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ひょっとしてHEAVEN !?  作者: シェリンカ
第六章 真実は衝撃的に

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4.傷が残したもの

学校の近くまで歩いて行ったら、校門の前に誰かが立っているのが見えた。

 

 やっぱり今でも、私にはその人影が誰だかすぐにわかる。

 二年とちょっとの間、毎日見ていた大好きだった人だもの。

 

 心配そうに私を見つめる繭香と貴人にニッコリと頷いて、私は一人でその人に駆け寄った。

 

「渉!」


 殴られた跡が残る顔で、渉はちょっと寂しそうに笑った。

 

「琴美」


 呼びかけられて、ふと気がついた。

 逃げないで彼と向きあえたのは、いったいどれぐらいぶりなんだろう。

 

 全ては貴人のおかげ――そして繭香のおかげな気がする。

 

 ふり返って二人のほうを見てみると、まるで「がんばれ!」とでも言うように、繭香が拳をふり上げていた。

 思わず私も、それから渉まで、クスクスと笑った。

 

「いい友だだち……できたみたいじゃないか……?」


 渉の言葉に、私は素直にコックリと頷く。

 

「すごい剣幕だったもんな……今朝の芳村……お前がいなくなったあとに来たんだけど……俺まで殴られるのかと思ったもん……」


 少し笑いを含んで、渉が話す内容に驚いて、私は貴人をふり返った。

 

「何?」と尋ねるようないつもの表情で、貴人はこちらを見ている。

 

「俺と喧嘩してた奴らもすっかりおとなしくなっちゃったよ……あいつって、やっぱりお前のこと……」


 渉の言葉を遮るために、私は慌てて、「渉、私のせいでゴメン」と頭を下げた。

 

 渉は一瞬沈黙してから、「俺のほうこそゴメン」と頭を下げた。

 

「ううん、私のせいで迷惑かけたから……」

「いいや。もとはと言えば俺が……」


 と代わる代わる謝りあって、何だかおかしくなって、二人で顔を見あわせて笑った。

 

(ああ……私たちはこんな話さえまだやっていなかったんだ……)


 改めて思った。

 

 中途半端で終わった恋。

 だからこそいつまで経っても頭から離れなくて、いつまでも私を苦しめた。

 

(本当に終わったんだな……)


 そう思うと、渉の顔をしっかりと見つめることができた。

 

「私……佳世ちゃんにも謝らなくちゃ……」


 私がその名前を口にすると、渉はちょっと複雑そうに曖昧に笑う。

 

「何度も私と話そうとしてくれたのに、私、返事ができなかったの……きっと傷ついてる……」


 私の言葉に、渉は小さく頷いた。

 

「大丈夫だよ。彼女はああ見えても強いし、琴美のことが本当に大好きだから……」


 後半の言葉は嬉しかったけれど、やっぱりちょっと悔しかった。

 

「渉に言われなくたって……佳世ちゃんのことだったら私のほうが良く知ってます……!」


 憎まれ口を叩いてから、(でも本当にそうだったかな……?)と思った。

 

「でも私は自分のこことばっかりで……佳世ちゃんの話を全然聴いてあげれなかった……」


 俯く私に、渉も言葉をなくす。

 

「琴美……」


 私は渉の顔を見上げて、問いかけた。

 

「佳世ちゃんは私のこと、まだ友とだちだと思ってくれてるかな……? また、仲良く笑えるようになるかな……?」


 渉は、私が大好きだった優しい顔で笑った。

 

「だから……彼女は琴美のことが大好きだって言ってるだろ?」

「ありがとう……」


 もう一度俯いた時、背後から声がした。

 

「……琴美ちゃん」


 ふり返ると、貴人と繭香に支えられるようにして佳世ちゃんが立っていた。

 

「佳世ちゃん……!」


 私はそちらに駆け寄って、やっぱり同じように駆け寄って来てくれた佳世ちゃんと、途中でしっかりと手を握りあった。

 

「ごめんね!」

「私こそごめんね!」

「ううん私が、ゴメン!」

 

 ゴメンの応酬は永遠に続くかのように思われた。

 私も佳世ちゃんもお互いに、自分が悪かったという思いがどうしても拭えない。

 

 もう少し私が自分の心を上手くコントロールできていたなら。

 もう少し私が相手の気持ちを考えてあげられていたなら。

 

 そんな後悔ってひょっとしたら誰もが持っているものなのかもしれない。

 私たちはそのことに、今やっと気づいたのかもしれない。

 

「話だったら、これからゆっくりと……二人でいくらだってしよう……!」


 笑いながら提案する私に、佳世ちゃんは何度も頷いてくれる。

 

「これからは、佳世ちゃんが嫌って言うほど……なんでも佳世ちゃんの話を聞くから……!」


 佳世ちゃんは涙を零しながら頷く。

 

「あっ! でもノロケ話は……ちょっと控えめにしてくれる? 私のほうは、きっとしばらく一人だから……」


 冗談まじりに笑う私に、横から貴人がさらっと口を挟んでくる。

 

「なんだったら、俺が今すぐ一人じゃなくしてあげるけど?」

「この馬鹿者! こんな時に変な冗談を言うな!」


 繭香の鋭い叱責が飛んで、貴人は首を竦めてみせた。

 

 そんな様子を見ながら、渉も、私も、佳世ちゃんも思わず笑う。

 

 同じように笑い始めた貴人と繭香を見ながら、(私って、やっぱり幸せものだ……)改めてそう思った。




 

 休み時間になるのを待って、私は佳世ちゃんと一緒に二年A組の教室へ帰った。

 

「あの二人……?」


 私たちの姿を見て、小さな声で囁きあう声も聞こえたし、柏木たちの挑発的な視線も痛いくらいに感じた。

 

 でもそんなことくらいでは、今の私は傷つかない。

 笑いながら私に手を振って、自分の席に向かった佳世ちゃんを以前よりもっと近く感じる。

 それが私を二倍も三倍も勇気づけてくれた。

 

 けれど教室に入ってきた私の姿を見て、窓際の後ろから二番目の席に座っていた諒が、一瞬息を飲んだのがわかった。

 そのことだけは、どうしようもなくドキリと私の心に響いた。


「しまった!」と心の中で頭を抱えずにはいられなかった。

 

(あれだけお世話をかけた諒に何も言わず……私ったら学校を抜け出しちゃったんじゃない……?)

 

 自分の席に向かいながらも、思わず諒の顔色を伺う私に、彼は「……良かったな」と言ってくれた。

 

 内心、胸を撫で下ろしながら、「うん」と笑って返事をする。

 

 ところが自分の席に着いた私にゆっくりとふり返った諒の態度は、見る見るうちに豹変した。

 

「……おかげで俺はたいへんだったけどな」


 念のこもった声と、恨みがましい口調。

 

「えっ?」


 ちょっと怯む私に、諒は一気にまくしたてる。

 

「お前がいなくなった後、俺がどんなに苦労して担任に言い訳したと思ってるんだ! かと思えば、三時間目には平気な顔で帰ってくるし……いいかげんにしろ! もう俺は知らないからな!」


 私には、何も言い返すことができない。

 

「ごめん……」


 しおらしくうな垂れる私の頭を、諒は軽く叩く。

 

「謝るな! お前に謝られると調子が狂うんだよ!」


 そしてそのまま私に背を向けて、前を向いてしまった。

 そのあまり大きくはない背中に向かって、私はもう一度頭を下げる。


「心配かけてゴメン……」

 

 小さな声だったのに、諒は目を剥いてふり返った。


「別に心配なんかしてない!」

 

 私はさらに恐縮して首を縮めたのだった。




 

 同様の怒りは、放課後、『HEAVEN準備室』に集まった仲間たちからも寄せられた。

 

「芳村君はどこに行ったのかって、B組の担任がF組の俺のところまで来たんだぞ?」


 順平君が笑い混じりにそう言うと、夏姫が、非難がましく私を見る。

 

「私だって! 諒が『琴美がいなくなった』って走って来た時は、心臓が止まるかと思った!」

 

 私も貴人も小さくなるしかなくて黙っていると、剛毅がボヤいた。


「俺たちに感謝して欲しいもんだね」

 

 貴人に向かって、やんわりと詰め寄る。


「早坂やお前が暴れて、グチャグチャになったE組の教室を片づけたのは、俺と玲二なんだからな」

 

(暴れたって、貴人が? 渉が言ってたように?)


 上目遣いでそっと貴人の顔色をうかがう私に、智史君がパソコンのディスプレイを指差してくれた。

 

「僕が駆けつけたところからは動画を撮ってあるよ……見る?」

「わーっ!!」


 貴人が慌てて、パソコンの画面を覆い隠すようにその前に立ち塞がる。

 

(え? 何? そんなにすごいの?)


 思わず興味をそそられてふり向く私に、貴人はせいいっぱいいつもの笑顔を向けてくる。

 

「琴美! 忘れて! ……ね? 忘れて!」


 その笑顔が、珍しくひきつっているように見えるのは、私の気のせいだろうか。

 

 とは言え、貴人があんまり嫌そうなので、私はその映像を見ることを諦める。

 そんな私たちを見ながら、可憐さんがうふふと笑う。


「でも貴人も気の毒だったわよね……一番美味しいところは諒ちゃんがさらっていったあとだものね……」

「俺? なんで俺が美味しいんだよ?」


 昼からずっと機嫌の直らない諒は、ムッとしながら問いかける。

 

「え? だって……琴美をこの部屋に抱きかかえてきたのは、諒だったじゃない?」


 平然と夏姫が答えて、諒はますます怒り狂った。

 

「あれは、そんなんじゃない!!」


 諒の叫びに、智史君の冷静な声が重なる。

 

「ああ……そのシーンも他の人が撮ってくれた動画を貰ってあるけど……見る?」


 涼しい顔は、諒の怒りに油を注いだ。

 

「智史! そのパソコン、しまいにゃ壊すぞ!」

「えっ? それは困るよ……」


 淡々とした智史君の対応に、諒が我慢の限界に達したところで、それまで黙ってみんなの話を聞いていた繭香が、部屋の中央のいつもの席でゆっくりと口を開いた。

 

「どいつもこいつも……! 私に全然わからない話をするな!」


 途端におとなしく自分の席に座った諒と、静まり返る一同。

 

 貴人だけがただ一人、「だって、繭香が自分で休んでたんだから仕方がないだろ……?」と笑いながら意見して、繭香にこの上ない冷たい視線を送られた。

 

(いいから貴人! お願いだからこれ以上逆らわないで……!)


 私は視線だけで必死に呼びかける。

 

 貴人は目ざとくそれを察知して、花が綻ぶようにそれはそれは艶やかに笑ってくれた。

 

「だからね……琴美ちゃんのことを書いた紙がA組とE組に貼ってあって、それを見て悪口を言っていた人たちに、E組で早坂君が怒ったの……」


 美千瑠ちゃんは今朝の出来事について簡単な説明を、お茶を淹れながら繭香にしてあげている。

 

「ふうん……」


 興味なさげに呟いた繭香の変わりに、ワクワクしながら順平君が先を促す。

 

「それでそれで?」


 美千瑠ちゃんは可愛らしく小首をかしげた。

 

「喧嘩になって大騒ぎしているところに琴美ちゃんが来て……でも諒君が連れて行っちゃって……あれ? それからどうしたのかしら?」


 ところが途中で分からなくなってしまったらしい。

 玲二君が苦笑しながら、その続きを補足する。


「美千瑠はそれからいなくなったんだから、知るわけないだろ? 貴人が走りこんでこきて、ものすごい勢いでその五組の連中に詰め寄ったんだ……!」

 

 それを聞いた諒は、貴人に非難の目を向けた。


「俺は、喧嘩が収まるようにと思って、お前を呼んだんだぞ?」

「もちろん、そうしたんだよ」


 貴人がにっこりと笑う。


「ただ、それがちょっと平和的な方法じゃなかっただけで……」

 

 貴人の言葉に、剛毅が意義ありの声を上げた。


「ちょっと……だ? どこが? うちの担任が、話のわかる谷さんだったから良かったものの……下手すりゃこの大事な時期に、大問題だ!」

 

 それを聞いて私はドキリとした。


(そうだ、生徒会選挙! もう終盤の大事な時期なのに……!)

 

 騒動の発端の紙切れは、きっと私たちに問題を起こさせるためにわざと貼られたのだろう。

 だとすれば私たちは、まんまとその策略にはまってしまったことになる。


(ああ、まただ……またみんなに迷惑をかけてしまった……!)

 

「私のせいでごめんなさい……」


 ガックリとうな垂れて、頭を下げた私に、うららと繭香が同時に叫んだ。


「琴美が悪いんじゃない!」

 

 なんだか変な組みあわせだった。

 でもとっても嬉しかった。

 

「それで……先生方はなんて言ってた?」


 その場のムードを変えるように、貴人が明るい声で尋ねてくれ、私と貴人の代わりに職員室に呼ばれていた諒が、ムスッと頷く。

 

「ああ……それだったら、とりあえず俺たちはお咎めなしだ。あれを書いた奴らのほうは、どうだか知らないけどな!」


 それを聞いて、私は肩の荷が下りた気がした。

 

 貴人も他のみんなも、「良かった。良かった」と口々に言いあっている。

 

 ふっとため息を吐いた私は、その時、すぐ近くから何か言いたげな視線を感じた。

 顔を上げてみると、諒が私のことをジーッと見ていた。

 

『HEAVEN準備室』での私と諒の席は、隣同士だ。

「どこがいい?」と尋ねられてこの席を選んだ時、諒はこの場所にいなかったのだから仕方がない。

 いたら正直、この椅子を選んでいたとは思えない。

 

 ちょっと近すぎるくらいの距離から、諒が例の女の子のように可愛い顔で真っ直ぐに私の顔を見ていた。

 なんだかドキドキしてしまう。

 

「何よ?」と口を開こうとした時、誰にも聞こえないくらい小さな声で、彼は私に尋ねた。


「なあ……お前、貴人と何かあった?」

 

 途端に私の頭の中で、今日一日あまりにあり過ぎたいろんなことが、次々とフラッシュバックして、わけがわからなくなった。

 

 私はまだなんにも答えていないのに、私のその表情を見ただけで、諒は、「わかった」とそっぽを向いてしまう。

 

 私はこの上なくドキリとした。

 

「諒?」


 それっきり呼びかけても返事もしない。

 

(どういう……意味なのかな?)


 心臓が早鐘のようにドキドキと鳴り始めている。

 

「俺ってほんと、運が悪いよな……」


 私に背中を向けたまま諒が呟く言葉に、私の鼓動はますます速くなるばかりだった。

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