第1話
*当作品はフィクションであり、実際する人物・地名・団体・事件とは一切関係ありません。未成年者の喫煙および飲酒は法律できつく禁じられています。過激な表現や刺激的な描写も含んでおります。読む際は上記で記されている点を確認してから読むことを推奨します。
昼休みに窓際の一番後ろの隅に座り、クラスの生徒達が談笑している中頬杖をつき、イヤホンで好きな曲を聴きながら窓越しにグラウンドを眺めているこの生徒は一見なんも変哲のない生徒に見える。しかし、彼はある特殊能力を持っている。それは、人の心が満たせれているか満たせれてないかが魂として彼の眼に映る。満たされていない魂を"ぼっち魂"と呼ぶ。
* * *
俺が入部している部活動は"ぼっち魂管理部"。つい1週間前までは帰宅部だった俺は"ぼっち魂"が見えたせいで目の前にいる九条渚先輩に半ば強制的に入部させられた。
俺は本校舎の4階の音楽室の隣にある準備室にいる。以前は色んな教科の教材が置いてあったが現在は違う場所に移動した。だから、ここは準備室ではなく"ぼっち魂管理部"の部室。部屋は普通の教室と一緒で前方に黒板があり、後方に逆さまの椅子が上にのった状態の机が密集してる。空きスペースに企業の会議で使われそうな長机を二つ分挟んで"ぼっち魂管理部"の4人は椅子に座り、話し合いをしている。
「東、何か良い案はあるか?」
ボッーと席にふんぞり返り座っている俺に部長の屋敷先輩が訊く。
「すみません、聞いてませんでした」
「あんたそれで管理者務まるの?」
ボリボリ菓子を食う俺と同じ1年の朝倉雪菜が菓子を食べる手を止めて言った。
「知らねぇよ、でも最初の管理対象が気に食わないんだよ」
「知らねぇ!?あんた、それが入部歴があんたより長い先輩に対しての言葉遣いだって言うの!」
朝倉はタメなのに入部歴でマウントを取ってくる。そして、俺の対応が気に障り激昂する。
「だから、知らねぇって」
「あんたちょっと面かしなさい」
席を立ち上がりこっちに回ってこようととする。
「上等だよ。俺だってめちゃくちゃ乗り気でこの部活に入部したわけではないんだよ」
「じゃあ、やめなさいよ」
「辞めれないんだよ」
「屋敷先輩、こいつ辞めさせることできないの?」
「朝倉もよく分かってるだろ。この部に入り、部を辞める際は罰を下すと……」
「屋敷先輩、どんな罰が下るかは教えてくれないんですか?」
俺は先輩をギロッと睨む。
「何度も言うけどそれは辞める時にしか言えないんだよ」
屋敷先輩は困り苦笑を浮かべる。
「敦、東くんの指導は私に任せてもらってもいい?」
九条先輩は俺の顔をジッと見てニッと微笑む。
「凪に全任せしていいのか?」
「凪先輩、本当にこの生意気なガキを指導するんですか?」
朝倉は可愛い顔をして腹立つ顔の作り方がうまい。こいつと初めて会った瞬間から俺と朝倉は水と油の関係性だ。
「東君を半ば強制的に入部させたのは私。だから、私が今後彼の言動と行動は責任を持つ」
「凪先輩が言うなら任せますよ。その代わり、びしばしと指導してくださいよ!」
朝倉は渋々と凪先輩の発言を受け入れる。
「はい、はいみのりもそんなツンケンしないの」
凪先輩は朝倉の頭を自分の胸に引き寄せて頭をあい撫でる。
「やめてよ〜!」
「うわぁそのたまに出る初さが可愛いねぇ〜」
凪先輩は頭を下げて朝倉の頬にキスする。
なにー、この百合展開!?
俺と屋敷先輩は咄嗟に見てはいけない光景に目を背ける。
「あれ、東君頬っぺたを赤らめてどうしたの」
凪先輩は悪戯な笑みでこちらを見る。
朝倉は凪先輩の手を払いしゅんとした表情を浮かべて自分の椅子に座る。
「雪菜の唇を奪ったりはしないわよ」
凪先輩は人差し指を唇の前で立て俺にウィンクする。
俺はこの部活に半ば強制的に入れられたのは1週間前。
* * *
1週間前
茜色に染まった夕暮れどきの放課後の教室に夕陽が差し、居眠りから目覚めた俺は窓越しにグラウンドを眺める。部活やっている奴らは何故あんな体力あるんだろう。あいつらは短距離も長距離も卒なくこなす。人生は長距離戦だって言うが俺は短距離も長距離もやりたくない。人生から離脱する方が楽なんだろうとふと考える。しかし、行動には移さない。それは苦痛が発生するからだ。だから、生と死の板挟みになって人間は生きている。
前方のドアがガラッと開いて人が入ってくる。
よーく見るとクラスでリア充グループに属して、常に笑っているイメージの有村千佳だった。
ん!?なんだあの頭上にある黄色い球体みたいのは?段々、球体は黄色から赤色に染まっていく。
有村はこちらに顔を向ける。
「東、あんたいつも1人でいるけど辛くないの?」
有村は弱気った声色で訊く。
「初めてそんな言葉掛けられたよ」
「苦しいよね?私は苦しい……」
「……有村は十分人生楽しいだろ」
「側から見ればね……」
そう呟いた彼女は机を掻き分けて一直線に窓ガラスへと進む。何かがおかしいと気づいた俺は彼女に徐々に近付いてく。
有村がガラッと窓を開けて身を投げ出そうした瞬間、俺は目の前にいる人間の命を救おうと駆け出していた。外に突き出ていた有村の身体を両手で引き止めてギュッと腹部に力を入れて教室に投げ込む。有村はぐるんぐるんと身体が回り机を薙ぎ倒していく。
「イッタッ!!」
有村は床に背中をつけて足をバタバタとさせて全身を痛がり、気を失う。
前方の開いたドアから青いリボンネクタイをした2年の先輩がこちらにやってくる。
「あなたが彼女を助けた理由は何?」
「理由はないですけど何か嫌な兆しみたいのがあって」
てか、顔近いな。それにさくらんぼの様な上品な匂いが鼻腔をくすぐる。
「"嫌な兆し"って具体的に教えて」
「頭上に黄色い球体が見えてそれがどす黒い赤色に変わってそれで……」
「ちょ、待って赤色に変わったの?確かに、黄色から赤色に変わったのを見たの?」
2年の先輩は驚きを隠せない表情を浮かべて俺の話を遮り、焦り口調で訊く。
「はい。あの黄色い球体が何か知ってるんですか?」
「あの黄色い球体は"ぼっち魂"と呼ぶの」
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