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ひょっとしてHEAVEN !?  作者: シェリンカ
第四章 不安は胸の奥にかすかに

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4.智史

 ひさしぶりに繭香と一緒に放課後、『HEAVEN準備室』に行くと、珍しく全員が揃っていた。

 

 みんな美千瑠ちゃんが淹れてくれたお茶を片手に、智史君の周りに集まっている。

 智史君はフレームのない薄い眼鏡を鼻の上に乗せて、パソコンに向かっていた。

 

「今のところは僅差ではあるけれども僕たちのほうが有利だね。ただし、問題点は残ってる」


 パソコン画面に真剣に向きあっている智史君は、いつも窓際の席で本を読んでいる時以上に、文句のつけようのない美少年だった。

 部屋に入って来た私と繭香に気がつくと、画面から目を逸らしてにっこりと笑いかけてくれたが、その間も手のほうは休むことなく、もの凄いスピードでキーボードを叩き続けている。

 

(す、凄い!)


 その入力速度も驚きだったけれど、寝ているうららの頭を肩に乗せたまま、平然と笑っていることのほうが、私にはもっと驚きだった。

 

「あの二人はなあ……昔からずっとああだからな……」


 二人と同じ中学だったという剛毅が、私にわざわざ教えてくれる。

 

「智史はあの外見だからな。中学の頃だってかなりもてたけど、そんなこと気にもしない。いつだってうららのことしか見えてない……うららはうららで、ずいぶんいろんな人間から嫌がらせを受けたのに、そんなことくらいじゃ智史から離れやしない……」

 

 大袈裟に肩を竦めてみせる剛毅に、智史君が視線を向けた。

 それはいつも陽だまりの中で天使のように微笑んでいる彼とはまるで別人のような、切りこむような鋭い視線だった。

 

「まるで僕が甲斐性無しのように言わないでくれるかな……僕の目の届く範囲では、うららには指一本出させてないし、こっそりやった人間には、全員それ相応の報復済みだよ?」


 凍りつくような表情に、私は思わず息を呑んだ。

 

(さ、智史君……?)


 私の視線に気がついた智史君は、あからさまにその目の厳しい光を緩めた。

 途端に甦る、天使の微笑み。

 

「琴美……ひょっとして智史の本性に気がついていなかったのか……?」


 私の耳に口を寄せて小さな声で囁く剛毅の表情に、私は妙な緊迫感を覚えた。

 

(ほ、本性って……? 本性って何なの……!)


 声にならない言葉で訴えかける私に、智史君がにっこり微笑む。

 

「やだなあ、剛毅……それじゃ琴美が誤解しちゃうじゃない……僕は仲間には何もしないよ?」


 だけどビー玉みたいに色が薄くて綺麗な瞳は、全然笑ってなどいない。

 

 私はすーっと、背筋に冷たい物が滑り落ちるのを感じた。

 

 その時、眠っているとばかり思っていたうららが、そっと手を伸ばして、智史君のサラサラの髪を抱きしめる。

 

「智史……私は琴美が好き……」


 智史君はうっとりするように目を閉じて、うららの体を抱きしめる。

 

「うん。それはもちろんわかっているよ。うらら……!」


 思わず、ほおっと見惚れてしまった。

 

(すごいなぁ……うらやましいくらいだよ、あの絆……!)


 感心するばかりで、二人の姿をじーっと見ていた私に、ふいに立ち上がったうららがすっと手を差し伸べた。

 

「琴美……大好き」


 さっき智史君にやっていたのと同じような要領で私の頭を抱きしめる。

 

(いや! うらやましいのはその部分じゃないから!)

 

 とは言え、うららの気持ち自体がとても嬉しかったので、私もギュッと細い体を抱き返した。


「うん……私も大好き!」

 

 うららのことは私に任せた、とでも言うようにニッコリと笑って、智史君は貴人へと顔を向ける。


「このまま行けば、貴人の辛勝。でも向こうだって、手をこまねいて見ているわけがない……できればこちらから先手を打ったほうが……」

 

 智史君の忠告に、貴人は見惚れるぐらい鮮やかに笑って答えた。


「それならもう考えてあるよ」

 

 自信たっぷりなその様子を見ている限り、貴人が負けるところなんて私には想像もつかない。

 でもまだ、絶対大丈夫と言える根拠はないのだ。

 

「これからは役割分担をして、それぞれが適した場所で、確実な票固めをおこなっていこうと思う……どうかな?」


 全員がしっかりと頷き返した。

 

「剛毅と玲二は運動部……できるだけ多く頼む」

「了解!」


 剛毅と玲二君が二人同時にさっと手を上げる。

 

「順平は……E組とF組の中で、部活に入ってない連中だな。A組への抵抗、なんてテーマで攻めると案外面白いかもしれない……」


 貴人の提案に、順平君はひゅうっと口笛を拭いて、ニヤッと笑った。


「OK」

 

「夏姫は運動部の女の子たち。特に『古賀先輩かっこいい!』っていつも差し入れしてくれる下級生の子たちを忘れるなよ」


 いたずらっぽく笑う貴人に、夏姫はしかめ面をしながら「わかってるよ」と答える。

 

「美千瑠と可憐は、まずは自分の信奉者たちだな……上級生・同級生・下級生問わず、『よろしくね』って笑うだけで、かなりの数の票を手に入れられるだろう?」


 美千瑠ちゃんはクスクスクスと可愛らしく、可憐さんはニッコリと妖艶に、いつものように笑う。

 

「智史とうららは文化部を頼む。なんならこのままネットで動いても構わない……」


 智史君は小さく微笑むと、さっそく目の前のパソコンモニターに目を落とした。

 

「そして、諒と琴美。二人は二年A組の中で、少しずつでもこっち側につく人間を増やしてくれ。敵の本陣からじわじわと崩していくって……どう? 結構いい考えだろ?」


 自分が今、クラスでは浮いているということはこの際置いておいて、私は諒と一緒にしっかり頷いた。

 

「繭香はいつも通り総監督。俺はちょっと秘密行動。どんなことをやっていたのかは、後できっと教える。それまではお楽しみってことで……!」

 

 貴人の指示に対し、みんなが申しあわせたかのように一斉に叫んだ。


「おうっ!」

 

 

 ――いよいよ私たちの熱い戦いが始まる。

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