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DESIRE  作者: 海星
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第9話 俺

 仲間のメイドが数人増えた。

 全て元男の戦闘のスペシャリストだ。

 全員瀕死の時にメイドカチューシャをはめて少女に変身している。

 まだ啓が言っていた『最低限』の人数には遠く及ばない。

 だが着々とメイドも増え、スポンサーも増えて来ている。

 「ちょっとくらい贅沢なもの食べても良いんじゃないか?」と俺が言うと、啓は「これは全て店舗改装費や広告費に消える。そもそも人数がふえているんだから、食費や光熱費が増えているんだ。余分に使える金は一円もない」と相変わらず俺は見切り品の海苔弁当ばかり食べている。

 人が増えたのだから当然変化もある。

 増えたメンバーを軽く紹介する。

 先ずは長身の少女から。

 明るい色のショートヘヤのスレンダーな少女は『メイドガンメタリック』

 少し露出度高めのレスリングの衣装のようなメイド服を着用しているのが元プロレスラーの『(れい)』だ。

 特技は『ネックハンギングツリー』

 元はヒールのレスラーだったらしい。

 プロレスファンの中には時々思い込みが強い危険なファンが紛れ込むらしい。

 伶は正義のレスラーに様々な嫌がらせをする『役割』だった。

 伶はそんな思い込みが強い、過激なプロレスファンに刺されて瀕死になったのだ。

 ヒール役ではあったが、本当は正義感が強い。

 そして、体育会のノリ特有の『上下関係』を好み、俺の事を『姐さん』と呼び慕っている。

 悪気がないからイヤがれないが、本当は『姐さん』と呼ばれるのが死ぬ程イヤだ。

 『兄さん』だったらともかく。

 しかも男だった時の元々の年齢は俺よりも伶の方が上だ。

 なのに『戦隊では『姐さん』の方が先輩です』と伶は譲らない。

 正直、元々の年齢はそんなに関係無い、という事は啓を見ても、後で説明解説する人物を見ても無意味な事はハッキリしている。

 レスラーだった時は筋肉隆盛だったらしいが、今は『スレンダー』という言葉がしっくりくる。

 だが以前以上の怪力だ。


 後から「説明解説する」と言ったのが『メイドパールホワイト』だ。

 着ているメイド服は『メイドホワイト』によく似ている。

 だがよく見ると違いに気付く。

 服は和服風ではあるが、『メイドホワイト』と違い、『巫女服』を模したモノではない。

 上着は合気道の『道着』を模したモノだ。

 そして上着はよく見るとラメが入っている。

 文字通り『パールホワイト』なのだ。

 よく見ないでも見分けはつく。

 在前の袴が赤いのに対して、『メイドパールホワイト』の袴は濃紺だ。

 よく見ると『メイドパールホワイト』のメイド服はラメが入っていて派手なのだが、パッと見は合気道の道着のようだ。

 それもそのはず、『メイドパールホワイト』は合気道の達人の『風羽(ふう)』なのだ。

 名前が変わっていると思った者も多いだろう。

 風羽の父親『渋谷宮益(しぶやみやます)』は知る人ぞ知る合気道の伝説的人物だ。

 宮益の体さばきは捉えどころが無く『風の中の羽の如し』と喩えられた。

 その体さばきは宮益の『合気道の極意』だった。

 その『極意』から名付けられた子供の名前が『風羽』なのだ。

 宮益自身が明治時代初期の人物、という事からも『風羽』自身もかなり高齢である事がわかる。

 『風羽』は大正時代初期の生まれだった。

 そして末期の癌を患っていた。

 『我が合気、未だ完成せず』

 まだ死ぬ訳にはいかない。

 しかし、もう寿命が尽きる。

 そう『風羽』が口惜しく思っていた時、病院のベッドの上でメイドカチューシャを『風羽』はかぶらされて、老人は美少女メイドとして生まれ変わる。

 『合気道』の完成を夢見ていて、正義感が強い風羽が戦隊に入らない理由はなかった。

 元々風羽は『力はない方が良い。あると人は力に頼ってしまう』という持論を持っていた。

 なので、女性に生まれ変わる事に全く抵抗を感じていなかったようだ。

 高齢だった風羽は性欲が枯れている。

 若返った風羽が性欲を取り戻し、しかもその性欲が今まで経験した事がない女性の物とわかり、風羽が悩むのはまた別の話だ。


 俺は考える。

 「色カブりが酷過ぎる」

 「別にカブってないだろう?」とデザイア。

 確かに完全に同じ色のメイド服は存在しない。

 しかし、同じ『黒系』のメイド、『メイドブラック』と『メイドガンメタリック』は存在する。

 同じ『白系』のメイド、『メイドホワイト』と『メイドパールホワイト』は存在する。

 「知ってるか?

 白は200種類あるんだぞ?」

 「戦隊を『白系』だらけにするつもりか!」

 「別に良いだろう?

 トラブルも起きてないし、共存出来ているんだから」

 その通りだ。

 伶は揉めるどころか俺の事を『姐さん』と慕ってくれている。

 風羽は浮世離れしていて、在前じゃなくても他のメンバー自体への興味が薄そうだ。

 今のところトラブルの『ト』の字も見えて来ない。

 しかし、人が増えた時に『色カブり』はトラブルの種になり得る、そんな気がする。

 「考え過ぎだ。

 これからも順調に仲間のメイドを増やしていこう!」

 ・・・果たしてそうだろうか?

 本当に考え過ぎだろうか?

 人なんて十人十色、全く『出世欲』『自己顕示欲』を見せない風羽のような人物がいるなら、その逆『出世欲の塊』『自己顕示欲の塊』のような人物がいてもおかしくないんじゃないか?


 そんな心配を俺は忘れていた。

 いや、忘れざるを得ない程の大事件が起こったのだ。


 「『メイド喫茶 デザイア』開店が現実味を帯びてきました。

 開店資金、改装資金も集まってきてオープニングスタッフの人員も揃いつつあります」

 最近、朝礼なんてものをやるようになった。

 啓のアイデアだ。

 何でも『意識共有』する事が大事らしい。

 俺は啓の言う事は少し大袈裟だと思っている。

 俺達が同じ目標を持たなくても別に良いじゃん。

 結果的に世界が平和なら別に万々歳でしょ?

 メイド喫茶なんて形だけ。

 俺達が『世を偲ぶ仮の姿』を得られりゃ良いんだよ。


 「・・・で、今日からメイド喫茶のメイド育成のための社員教育を始めます!」

 え?

 ナニヲイッテルノ?


 「メイド喫茶は客商売です。

 だから最低限の接客のマナーが必要になります」

 あ、把握した。

 『接客七大用語』ってヤツだね。

 いらっしゃいませ

 少々お待ち下さい

 かしこまりました

 申し訳ありません

 みたいなヤツだ。

 確かに客商売の知識は必要だ。


 「じゃあ復唱してくれ!

 お帰りなさいませ、ご主人様!」

 「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」」」」

 「ち、ちょっと待てよ!

 お前ら、何言ってるの?」と俺。

 「いい加減、開き直れよ。

 恥ずかしがられてるのを見せられるのが、見てる方も一番恥ずかしいんだよ」と啓。

 「だからメイド喫茶やるって言ってるじゃん!」

 「やるだけじゃダメだってば。

 『やるからには徹底的にやれ!』

 『恥ずかしさ』は伝染するんだよ。

 恥ずかしがられると迷惑なんだよ!」

 「わ、わかった。

 『いらっしゃいませ、ご主人様!』」

 「まだ恥じらいが見える!」

 「『いらっしゃいませ、ご主人様!』」

 「ヤケクソで言うな!」

 「『いらっしゃいませ、ご主人様!』」

 「笑顔が足りない!」


 俺は徹底的にメイドの所作を叩き込まれた。

 「がに股で歩くな!」

 「座り方が汚い!」

 俺は啓に色々仕込まれた。


 「『美味しくなーれ、萌え萌えキュン』」

 「全然ダメだ!」

 「俺の何が悪いんだ!?

 『照れ』だって捨てているぞ!

 まだ何かを捨てろ、と言うのか!?」 

 「忍は何も捨てきれていない!

 まだ『男に何を言わせるんだ?』と思っているだろう?

 見ている方が恥ずかしくなる!」

 「思ってない!

 心の底までメイドになりきっている!」

 「いーや、なりきれていない!

 メイドがそんな言葉遣いをするか?

 メイドが『俺』なんて言うか!?」

 「そ、それは・・・。

 メイド喫茶の営業中はちゃんとする!」

 「咄嗟の時に本性が出てしまうものなのだ!

 日頃から『俺』と言わないように気を付けろ!」

 「わ、わかった。

 (とりあえず『わかった』フリしとけ)」

 「とりあえず『わかった』フリしてたらいけないから『俺』って言う度に海苔弁当のおかずが一品ずつ無くなっていくからな」

 「啓だって『僕』って言うじゃんか!

 それは良いのかよ!」

 「知ってる?

 『ボクっ娘』って需要あるんだよ?」

 「だったら『俺』も『僕』で・・・」

 「あ、『俺』って言った。

 いきなりメインのおかず取ったら可哀想だから、最初に取り上げるのはちくわの磯辺揚げで大目にみるよ。

 あと『ボク』って言うのは却下で。

 『ボクっ娘』ってそこまで太い需要はないんだよ。

 『ボクっ娘』はせいぜい一人いれば充分なんだよ。

 二人は必要ない」

 「あ、ズルい!」

 「ズルくない。

 全ては『需要と供給』の話だ。

 しかも替えないのは一人称だけだ。

 言葉遣いなんかを変えるのは一緒だよ」

 「言葉遣い変えてないじゃん!」

 「『言葉遣いを変えろ』なんて言うのは『メイド喫茶の営業中』だけだ。

 僕は『咄嗟に出てしまう一人称を変えろ』と言っているだけだ。

 『普段からの言葉遣いを変えろ』なんて無慈悲な事は言わない」

 「・・・・・・」どうやら口の上手さで啓には敵わないらしい。

 

 俺、改め私は『俺』と言う度に海苔弁当のおかずを取られていった。

 言っていないつもりで『俺』と言っていた。

 最初のうちはちくわの磯辺揚げを取られて、鶏の唐揚げを取られて、真っ赤なウィンナーを取られて、コロッケを取られて、白身フライを取られて、取られるおかずが何もなくなって海苔すら取られて、食べれたのは醤油の染み込んだご飯のみだったりした。

 『俺』と言わなくなって『私』と言うのが抵抗がなくなった頃事件は起きた。


 あー、たまには良い物が食べたい。

 たまには『のり弁』じゃなくて、『中華弁当』残らないかな?

 そんな事を考えながら私はもぐもぐとのり弁を食べていた。


 「あんたが『忍』かい?

 あんた『メイドブラック』なんだってねえ?

 どちらが本当の『メイドブラック』か、アタシと勝負しないかい?」

 何だコイツ?

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