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ひょっとしてHEAVEN !?  作者: シェリンカ
第七章 結末は爽快に

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2.誤解されたくない

 並んで廊下を歩きながら、私は俯いたまま貴人に声をかけた。


「ごめん……」

「どうして琴美が謝るの?」


 頭上から優しく降ってくる貴人の声がいつもと変わらないから、勇気を出して、もう一度顔を上げることができる。

 

(ありがとう……)


 口には出さないで目を見ただけで、貴人はすぐに「どういたしまして」というように笑ってくれる。

 

 それはいつもと同じ、あの見惚れそうな笑顔だった。

 でも私の心はなぜか晴れない。

 

「琴美も、机に写真が貼ってあったの?」


 貴人の問いかけに、(やっぱり貴人もだったんだ……)と思いながら頷く。

 でも――

 

「どんな写真だった?」


 と聞かれて、思わずマジマジと貴人の顔を見直してしまった。

 いつものうっとりするような笑顔に、こんな時だというのに、なぜか面白そうな表情が混じっているように見える。

 

「えっ? 見てないの?」


 思わず聞き返した私に、貴人は笑いながら答えた。

 

「俺が教室に入る前に、繭香がズタズタに引きちぎっちゃったよ!」


 私は心臓が止まりそうになった。

 

(そうよ! 繭香!)


 繭香は貴人のことを「私の家来だ」なんて言ってるけど、私のカンでは絶対に、絶対に――!

 

「そ、それで繭香は……?」


 恐る恐る尋ねた私に、貴人は急に神妙な顔になった。

 

「『誰がこんなもの貼ったんだ!』って興奮し過ぎて、保健室行き……」


 貴人の言葉が終わるや否や、私は走りだしていた。

 

「心配しなくても大丈夫だよ……?」


 貴人は呑気に叫んでいる。

 彼には申し訳ないけれど、私が心配しているのは繭香の心臓じゃなくて、私たちの友情のほうだ。

 

(これでもし繭香とギクシャクなったりしたら……柏木! 絶対許さないわよ!)


 私は宿敵の顔を心に思い浮かべながら、保健室へ急いだ。

 




「繭香っ!」


 乱暴に保健室の扉を開けて飛びこんできた私に、いつもは柔和な保健の先生が、目を吊り上げた。

 

「静かに!」


 小声で叫ばれて、私はペコリと頭を下げる。

 

 そんな様子にクククッと笑いながら、三つ並んだベッドの真ん中のカーテンから、繭香が私を手招きした。


「こっちだ」

 

 その様子に、ホッと胸を撫で下ろす。

 やっぱり繭香の体調のほうだって、私にとっては気がかりだった。

 ベッドに横にはなっているが、顔色もいい繭香に、私は少し安心する。

 

「良かった……」


 ベットの縁に腰を下ろした私に、繭香が人の悪い笑みを浮かべる。

 

「心配したのはこっちのほうだ。今頃またA組で大暴れしているんじゃないかと、ヒヤヒヤしていたところだ……」

「またって……! 私は前回だって暴れてないわよ?」


 思わず叫ぶ私に、保険の先生がまた冷たい視線を向ける。

 

 首を竦めた私を、再び繭香がクククと笑った。


(良かった……いつもの繭香だ)


 ホッと胸を撫で下ろす。

 

「何を気にしてるんだか知らないが……私は別に怒ってなんかいないぞ?」


 あいかわらず私の考えていることは、繭香には筒抜けだ。

 改めて口に出す必要もない。

 

「二人とも、私が良く知っているいつもの顔で写ってたからな……」


 繭香は穏やかな眼差しを私に向ける。

 

「おおかた、落ちこんでいる琴美を、あのお節介が元気づけたんだろう……?」

「まさにそのとおり!」


 何度も頷く私に、繭香は唇の端を吊り上げるようにしてニヤリと笑った。

 

「それにあの後、学校をサボって二人がどこへ行ったのかだったら……私が一番よく知っている……!」

「確かに!」


 思わず大声であいの手を入れてしまう私は、また保健の先生に、チラッと睨まれた。

 

(すみません……)


 いいかげん居心地が悪くなってきた頃、私は繭香の小さな呟きを聞いた。

 

「だけど……」


 急に声色の変わった声に、慌てて視線を繭香に戻す。

 

「わざわざあんな写真を撮って、公衆の面前に晒すような奴らは許せん!」


 再燃したらしい怒りの炎にギラギラと大きな瞳を光らせる繭香は、妖しいくらいに綺麗だった。

 思わず見惚れてしまいそうになる。

 だけど――

 

「ダメよ、藤枝さん! 落ち着いてっ!」


 保健の先生の言葉に、私はハッと我に返った。

 

「そうだよ! 繭香、落ち着いて!」


 慌てて呼びかける私に、保険の先生が投げかけた視線が、(あなたはもう帰りなさい!)と訴えてくる。

 

 繭香の体調のためにも、ここは素直に、この場から退散することにした。


「それじゃあ……私は教室に帰るわ……」

 

 背を向けようとする私の腕を、繭香がグッと掴む。


「なあ琴美……あの写真に私より動揺した奴がいるんじゃないのか?」

 

 少し意地悪そうなその声音に、私はふと諒の背中を思い出した。

 

「早く誤解を解いたほうがいいんじゃないのか……?」


 繭香の声がどうしてそんなに嬉しそうなのか。

 その理由がむしょうに気になる。

 

 気にはなるけれど、私は繭香の言うとおり、すぐに保健室を飛びだした。

 

 教室に帰って、諒の姿を捜す。

 

 教室じゅうの生徒が走ってきた私に視線を向けたのに、諒だけは窓の外に顔を向けたまま、まるでわざと無視しているようだった。

 

 私は自分の前の席に座っている諒に、近づいていって、「勝浦君、ちょっと」と小さな声で声をかける。

 

 諒が返事もしないで、そっぽを向いているので、もう少し大きな声で、「勝浦君?」と呼んでみた。

 でも反応がない。

 

(あっそう! 聞こえてんのに無視するつもりね……!)

 

 頭にきた私は、強硬手段に出た。


「ちょっと諒ってば! さっきから呼んでるでしょう!」


 力の限り大声で叫んでやった。

 

 一瞬静まりかえった教室と、即座に私たちに集中する多くの視線。

 

 教室では諒のことを名前で呼ばないと、私は自分で決めていたんだけど、そんなことは今はもうどうでもいい。


「返事しないんだったら、学校中に響き渡るくらい、いくらだって呼ぶわよ!」

 

 口を両手で囲ってメガホンを作って、大きく息を吸いこんだ瞬間、諒が私をふり返った。


「お前なあ!」


 ため息をつきながら私の左腕を掴む。

 

 諒にひきずられるようにして、私は教室をあとにした。

 




 いつもの非常階段に着いて、諒は私の腕を離した。

 階段の手すりに体を預けるように両肘を乗せて、それでもやっぱり私には背中を向ける。

 

 そのことがなんだかイライラした。

 たまらなく悲しかった。

 でも――

 

「諒……」


 私が呼んだなら、今度は、「なんだよ……」とこの上なくぶっきらぼうではあるが、返事をしてくれる。

 そのことに少しホッとした。

 

「あの写真ね……」


 単刀直入に切りだした私の言葉に、諒の周りの空気がザッと変わったように感じるのは、気のせいだろうか。

 

「貴人が私を元気づけてくれただけだから……繭香のところに連れていってくれただけだから……だから……」


 言いかけて途中で口をつぐんだ。

 

(だから何?)


 私は諒に何を言いたいんだろう。

 自分でもよくわからなくて、次の言葉に詰まる。

 

 そんな私に、諒が背中を向けたまま怒ったように問いかける。


「なんでわざわざ……俺にそんなこと言うんだよ?」

 

 その問いに関する答えだけは、深く考えなくても自然と私の口からスルスルと出てきた。


「だって……諒には誤解されたくないから……」

 

 間髪入れずに答えてしまってから、その言葉の重大さに、自分自身でドキリとした。


(ど、ど、どういう意味よ!)

 

 自分で言っておいて、どんどん顔が熱くなっていくのがわかる。


(諒がこっち見てなくて良かった!)

 

 そんなことを思って見つめた諒の後ろ姿は、首筋から耳まで真っ赤だった。

 それを見て、私はますます頭に血が上る。

 

(待って……! ちょっと待ってよ……?)


 誰にかわからず、心の中でお願いする私に、諒が後ろ姿のまま小さく問いかけた。

 

「なんで……?」

 

(なんで? なんで? ……えーっと……なんでだろう?)


 私の頭は、もうパニック状態だった。

 

 やっとの思いで、搾り出した答えは「わからない……」で、諒にはまた深々とため息を吐かれる。

 

「わかんないだあ……?」


「だって本当にわからないんだもん……! なんで諒に誤解されたくないのかなんて……そんなの私にだってわからないわよ!」

 

 開き直った私に、諒はやっとふり向いてくれた。

 

 呆れたように。

 怒ったように。

 ちょっと傷ついたように、私を見つめる諒のことを、どう思っているのかなんて、本当に私にはわからない。

 

(だけどやっとこっちを見てくれた……そのことは、泣きそうなくらい嬉しい……)


 決して言葉にはできない思いをこめて、せいいっぱい見つめる私に、

 

 諒は、「そんなに睨むなよ」と言い放った。

 

(に、睨む?)


 思わずカチンときた私に、諒はさらに追い討ちをかける。

 

「もういいよ……なんか、馬鹿らしくなってきた……」


(馬鹿らしい……?)

 

 ほんのついさっきまで、まるでこんな雰囲気ではなかったはずなのに、もう止まらない。

 長年の間にすっかり体にしみついてしまった諒に対する憎まれ口は、私が望むと望まないとに関わらず、勝手に口から出てきてしまう。

 

「私だって馬鹿らしいわよ。すぐ拗ねちゃってさ……」


 私の言葉に、諒がくわっと瞳を見開いた。

 

「なんで俺が拗ねなきゃなんないんだよ?」


 怒りのこもった言葉に、(もう止めたい!)と心の中では思っているのに、私の勝手な口は止まってくれない。

 

「さあ……私のこと、好きなんじゃない?」


 からかうように言った言葉に、諒は本気で怒った。

 

「そんなことがあるか!」


 大声で怒鳴って、ガンガンと足音を響かせて、非常階段から出ていってしまった。

 

「なんで……? なんでこうなるのよ!」


 私は頭を抱えて、その場にしゃがみこんだ。

 

「こんなつもりじゃなかったのに……!」


 口に出して言ってみてから、自分でも疑問に思う。

 

(じゃあいったいどんなつもりだったのよ?)


 答えはやっぱりわからなかった。

 

「もうっ! なんなのよ! こんなの数学の方程式より、よっぽど難しいじゃない! 全然わからないわよ!」


 一人で叫びながら、私は青い青い空を見上げた。

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