうなのです? 例えばダンスが下手だとか、刺繍が下手だとか」

「そのあたりは問題ない――どころか、他の令嬢より遥か上を行くだろうな。ダンスや刺繍といった貴族令嬢に当たり前のスキルはもちろんだが、剣の腕も立つようだ」

「……珍しいですね。ご令嬢で剣とは」

「感情表現に乏しい分、出来るだけ男に刺さる項目を増やそうとウィロウが考えたらしい。ウィロウの私兵達では最早太刀打ち出来んようになったとか聞いたな」

「好きな奴は好きそうですね」



 確かに、グレイスは月氷でも全ステータスが高かった。

 物理も魔法もどちらもイケるのに高水準とかいう欲張り構成で、キャラクターの強さランキングではクロウに次ぐ2位の立ち位置にいたと記憶している。

 まあ、クロウは隠しキャラだし公式チートなので、グレイスが実質1位だ。



「なんだ、卿の琴線には触れなんだか?」

「いやぁ、流石に人伝の評価だけでどうこうは言えませんよ。まずは実物を見てみない事にはなんとも」

「……卿、帝国貴族だよな?」

「先代とご挨拶に伺ったはずですが、お忘れですか女帝陛下」

「その割には私を使わんな、と思ってな」

「確かに陛下に言えば渡りはつけられるかも知れませんが、どのみちその先は本人たち次第ですから。それなら最初から自分でやった方がいいでしょう。口さがないアホに、令嬢と口を利くために陛下を利用するとは何事だ、などと騒がれてもつまらないので」

「違いない。……そろそろだな。ウルフハート辺境伯、ウィロウの娘を探すのならば銀髪の娘を探せ。表情がぴくりとも動かん者がアタリだ」

「わかりました。では、いってらっしゃいませ、陛下」

「うむ」



 グレイスの容姿をオレが知っているとは思っていない陛下は、そう言うと、増えてきたパーティ参加者の波をかき分けて、皆の注目が集まる場所に向かった。

 びっくりした様子で道を空ける貴族たちの波をかき分けて小さなステージのようになっている場所に立つと、陛下はふたつ手を鳴らして耳目を集めた。



「皆の者、今日は我が息子のお披露目を兼ねたパーティによくぞ参加してくれた。ここに集まる貴族子女はその誰もが我が息子と同い年の、社交界デビューを迎えた者たちと思う。大人たちはやれどこぞの家との関係がなどと小難しい事を言うだろうが、お前たち子供はそうした事を気にせず、あるいは好みの男子、女子がいれば遠慮なく声をかけると良い。では、パーティを始めよう」



 威厳のある……というには少々迫力が足りない。どちらかと言えばみんなのお母さんのような語調で、女帝陛下はそう締めくくる。


 ……さて。

 それじゃ、グレイスを探しつつパーティを楽しもうか。

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