第2話
「ぼっち魂?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと待って、まずあの子を保健室に連れて行こう」
「あ、そうですね。ところで名前は?」
「私は2年B組九条凪」
九条凪 -黒髪のミディアムヘアのオールバックが切長の奥二重と相まって大人のアンニュイな雰囲気を醸し出す。
俺と九条先輩ははぶっ倒れて意識を失っている有村の体を起こし、俺は左肩、九条先輩は右肩をくびに回し持ち上げて教室を出て保健室に向かう。
「彼女は危険な状態だったんですか?」
「あなたは球体が赤色に染まったって言ったでしょ」
「はい」
「あれね、信号機でいうところの赤信号なの。つまり、死が訪れようとしているサインなの」
「なるほど。じゃあ、黄色は何なんですか?」
「黄色はぼっち魂って私たちは呼ぶって言ったよね。そのぼっち魂は誰とも連まず1人でいることで発生する現象ではなくて孤独や満たされない心など内面的な状態を表すの」
「有村がリア充のグループにいるのにぼっち魂が出現したのは内面の満たされない心が具現化したわけですね」
「そういうこと」
保健室に着き、九条先輩は保健の先生に有村が自殺を図ろうとしたのを俺が止めたなど事細かく話す。
「分かったわ。生活指導の谷山先生に話しとくわ。これ書いてくれる?」
来訪者記入欄に九条先輩が自分の名前を書く。
「東くんも」
「はい、ペンは?」
「はい」
九条先輩にペンを受け取り、紙に名前を書く。
「では、お願いします、失礼します」
九条先輩は頭を下げ、俺も後に続いて頭を下げる。
「あれで大丈夫なんですか?」
「取り敢えず、現状はね。でも、さっきの子の為に私たちが動く日もくるよ。東くんついてきて」
教室を後にした俺は九条先輩の後を歩く。
3階,4階と上がり、真っ直ぐ行った突き当たりの音楽室の隣の準備室という名の空き部屋のドアを開ける。
「新入部員を連れてきたわ」
長机2つ分を挟んんで2人が向かいあって座っている。1人は同じ1年、もう1人は2年。
「この子はあなたと同じ1年の朝倉雪菜」
「朝倉とは幼馴染です」
「え、そうなの?奇遇だね2人共」
「凪先輩、こいつもぼっち魂見れるんですか?」
手前に座っている朝倉雪菜がギロッとこちらを睨む。
「幼馴染をこいつ呼ばわりかよ」
「仲良いね、2人共も」
「「いや、犬猿の仲ですよ」」
「ハモるなよ」 「ハモらないでよ」
また、同時に言葉を発してしまった。
朝倉雪菜ー金髪の前髪ぱっつんミディアムボブに黒目が大きく目尻が下向きの二重のタレ目はおっとりした見た目に見えるが全くその正反対の気性の荒い性格である。
「んふふふ」
九条先輩はグーの拳で口元を覆いクスッと笑う。
九条先輩の混じり気のない笑い顔は涼しやかなイメージとのギャップに胸が騒つく。
「九条、それで彼もぼっち魂が見えるのか?」
奥にいた眼鏡を掛けた爽やかで賢そうな青いネクタイをした2年生の生徒が言った。
「うん。こちらは2年の屋敷、この東秋久くんはぼっち魂どころか赤色に変色するまで見えるの」
九条先輩は俺の肩に手を回す。九条先輩の身体が密着してドキッとする。
「赤色が見えるのか?」
屋敷先輩は驚きの隠せない顔をした。
「凄いことなんですか?」
俺は怪訝な顔つきで訊いた。
「あなた以外のここにいる3人はぼっち魂は見えるけど赤色に変色するまでは見えないの。だから、あなたは貴重な存在なのよ」
「明久が赤色の球体を見えるなんて」
朝倉は悔しさで顔が歪む。
「黒の球体は流石に見えないのか?」
「あの時、黒の球体は見えなかった?」
「赤色しか。黒色もあるんですか?」
「黒は滅多に出現しないんだけどね、赤は自殺の兆しで黒は暴走して人を傷つける兆しなの」
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次話(一話分)は明後日の8月29日(月)に更新します。