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DESIRE  作者: 海星
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第7話 異世界

 「可哀想に」とデザイア。

 捕えられていた女性達が倒れながらピクピクと痙攣している。

 「しょうがないだろ!

 俺達だって撃たれたくなかったんだから!」

 「自分たちが盾になって女性達を守れば良かったじゃないか」

 「何でだよ!?

 撃たれれば『痛い』じゃ済まないだろうが!」

 「言っただろう?

 メイド服には『飛び道具無敵』のスキルが付いている」

 「あ」

 「思い出したか?

 お前らのメイド服は拳銃とすこぶる相性が良いんだ。

 逆にドスで一斉に襲いかかってきたらちょっと面倒だった」

 「カチューシャが『ドス』とか言うな!

 ・・・それはともかく良いのか?」

 「何がだ?」

 倒れてピクピクしているヤクザをチョンチョンと蹴りながら脳内でデザイアに語りかける。

 「コイツら、やりたい放題なんだろ?

 国も警察もコイツらのやる事には口を出せないんだよな?

 コイツらつき出すところないんじゃないの?」

 「そこまで日本という国は腐りきっていない。

 確かにコイツらは好き放題やっていたかもしれない。

 だが『こいつらに逆らえないが本当は従いたくない』ヤツは多い。

 警察やマスコミの中にもな。

 要は『コイツらに従う必要はない』『コイツらは無敵じゃない』と周りに思わせるだけで世の中はマシになる」

 「そういうモンかね?」

 「取り敢えず最初のミッション達成だな」


 次の日の新聞には『広域指定暴力団結婚組、東京湾の港湾倉庫で謎の集団昏倒。行方不明の女性も港湾倉庫で見つかる。結婚組に女性拉致の疑い。拉致女性の証言。結婚組に解散命令。拉致女性達の証言「メイドの少女三人が助けに来た」』という文字が並んだ。

ーーーーーーーーーーーーーー

 「スポンサーに『なりたそう』な人物が増えたな」とデザイア。

 「『なりたそう』ってどないやねん!」と俺。

 「スポンサーになろうにも窓口がないからな。

 我々かどこの誰かもわからないだろうし」

 「ダメじゃん!」

 「だからその『窓口担当』を仲間にするんだよ」

 「どういう事?」

 「今のままじゃ『メイド喫茶』にも『戦隊』にもマネージメント担当がいないと思わないか?」

 「そんな都合の良い仲間がどこにいるんだよ!?」

 「六本木だよ」

 「六本木!?」

 「良かったな。

 乗り換えなしで、日比谷線で一本だ」

 「何で『万能の願望器』が東京の路線に詳しいんだよ!

 ・・・まあ良い。

 六本木に将来の仲間がいるならサッサと六本木に行こうか?」

 「今、行ってもどうしようもない」

 「あぁ、確か『タイミングがある』とか言ってたな。

 仲間になるタイミングじゃなきゃ会いに行ってもしょうがないのか」

 「確かに『仲間にするタイミング』はある。

 だが、今回はそういう類いの話ではない。

 今行っても『六本木にはいない』のだ」

 「六本木に来てそれで瀕死になる、って事?」

 「そうではない。

 傷を負って六本木に逃げてきて、そこで力尽きるのだ」

 「『瀕死の傷を負う前に会ってもどうしようもない』って理屈はわかった。

 でも、傷を負った後なら少し早めに保護しても良いんじゃないか?

 何も死ぬ寸前まで傍観してなくても良いだろう?」

 「何がきっかけで運命がかわるかわからない。

 『瀕死のタイミングでカチューシャをかぶらせる』という決まりを破った場合、未来がどう変わるか?

 それは我の知るところではない。

 だが忍が『試してみたい』『試して見る価値はある』という意見なのはわかった。

 それは一つの意見として聞いておこう。

 しかし、今回はそれを試す訳にはいかない」

 「どうして?」

 「今回のターゲットの人物が傷を負う場所は遥か遠くだからだ。

 彼は遥か遠くで重傷を負い、六本木まで逃げてきて、そして力尽きる」

 「だったらその『遥か遠く』まで迎えに行けば良いんじゃないの?」

 「『遠い』というのは距離だけの遠さではない。

 我々は『物理的に』彼が傷を負った地にはいけないのだ」

 「よくわからないな」

ーーーーーーーーーーーーーー

 僕はテレビ制作会社のディレクターをしていた。

 昔はコメディアンが橋から当たり前のように川へ飛び込んでいた。

 だが、今は『放送倫理』がそれを許さない。

 ハリセンで人を叩くのでさえNGなのだ。

 面白いテレビ番組を作るのに僕は苦慮していた。

 『放送倫理』の問題と『折からの不景気』が重なって「制作費は使えない」は「倫理規程は厳しい」はで、ぼくはがんじがらめだった。

 動物番組とモノマネ番組とカラオケ番組と若手お笑い番組とグルメ番組と大食い番組と『世界の動画』番組と『警察・救急・医療』密着番組と大家族番組・・・もうこのヘビーローテーションしかなかった。

 少し制作費が工面出来ても、雛壇にタレントを並べておしゃべりさせる番組を作るのが限界だった。

 「息苦しい」「自分の作りたい番組はこんなものじゃない」「こんなものを作るために自分はテレビマンになったんじゃない」多くのテレビマン、タレントがテレビ業界からインターネット業界に活動の場所を移した。

 成功した者もいる。

 だが『テレビマンがインターネットに何しに来たんだよ?』と総スカンを食った者も少なくない。

 テレビ業界から動画配信サービスに完全に移籍した者もいるが、僕のようにその中間、つまり『ネットテレビ』業界に移籍した者もまた存在した。

 『ネットテレビ』は一昔まえの『CS放送』の完全上位互換だ。

 言ってみれば『有料配信(PPV)』のようなモノだ。

 この業界にいるメリットは『テレビより規制が緩い』と言われている事だった。

 だが『ネットテレビ』の殆どがスポーツ放送、格闘技放送になってきて、放送倫理規程がテレビ業界並みに厳しくなってきた。

 ネットテレビの業界にいても思う。

 「こんな物が自分は作りたかったんじゃない」と。

 

 そうだ。

 橋から芸人さんにバンジージャンプしてもらうんだった。

 今はたかがバンジージャンプを芸人さんにさせるにも規制が厳しい。

 安全かどうか事前に自らチェックする。

 (確実に安全な番組なんて見てて面白いと思う視聴者いないだろうに・・・)

 余計な事を考えていた。

 だから自分の安全管理を怠っていた。

 橋の上で突風が吹いた。

 あ、ヤバい。

 バランスを崩した身体が橋の手すりを越える。

 僕はバンジージャンプのヒモをつけてないんだぞ!

 橋の上から水の中に真っ逆さまだ。

 水面に叩きつけられて死ぬか?

 はたまた溺れ死ぬか?

 ここで死亡事故が起きたら番組作りが更に厳しくなる!

 僕は目をつぶり必死で身体を強打しないように、『高飛び込み』みたいに指先から着水しようとした。

 僕は大理石の床に指先から地面につき突き指した。

 「イテー!」

 僕は痛みでゴロゴロと床を転げ回った。

 スゲー痛いけど死なずに済んだみたいだ。

 けどおかしいぞ?

 何で落ちた先が水の中じゃなくて、大理石の床なんだ?

 そもそもあの高さから石の床に叩きつけられて何で『イテー!』だけで済むんだ?

 トマトみたいに潰れるのが普通だろ。

 それどころか指も腕も骨折してないみたいだ。

 怪我は『突き指』だけっぽい。

 というかここはどこなんだ?

 頭の中が「?????」と『?マーク』で一杯の僕に白いヒゲをたくわえた赤いマントと王冠を付けたオッサンが僕に言う。

 「よくぞ我々の召還に応じてくれた!

 異世界の大賢者よ!」

 誰だ?この恰幅の良いフライドチキン屋の前の像みたいなオッサンは。

 「賢者?勇者じゃなくて?」僕は反射的に聞いた。

 テレビで一般公募の参加者を『勇者』に見立てて、アスレチックをさせる番組は珍しくなかった。

 そういう番組の謳い文句が『よくぞ集まってくれた、選ばれし勇者達よ!』というモノだった。

 だから番組参加者を『勇者』と呼ぶ番組で僕はディレクターをしていた。

 思えばあの番組のヒットが僕の全盛期だった。

 「勇者は国内から選抜される。

 異世界から召還されるのは勇者の補助の人員だ」どうやらこれは番組内の企画ではないらしい。

 番組内の企画であれば、裏方である僕が『大賢者』なんてモノに選ばれるのはおかしい。

 テレビカメラもないし、ここにいる人達は大真面目で演技をしている様子もない。

 このオッサンが言うには僕は『異世界』から召還されたらしい。

 つまり『日本』にとってはこここそが『異世界』、つまり僕は異世界に召還されたらしい。


 僕がただのオッサンだ。

 大学時代『人気アイドルに会いたい』なんて軽い理由でテレビ局でADのアルバイトを始めた。

 実際に会ったアイドルにはすぐに幻滅したが、番組作りに惹かれた僕は、大学を中退して番組制作会社に就職する。

 それだけの男だ。

 僕が得意なのはスケジュール管理と、時間管理と、予算管理と、人員管理だ。

 大賢者なんて呼ばれるような特技は何一つ持っていない。

 知らない世界に来た僕は自分に出来る事をした。

 逆にそれ以外何も出来なかった。

 『勇者チーム』という集団を編成して、徹底的にスケジュール管理、時間管理、予算管理、人員管理に取り組んだ。

 最初の内は勇者の傍らにいつもいて『マネージメント』をしていた。

 だが『いつも勇者と共にいる』という事は頻繁に戦闘に巻き込まれた。

 やむを得ず僕は戦闘に参加した。

 そしていつの間にか僕は名実共に『大賢者』と呼ばれる存在に成長していた。

 元々『異世界人』の成長率は「桁違いに高い」と言われていた。

 そこに持ってきて僕は常に勇者と共に戦闘に参加していた。

 『魔術師として右に出る者がいない』と言われる僕だったが「実は剣の腕も勇者より高いんじゃないか?」と噂される事もあった。

 魔王を討伐し世界に平和が訪れた・・・はずだった僕は勇者の行う平和宣言の直前、いきなり背後から背中を斬り付けられた。

 魔王の斬撃すらいなす僕にとって、常人に背中を斬り付けられる位、大したダメージになる訳がない。

 驚いて後ろを振り返る。

 そこには剣を構えた勇者が立っていた。

 そうか、僕は唯一背中を預けた存在に背中から斬り付けられたんだ。

 油断もあった。

 僕がスケジュールを立てて強化しまくった勇者のステータスもある。

 そして、勇者のみが装備出来る超強力な装備の力もある。

 勇者は僕にこの異世界で唯一深手を負わせられる存在だろう。

 その勇者に僕は裏切られた。

 思えば裏切られる兆候は沢山あった。

 泉の女神が、神龍が、勇者ではなく僕と話をした時、勇者はつまらなそうな顔をしていた。

 僕はディレクターとして何を学んでいたのだろう?

 裏方は主役より目立ってはいけない。

 目立つと物語は歪みを生む。

 歪んだ物語は予想外の、理想とは違うバッドエンドを生む。

 この結末は僕が生んだ必然だ。


 この魔術は使うつもりはなかった。

 最近はこの異世界で骨を埋めても良い、と思っていた。

 『この異世界を救う手助けが自分には出来る』そう思っていた。

 異世界に来たばかりの頃のように『どうやれば日本に帰れるか』を考える事は最近はなくなってきていた。

 僕が異世界に召還された時の『召還の儀式』を徹底的に研究した。

 研究して『日本と異世界を繋げる仕組み』を魔術的に解明した。

 繋げる事には成功した。

 物を取り寄せたり、物を送ったりは出来るようになった。

 しかし、人間が日本と異世界を行ったり来たり出来るだろうか?

 それは人体実験しなくてはわからない。

 その人体実験は自分でないと意味がない。

 たとえ他人を日本に送る事に成功したとして、自分が日本へ行かなくては、転送が成功したかどうか確認する手段がないからだ。

 人間を日本へ送る事は出来ていない。

 その人命がかかる実験に自分が参加する踏ん切りはつかない。

 そして、その『日本と異世界を行き来する』という実験は一旦中断した。

 別の魔術の研究、魔王討伐、勇者チームのマネージメントが忙しくなったからだ。


 背中を聖剣で斬られて深手を負わされた僕は逃げれるところまで逃げた。

 『大賢者様、ご乱心』

 いきなり斬られたのは僕なのに、僕が勇者に反旗を翻した事になっている。

 今や僕はお尋ね者だ。

 逃げる場所なんてどこにもない。

 いや、一つだけ絶対追っ手が来ない逃げ場がある。

 そこへ行けば間違いなく逃げ切れる。

 しかし、そこへ生きて行ける保証はない。

 その場所とは『日本』

 まだ僕が『日本』へ帰るのを諦めていない時に、日本と異世界を繋げる魔術を産み出した。

 しかし生物を日本へ送った事は一度もない。

 まさか人体実験が自分の身体になるとは思わなかった。

 背中を斬られて既に瀕死の僕は魔力の大半を使って、日本へ繋がるゲートを産み出す。

 その作業は既に瀕死である僕の体力をガリガリ削る。

 しかしそれで終わりではない。

 僕はその日本へ繋がるゲートへと飛び込む。

 ゲート内には凄い重力がかかる。

 ゲートは生きた人間が通る物ではなく、『召還の儀式』のように安全に日本と異世界を繋げる扉のような物ではないのだ。

 僕はゲートを通り、懐かしの日本へ帰って来た。

 だが、僕は背中を斬られているだけじゃなく、魔力も体力も使い果たして、ゲート内でほぼ潰されていて、命があるのが不思議なくらいだ。

 生きているのは『勇者チーム』で生命力を上げまくった賜物だろう。

 ここは覚えがある。

 ここは赤坂のテレビ局の小道具部屋だ。

 あぁ、僕は日本へ帰って来たんだ。

 でも僕は日本に戻って来た途端に死ぬのか。

 背中に深手を負っている。

 出血多量だ。

 全身の骨が砕けている。

 ゲートを通る時に重力に押し潰されている。

 もう意識が朦朧としている。

 意識を失う前に三人の少女が僕を覗き込んでいた気がする。

 ここはテレビ局だ。

 三人はアイドルだろうか?

 アイドルの女の子達に僕の死体を発見させる事になりそうだ。

 あの娘達にとってはトラウマになるだろうな。

 申し訳ない。

ーーーーーーーーーーーーー

 「この人で間違いないか?」と俺。

 「あぁ、間違いない。

 さぁ早く、彼が命を落とす前に(カチューシャ)をはめるんだ」

 全身ボロボロで、本当に生きているか疑わしい男の頭にカチューシャをつける。

 今までカチューシャをつけてきた若者とはかなり毛色が違う。

 明らかに今回カチューシャをはめた人物はオッサンだ。

 ほうれい線もくっきりと浮き出ている。

 こんなメイドカチューシャが似合わない男も珍しい。

 思わず俺はカチューシャをはめたオッサンを見て、眉をひそめてしまった。

 そんな時、オッサンが白い光に包まれる。

 いい加減この光景にも慣れた。

 光に包まれた男はメイド服姿の女になるのだ。

 しかし、今まで若い男は少女になったが、果たしてオッサンは何になるのだろうか?

 おばさんになるのだろうか?

 メイド服姿のおばさん・・・別におかしくないか。

 ハイジに出てくるおばさん、ロッテンマイヤーさんだっけ?、あんなんだっていくらでもいるはずだ。

 本来メイドが若い方が珍しいんだ。

 おばさんのメイドの方が普通に多いはずだ。

 そんな事を考えながら白い光に包まれるオッサンを見ている。

 光が収まる。

 そこにはメイド服を着たおばさんが・・・いなかった。

 そこにはおばさんどころか自分達より更に幼い少女が寝ていた。

 少女は三角帽子をかぶり、まるで魔女のようなメイド服を着ていた。


 「このタイミングで普通は目を覚ますはずなんだけど」と俺。

 「何があったのか、凄い消耗して疲れてるみたいだな」と在前。

 「しょうがない。

 おぶってアジトまで連れて行こう」と蓮。

 奇天烈なメイド服姿の少女達だがそれはさすがテレビ局、タレントだと思われたんだろう、入る時も特に呼び止められなかったが、出る時も特に呼び止められなかった。

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