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DESIRE  作者: 海星
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第3話 仲間

感想お待ちしています!

 「で、必死こいてママチャリ運転して来させられたここはどこだ?」

 「秋葉原だ」

 「なんでだよ!?」

 「『木を隠すなら森の中』と言うだろ?

 ここが日本で一番『メイド服姿が不自然じゃない場所』なのだ。

 現に誰もお前の事を好奇の目で見ていないだろう?」

 「いや、ジロジロ見られてるぞ!」

 「それはお前に見惚れているんだ。

 ホラ、声をかけてくるぞ」

 「お嬢さん可愛いね。

 どこのお店のメイドさん?

 いっぺんお店に行きたいんだけど・・・」

 声をかけて来た男は一人だけだったが、聞き耳を立てている男は沢山いた。

 つまり俺がどこのメイド喫茶で働いているか、興味のある男が沢山いる、という事だ。

 俺は誤魔化すために手を軽く振ってその場を後にする。

 「何故逃げるのだ?」とデザイア。

 「いや、何て答えりゃ良いかわからないし。

 実際には『メイド喫茶なんかじゃ働いてない』し」

 「そりゃそうか。

 だが秋葉原でメイド服姿が如何に違和感ないかがわかっただろう?」

 「確かに。

 だから長距離をママチャリで運転させたんだな。

 だけど、だったら中野の方が近かっただろうに。

 『オタクの街』という意味では中野でも良かったんじゃないか?」

 「確かに、メイド服を隠すためだけなら中野でも良かったかもな。

 しかし、秋葉原の近くには『二人目の仲間』候補がいるんだ」

 「お前にはそれがわかるのか?」

 「わかるに決まってるだろう?

 わかっているからこそ、お前にだって近付けたのだ。

 ・・・それより、我はお前に『デザイア』と名乗った。

 なのにお前は未だに我に名前を告げぬな」

 「ないからな」

 「ないだと?」

 「忍者である以上色々な名前を名乗った。

 どれも本当の名前ではない。

 忍者の里で呼ばれていた名前もあった。

 だがその名も里を抜ける時に捨てている。

 今俺に名乗るべき名前はない。

 いや、偽造の免許証に書かれている『真田 忍』というのが今名乗っている唯一の名前だ」

 「わかった。

 便宜上、お前の事は『忍』と呼ばさせてくれ」

 「好きに呼べ。

 どうせお前との会話は脳内だ。

 誰かに聞かれる訳でもない」

 「今までは脳内でのやり取りで名前など呼ぶ必要もなかった。

 だが、仲間が新しく出来たらそういう訳にはいかない。

 仲間同士、名前で呼び合わなきゃいけない」

 「全ては『仲間が出来たら』と言う話だ」

 「出来るさ。

 我は鼻がきくのだ。

 強者の匂い、命の終わりを迎えようとしている者の匂いには敏感なのだ。

 その匂いに導かれて、忍とも出会ったであろう?

 ただ、自ら動く労力はなかなか発揮出来ない。

 忍の元に行った時に全ての力を使い果たした。

 しかも、今の我はメイドカチューシャの形状だ。

 『自分で動く』という事が不可能だ。

 忍に移動させてもらうしかない」

 「わかった、が、『俺の希望でメイドカチューシャの形状になった』と人聞きの悪い事を言うのはやめてくれ。

 俺は女になるのも、メイドになるのも、希望した覚えはない」

 「『希望した覚えはない』か。

 つまり忍の願望は『深層心理』な訳だ」

 「よし、このカチューシャを燃やそう」

 「あ、ウソウソ。

 確かに願望が違う形で叶えられる事は多い。

 『金持ちになりたい』という願望を叶えた者のほとんどが『こんなはずじゃなかった』と思うものだ。

 叶えたい未来を叶えたい形で実現出来る者がどれだけいるだろうか?」

 「・・・たく。

 まあ良いや。

 とにかくまともな生活送って、男に戻るにはお前に付き合わなきゃいけないんだな。

 早くその『仲間』とやらのところへ連れて行ってくれよ」

 「そう急ぐな。

 タイミングというものがあるんだ」

 「タイミング?」

 「そうだ。

 未来の『仲間』が瀕死になるタイミングがな」

 「お前、性格悪いな。

 瀕死になる前にソイツの事助けてやればいいじゃんか」

 「それでも構わんが、そうしたらソイツは二度と仲間にはならんぞ?

 しかも、その時は助かっても後から命を狙われる。

 忍の時を思い出せ。

 あの場を切り抜けたとしても、早かれ遅かれ殺されていただろう?

 未来の仲間を助けるには瀕死になった仲間を別人に生まれ変わらせるしかないのだ。

 他に大きな組織に狙われた個人が助かる方法があるか?」

 「・・・わかったよ。

 瀕死のソイツにカチューシャをかぶせりゃ良いんだな?」

 「そういう事だ」

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 私は長年、拳法の修行をしている。

 元々は空手を習っていた。

 だが私が習っていたのは所謂『寸止め空手』だった。

 私は格闘技志向が強く『フルコンタクト』の中国拳法に徐々に惹かれていった。

 気付けば私は『趙家拳』を習っていた。

 私が『趙家拳』に惹かれたのは、『実践的であること』だった。

 フルコンタクトであるのは当たり前。

 中国拳法では槍やヌンチャク、トンファー、剣、三節棍など武器を扱う事も多いが、『趙家拳』は『暗器』を扱う事を得意とした武術だ。

 とにかく武器を持っていないように見えて殺傷力が高い。

 そんなところに私は惹かれたのだ。

 もちろん人を殺したい訳じゃない。

 ただ『一撃必殺』という響きが好きなのだ。

 

 私がひたすら功夫(クンフー)を積んでいると、兄弟子達がやってきた。

 師匠は兄弟子達の事を『道を踏み外した者達』と言っていた。

 『趙家拳』は中国拳法だ。

 師匠は日本人でなく中国人だ。

 そして兄弟子達も中国人だ。

 兄弟子達は日本人である私が『趙家拳』をやっているのも、師匠に気に入られているのも面白くなかったんだろう。

 細かい嫌がらせを私にしてきていた。

 その嫌がらせが師匠の知るところとなり、兄弟子達は破門になった。

 その後兄弟子達が『チャイニーズマフィアになった』という風の噂を耳にした。

 あまり私は気にしていなかったが、周りの人間は私に『気を付けろ、アイツらはお前のに逆恨みしている』と忠告した。

 私は未成年ながらも『師範代』のポジションまで上り詰めた。

 師匠が中国へ里帰りしていて私が道場を任されているタイミングで、兄弟子達が久しぶりに道場へやってきた。

 「『貴方達を道場に入れるな』と師匠から言われています。

 お引き取りを」

 「つれない事を言うなよ。

 俺とお前の仲じゃないか」

 「貴方から数々の嫌がらせは受けましたが恩を感じた事などはありません。

 『私と兄弟子の仲』が何を指しているのかはわかりませんが私は師匠の意向通り、貴方達を道場へ入れる事は出来ません」

 「・・・お前、俺らを敵に回すって事がどれだけ大きな組織を敵に回す事になるかわかっているのか?」

 「わかっています。

 わかっているからこそ師匠の『ヤクザ者達に道場の敷居を跨がせるな』という言葉を守っているのです」

 「なんだよ。

 わかっている上で俺らにケンカ売ってるのか。

 元々気に食わなかったんだよ!

 日本人のクセに中国拳法をやりやがって!」

 「私が日本人である事が気に入らないなら、他の門下生達を帰らせて下さい。

 彼らには何の恨みもないでしょう?」

 「ふん、自ら一人になろうとするか。

 俺らもナメられたものだな!」

 「ナメてるんじゃありません。

 兄弟子達の私への私怨に他の道場生達を巻き込みたくない・・・それだけです」

 「格好つけやがって!」

 格好つけてなんかいない。

 その筋との人間となんて関係した時点で勝ちはない。

 一回勝っても終わりにならない。

 二回目は更に敵は増える。

 三回目は更にだ。


 どうせ負け決定なら関わる人間は少ない方が良い。

 善良を気取る訳じゃないが「みんな仲良く不幸になりましょう」なんて無意味すぎる。


 「さあ、立ち合いましょう」

 「ずいぶん余裕をかましているじゃないか!」兄弟子達のリーダー格のヤツが噛みつきそうな勢いで言う。

 私はこの兄弟子に立ち合いで勝った事はない。

 いつも立ち合いの中でいじめらていた。

 「では、よろしくお願いします」

 「また可愛いがってやるよ」

 ・

 ・

 ・

 ・

 おかしい。

 兄弟子には歯が立たなかったはずだ。

 なのに・・・ハッキリ言って『大した事ない、敵じゃない』

 私が強くなったのもある。

 それ以上に兄弟子が弱くなったんだ。

 酒や煙草や薬、享楽に溺れて全く身体を鍛えず功夫を積まず・・・。

 「もう止めましょう。

 時間の無駄です」私は拳、蹴り、全てを軽く捌き、息が上がって膝が笑っている兄弟子を見下ろしながら言う。

 「ば、バカにしやがって!

 テメーらやっちまえ!」

 兄弟子達だけでなく、見物していたチャイニーズマフィア達が一斉に私に襲いかかる。

 考えていた通りだ、勝ちなど存在しない。

 一人を叩きのめせば十人が、十人を叩きのめせば百人が襲いかかってくる。

 結局チャイニーズマフィアを敵に回した時点で私の『負け』は決まっていた。

 だが私は師匠に留守を任されている。

 私の敗北は『趙家拳』の敗北だ。

 ここは引けない。

 相手は七人。

 四人は元拳法家。

 七人全員が何かしらの格闘技を経験している。

 そして七人全員が喧嘩慣れしている。

 そんな連中が一斉に襲いかかってきているのだ。

 無傷ではいられない。

 ヤツらは腐っても元格闘家。

 的確に急所を狙ってくる。


 七人全員を倒す。

 しかし私も何とか立っている状態だ。

 どうせ勝利は一瞬のもの。

 私が負けるまで勝負は何度でも繰り返される。

 しかし今は一時の勝利を・・・。

 そう思っていた時、後ろから乾いた破裂音が聞こえた。

 火薬の臭い。

 そうか、音は銃声か。

 何を撃ったんだ。

 何やら下っ腹が暖かい。

 自分の下っ腹に触れてみる。

 手が血にまみれる。

 どうやら私が背中から撃たれたようだ。

 振り返るとそこには最初に倒したはずの兄弟子が改造トカレフを構えている。

 『獣にはとどめを刺せ。

 情はかけるな。

 アイツらには言葉は通じない。

 情は仇という形で跳ね返ってくるぞ』師匠の言う通りだった。

 かつての兄弟子に対する手加減が最悪の形で跳ね返ってきたのだ。

 「アニキ!

 銃声は不味いです!

 サツが来ます!」下っ端のマフィアが改造トカレフを撃った兄弟子に言う。

 「お、お前ら!

 ずらかるぞ!」

 襲撃してきたマフィア達が身体を引き摺りながら、倒れた仲間と肩を組みながら道場から逃げて行く。

 道場に残されたのは私一人。

 道場生達は先に帰らせたんだった。

 もう助からないかも知れないが救急車を呼ばないと。

 スマホは私服の中だ。

 私服は脱衣場だ。

 今の私に脱衣場まで行くだけの力は残されていない。

 ヤバい。

 血を流しすぎた。

 意識が遠退く。

 視界が霞む。

 もうほとんど何も見えない。

 「ここで死ぬのか・・・」

 私は呟く。

 死が近付いているせいか、ついには幻覚が見え出した。

 道場にはいるはずがない、メイド姿の女の子が見える。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 「致命傷だね、そして何より血を流しすぎだ。

 もうこの男は、いくら名医でも助けられない」

 「助ける方法はもう1つだけだ。

 『生まれ変わらせる事』だ」

 「『生まれ変わらせる』?」

 「そうだ。

 過去に死に瀕した忍が生まれ変わったように」

 「もしかして・・・」

 「そうだ。

 (デザイア)を付けるのだ!」

 「・・・そうか。

 それしかないか。

 可哀想に」

 「そんな事より早く(カチューシャ)をつけさせろ。

 さすがの我も命を落とした者を生まれ変わらせられない」

 俺は男の頭にメイドカチューシャをはめる。

 筋骨隆々の厳つい男がメイドカチューシャをはめる姿は中々にシュールだ。

 しかし次の瞬間、男の身体は白く眩しい光を放ち出す。

 光が収まるとそこにはメイドカチューシャをはめた筋骨隆々の厳つい男はどこにもいなかった。

 そして男が流した血だまりもない。

 そこにはメイド服姿の少女がメイドカチューシャをはめて横になって寝ている。

 メイド服は紫色で少しチャイナドレスを模した物だ。

 「倒れていた男は?」と俺。

 「本当はわかっているクセに。

 あの男なら目の前で寝ているだろう」とデザイア。

 やっぱりか。

 つまりこの少女(男)は俺の一人目の仲間なのだ。

 「しかし何で少女なんだよ」

 「それはこちらが聞きたい。

 そう望んだのは忍ではないか。

 お前の願望のせいで男は少女になったのだ。

 忍はこの少女(元男)に恨まれるかもな」

 「そ、それはともかく!

 何でメイド服なんだよ!」

 「闘う少女はこういうヒラヒラした格好が相場なんだろう?」

 「テメー!

 日朝の女の子向けアニメで間違えた情報、間違えてリサーチしてんじゃねえ!」

 「とにかくそれがお前らの正装だ。

 それはただの『メイド服』じゃない。

 その服はその少女(元男)を撃った弾丸程度なら跳ね返す」

 「弾丸の衝撃を跳ね返すなら、殴られようが斬られようが無効だな!」

 「いや『飛び道具無効』なだけで殴られりゃ痛い」

 「・・・そうかよ」

 「忍はこの凄さがイマイチわかってないな。

 『飛び道具』ならランチャーだろうが、戦車砲だろうが、ミサイルだろうが跳ね返すんだぞ?」

 「でも殴られりゃ痛いんだよな?」

 「それはそうだが・・・。

 忍は何か勘違いをしている。

 そもそも、そう簡単に『無敵』が作れるなら忍の力など借りようと思う訳あるまい?」

 俺とデザイアの脳内会議は少女(元男)が目覚めるまで続いた。

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