第2話 一蓮托生
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「お願いしまーす。
新装開店でーす」
俺はメイド服姿でパチンコ屋のチラシを配る。
忍者をやめた俺は住むところも、仕事も失った。
俺はネカフェで寝泊まりしている。
金はかかる。
だからバイトをする。
最初は日雇いの肉体労働を希望していた。
他に服のない俺は飯場へ向かうマイクロバスに乗り込もうとしたところで現場監督に「お前は仕事をバカにしているのか!車から降りろ!」と怒鳴られた。
バカにしている訳じゃない。
これしか服を持ってないんだ。
自称『万能の願望器』であるメイドカチューシャは着替えをいくらでも生み出してくれる。
しかしその着替えは全てメイド服だ。
「これしか産み出せないのか!?」と聞いたら「そもそも我は『着替えを産み出すための器』じゃない。メイド服を産み出すのもオマケみたいなモノだ」と言われてしまった。
言う事は尤もだ。
『万能の願望器』に俺は何を求めているのだろう?
俺は二日に一回メイド服をクリーニングに出す。
しかしその費用はバカにならない。
朝から晩まで働く。
ビラ配りをやっている理由は給料が日払いだからだ。
忍者だった時から本物の戸籍はなかった。
身分証明書は偽造だ。
忍者御用達の身分証明書偽造屋には頼めない。
足がついてしまう。
忍者にバレたところでどうという事はないかも知れない。
ただもう忍者とは絡みたくない。
会いたくない。
俺が組織の忍者だった時、誰かが俺を騙せただろうか?
俺を騙せる人間がいたとは思えない。
俺みたいな『人に騙されない忍者』が組織にいる可能性はある。
俺はクオリティが低いのを承知で、外国人相手に偽造パスポートなどを作っている業者の作った偽造免許証を身分証明書としてネカフェに提示し寝泊まりしている。
ちゃんとした仕事にはつけない。
身分確認がいい加減な仕事を選んでしかも日払い、現金払いの仕事を選んだ結果、ティッシュ配りやチラシ配りなのだ。
選べない以上、給料は安い。
安い上にネカフェ代とクリーニング代はバカにならない。
食事は1日に二食だ。
一食はネカフェの無料のモーニングだ。
実質、お金を払う食事は1日に一食だ。
『食事に金を払う』と言っても、毎日外食する訳ではない。
閉店間際のスーパーマーケットで見切り品を漁るのだ。
「ジリ貧だ」
俺は見切り品の弁当を食べた後、ネカフェのブースで弱音を吐く。
「どうしようか?」
俺は呟く。
実は今日、職務質問を受けた。
警察に連行はされなかったが、かなり怪しまれた。
当たり前だ、メイド服の若い女が一人でネカフェに長期滞在しているんだから。
徹底的に調べられたら免許が偽物なのがバレてしまう。
「泊まるネカフェを替えるしかないか」
しかし今泊まっているネカフェは料金も安く、無料のシャワーもついている。
それに今日職務質問を受けた場所は、数少ない日払いのビラ配りの仕事を斡旋してくれるところの近くだった。
しばらくあそこら辺には近付けない。
つまり、確実に金になる唯一の仕事を失ったのだ。
そして根掘り葉掘り聞かれて滞在している格安ネカフェもバレた。
仕事を失って、棲み家も失った。
蓄えもない。
いよいよホームレス生活を覚悟しなきゃいけないか、と思ったら久々にカチューシャが俺の頭の中に語りかけ始めた。
「しばらく様子を見ようと思ったんだけど、そうも言ってられないな」
「今まで放置しといてどういうつもりだったんだよ!
世の中、戸籍もない人間には冷たいんだよ!
ホームレスになるの覚悟したところだったじゃんか!」
「『しばらく忍者じゃなくなった解放感を楽しみたいかな?』と思って、口を挟むのを自重していたのだ。
どうだった?
自由を堪能したか?」
「する訳ないだろう?
とかくこの世は金次第。
人生を楽しめるヤツは金があるんだよ!
貧乏人に人生が謳歌出来れば苦労はないんだよ!
身分証明書も保証人もなく、金もない人間に世間は冷たいんだよ!」
「やはりな、思った通りだった」
「わかってたんかい!」
「んなもん、経験しないとわからないだろうが。
『自由』という名の『不自由』を経験しないと、『忍者を辞めても自由はない。忍者の里を抜けても指令を下す対象が変わっただけだ』とわからないだろう?
忍者じゃなくても、社会人も生きてる限りそんなに自由はない」
「それをいっぺん身をもって実感させるために、この貧乏暮らしに俺を落とした訳か!?」
「人聞きの悪い事を言うな。
そこまで人生軽く考えてた訳じゃない!」
「どうだか。
とりあえず『バカンス』は終わりだ。
これからは我の言う事に従ってもらう」
「・・・嫌だと言ったら?」
「好きにしろ。
無理強いはしない。
お前は我を捨てて、自由に生きれば良い。
ホームレスにでも何にでもなれ。
我はお前に『道』を指し示す事が出来る。
少なくとも我の言う事に従う限り、お前が道に迷う事はない。
食いっぱぐれる事もない。
どの道を選ぶかはお前次第だ」
「・・・わかった。
しばらくはお前の言う通りにしよう。
で、結局お前は俺に何をさせたいんだ?」
「世界を救え」
「意味がわからん。
じゃあ、何で俺を女にしたんだ?」
「お前は追われていた。
だから、腰を落ち着けて世界を救わせるためには『姿を変える』必要があった。
ここまではわかるか?」
「そこまでは完全に同意だ。
前の姿のままの俺に安息なんてある訳ないからな。
実際お前に助けられた時、死ぬ寸前だったし。
そこまでは良い。
問題は『何故女にしたか?』だ」
「知らん。
お前の願望を我が叶えられる形にしただけだ。
『女の乳をもみたい』という」
「自分の乳なら男でももめるだろうが!」
「男が自分の乳をもんでも『女の乳』をもむ事にはならんだろう?」
「『叶え方』ってもんがあるだろうが!
お前は万能なんだろうが!」
「『万能』の存在が効率を考えないなんて事はない。
ゲームでも『世界の半分をやる』って魔王が言っても、誰も欲しがらない闇の世界しかくれないだろう?」
「ゲームなんてやった事ないから知らないけど・・・」
「『出来る』という事と『やることに労力がかからない』という話は全く別だ。
我は最も労力がかからない方法を模索した結果、お前を女にしたのだ」
「そうかよ!
お前はイマイチ人間の欲望ってもんが理解出来てない。
男だろうが、女だろうが、自分の胸をもみたいヤツはいない!」
「覚えておこう」
「忘れても良いから俺を男に戻せ!」
「それはムリだ。
我はお前の願望により変質した。
我は装着した男を女にする。
二回目の変質はあり得ない」
「つまり俺は男に戻れない、と?」
「我はお前を男には戻せない。
だが我が戻せないだけで、お前を男に戻せる物も存在するかも知れない」
「わかった。
今は女のままで我慢する。
我慢する・・・が、何だこの格好は!?
目立ってしょうがないだろうが!」
「知るか。
我は人間の事をよく知らん。
テレビで偶然、世界を救うために戦っていた少女達がこんな格好だったんだ。
だから女にしたお前をその格好にした、それだけの話だ。
お前には世界を救って欲しいからな」
「『万能の願望器』が日曜日朝の女の子向けのアニメ観てるんじゃねえ!」
「アニメだけじゃないぞ。
色ちがいの五人の救世主達が悪と戦う話も見たぞ」
「そりゃ『戦隊モノ』だ!」
「だから仲間をあと四人集めるのだ。
そして世界を救え!」
「女の子向けのアニメと戦隊モノを混ぜて解釈してんじゃねえ!
それは全部作り話だ!」
「・・・まさか、そんな・・・。
既にそれしか世界を救う方法はないのに・・・。
し、しかし他に世界を救う方法はないのだ。
ホームレスになりたいのなら好きにしろ。
ただ男に戻るのは絶望的だな。
お前が男に戻るためには世界を救って回って、我のような『万能の願望器』を探すしかない。
男に戻りたいなら、我と共に来い。
仲間をあと四人集めるのだ。
それに仲間を増やさなければ戦隊の『脱退』は叶わない。
戦隊を脱帽する事が男に戻る必要絶対条件だ」
「悪と戦う?
そんな事が出来るか!」
「出来るだろう?
元々お前は戦闘力が高いだろう?
しかもお前の着ている服には『更に戦闘力を大きく向上させる』効果がある」
「そうなの?
ティッシュとかチラシとか配ってるだけじゃわからなかった」
「自分に『闘う力』が備わっているのはわかった。
でもあと四人はどうやって集めるの?
普通の人を四人集めても戦力にならないんじゃないの?」
「お前の願望を聞いた時の方法があるだろう?」
「ま、まさか・・・」
「見込みのある戦士に我をかぶらせるのだ」
「み、見込みのある戦士がカチューシャを付けるかなー?
しかもカチューシャをつけたら女のなるんだよね?」
「そんなに女になるのはイヤか?」
「無茶苦茶イヤだわ!」
「そうか、そんなにイヤか。
だったら抵抗出来ない瀕死の戦士に付けさせるしかないな」
「無理矢理女にするのかよ!」
「人聞きの悪い。
『死に瀕した男』にラストチャンスをやるのだ。
お前にラストチャンスを与えたようにな」
「物は言い様だな。
しかし俺が『生きたい』って言ったのは『ホームレスになりたい』って意味じゃない。
お前に付き合ってれば少しはまともな暮らしが出来る、しかも男に戻る方法も見つかるかも知れない、って言うなら少しはお前に付き合ってやるよ」
「一蓮托生というヤツだな」