プロローグ #お前は誰だ
【記念すべき初投稿】
肝臓を移植された晴彦が肝臓の持ち主の記憶を追体験するお話です。
プロローグとなっております。
手短に読んでもらえるとありがたいです。
今なら古参になれます。
「お前は誰だ」
鏡に向かってそう言うと頭がおかしくなる。なんて噂があるのはご存知だろう。
それは心の中でそう唱えてもおかしくなることはあるのだろうか。
プロローグ #お前は誰だ
東京都在住。菊川 晴彦(24)無職。
アルバイトを転々としてなんとか生活している。就職はしたいが、面接に受かったことなんてない。
理由はこの髪色。婆ちゃんに似たのか赤髪だった。
太陽に反射すると鮮やかな紅色になる。就活中はこの髪を恨んだが、今はお気に入りにさえなっていた。
––––––ああ、思い出した。
この日もアルバイトに行く途中。歩きスマホをしていたんだ。
病室のベッドで目が覚めた。
生きている
これは奇跡なのか運命なのか。
ふとカレンダーに目をやった。
「2週間前…俺は…」
途端に激しい頭痛に襲われて咄嗟にナースコールを押した。
(お前は…誰なんだ)
心の中で俺は唱えるようにそう言った。
看護師ではなく、たくさんの医者が勢いよく病室に駆け込んできた。
「菊川さん!目を覚ましたんですね!」
「あ…はい…」
「どこか体の違和感とかありませんか?」
「頭痛が…」
「頭痛ですね。麻酔明けはよくある症状です。何より大きな問題がなくてよかったです」
そして2週間。目を覚さなかったことを告げられた。
医者の話によるとバイクに轢かれて肝臓を大きく損傷して大量出血。止血はしたが、命はだいぶ危ない状態だったらしい。
そこで考えられたのが臓器移植だった。
この病院で脳死になった17歳の少女の肝臓をもらった。
彼女の詳細は教えてもらえなかったが、心の中にある自分の知らない何か。これは彼女の記憶であることに間違いなかった。
退院した後も度々彼女の記憶が思い浮かぶことがあった。
たくさん習い事をしていた。ピアノ、ダンス、塾、演劇、歌。
無職の俺にはわからないほどの英才教育を受けていた。
ピアノを習っていると言う情報だけでお洒落なカフェに人生初めて入った。
お客はコーヒーを飲みながら読書をしたりしている。
ピアノに合わせたのか店内はシックに揃えていた。メーカーはスタンウェイ。お目が高い。
こんなカフェに入るのは最初で最後だろうから、どんなにヘッタクソにピアノを弾こうが気にしない。なんて思いながらトムソンイスに座って鍵盤に指を重ねた。
一つ鍵盤を押さえた。さすがスタンウェイ。響きが違う。俺の中の彼女はなにを思っているのだろうか。
また俺の中に知らない記憶が流れてくる。記憶なのか?いいや違う、メロディーだ。彼女はいつもこの曲を弾いていたのかもしれない。
知らない人の手のように動き始めた。
ピアノなんて触ったことなかった。だが彼女が思うままに弾いているのなら全然よかった。
辺りは綺麗な音色に包まれた。彼女はこんな音楽を毎日弾いていたのかもしれない。
静かなカフェはピアノが響く。だが彼女は客には見えない。
俺は知っている。彼女は俺の肝臓だと言うことを。
このことは誰にも言わないようにした。言ったら彼女が消される気がした。無職で誰も相手しないような俺に彼女が近くに居てくれてるような気がしたからだ。あいにくまだ彼女の正体は掴めていない。これだけ記憶は流れ込んでくるのに名前がわからない。
今日も彼女の記憶を思い出しながらベッドに入った。ネット依存の俺はベッドに入ってもスマホを触っていた。暇な時はネットサーフィン。古いかもしれないが意外と楽しい。
「女優の江川寧々亡くなったんだ…」
最近は、芸能人がたくさん亡くなっている。そんな時代なのかもしれない。
みんな誰しもが辛い過去を持っている。俺も…なんて言ったら烏滸がましいかもしれない。俺の辛い過去なんて誰よりも悩むべきことじゃないのだろう。
「まっ、俺はネット信者だから女優なんて知らないけど」
そうだ。俺はテレビは見ない。女優の名前なんて誰も知らない。だけど、この名前だけはどこかで知っているような気がしたんだ。
気づいたら寝る間も惜しんで「江川寧々」について調べていた。この人物は彼女と共通点が多かった。
・幼い頃から地方の芸能事務所所属
・国際ピアノコンクールで銀賞
・全国ダンスコンクール出場
僕の中にいるのは誰なのか。もしかしたら
「江川寧々」
と言う人物なのかもしれない。
暇な俺にはもってこいな暇つぶしだった。
これから作り込んでいく予定です。
大体はもう決まっているので近いうちに第一話を掲載しようと考えています。
江川寧々ちゃんの作り込みが楽しみすぎて夜も眠れません。