vsヤンデレ……?②
もう一作の方は今日更新出来そうにありません……!最近、更新遅れていて申し訳ございません。
恋人とのお家デート、これはライトノベルやアニメでも多々ある定番イベントだ。これによって主人公とヒロインは一層仲を深め、その現場には甘々な雰囲気が漂う。まさに安定、王道である。
だがしかし!俺と楓はアブノーマル、そんな生易しい現実など存在しない。
そこに在るのは、"俺の両親と仲を深めて、全力で外堀を埋めてくる楓"と"それを断固阻止したい俺"という殺伐とした対立構図だけだ。
俺が近い未来に起こるであろう事実に打ちひしがれていると、
「おーい!みーくん、お家着いたよ」
「ん?ああ、ごめん。ボーっとしてた」
どうやら、いつの間にか家に着いていたらしい。……ここで、俺は覚悟を決める。
「……よし、開けるぞ」
ただ自分の家に入るだけなのに、こんなにも緊張するとは。
これから始まるのは戦争だ。俺は楓の作戦を全力で妨害し、楓はそれを振り払う。
頭の中で、そんな未来が予測出来ていた。
そうだ。……ここに、戦いの火蓋は切られたのである。
「お邪魔します!」
玄関に、楓の元気な挨拶が響き渡る。
「はぁ。湊、アンタ最近……ん?あらまあ、楓ちゃんじゃない!いらっしゃい」
俺が帰ってきたと分かった母さんは、早速お小言を口にしようとしたが。楓を見た瞬間、そのテンションは最高潮に達した。
……好感度の差か、俺と楓で対応が全く違う。
「お義母様、ご無沙汰しております」
そして、母さんの歓迎を聞いた楓は優雅に頭を下げる。てかお義母様ってなんだよ、俺はお前の夫かっての。
楓の礼儀正しい姿を見た母さんはというと……。うん、ますます上機嫌になっていた。何でこんなにも彼女と母親の相性が良いのだろうか。
何故だか見ていて腹立たしい。早く楓のボロが出てくれますように、俺は切実に願うが。
「相変わらず良い子ねぇ。湊、アンタも見習いなさい」
「いえいえ、私の方こそ、みーくんにはお世話になりっぱなしで……」
「ふふ、その上こんなにも謙虚なんて。うちの息子は幸せ者だわ」
この和やかな雰囲気から読み取るに。
そんな事態が訪れることは全くなさそうだった。
クソッ……!こいつ、相変わらず猫被りが上手い!心の中で俺は悪態をつく。
というか……。いい年して高校生の本性も勘付けない母さんは、人を見る目が全くないようだ。将来詐欺とかに引っ掛かりそう。
そんな二人の様子に俺が呆れかえっていると、
「みーくん」
「はぁ……何だ?」
話し掛けてきたのは楓だった。彼女は、何か満面の笑みを顔に張り付けていて……こいつの表情から予測するに、どうせまたロクでもない話だろう。
それが分かってしまったので自然と冷たい反応になる。
「もうみーくんの親公認って言っても過言ではないよね?後、説得するのは私のパパだけなんだけど……そうだ、式はいつ挙げる?」
「ぶっっっっっっっっ!!!!」
案の定、馬鹿げた事を言い出す楓に俺は思いっきり噴き出した。本当に何言ってやがるこいつは!
「あのな!それは間違いなく過言だし、何で俺とお前が結婚する前提なんだよ!」
「私達、もう高校生だよ?普通そこまで話し合わない?お義母さんもそう思いますよね?」
流石は狡猾女、楓。彼女はこの醜い土俵に母さんまでも引きずり込んできた。楓に迫られた母さんは、
「え、えーと……うん!そうね!湊、ちゃんと考えときなさいよ!」
引き攣った笑みでそう答えた。あれは絶対思ってない、というより楓の"重さ"にちょっと引いたのだろう。
母さんは反応に困っていて、楓はそれに圧をかけるようにニコニコと微笑んでいるだけ。そして、俺はそれを無言で見つめている。
……何だよこの空気感、凄く気まずい。
そんな微妙な空気を吹き飛ばす様に、母さんが突如話題を変えた。
「あ、そうだ。楓ちゃん、今日は泊まっても良いわよ?」
「ホントですか?ありがとうございます!」
……は?俺は反応が遅れてしまった。何か、勝手に楓が泊まる流れになってきているんだけど……。
「あー……。でも、親御さんは大丈夫?許可してくれるかな?」
「パパの事ですか……。まあ、友達の家に泊まるとでも言っておきます!」
待て待て、どんどん話が進んでいってるぞ!?由々しき事態だ。これは断固として止めなければならない。
「ちょっと二人とも、一旦落ち着いて」
「確かに、それで安心ね!あー、でも寝る場所がないわ……。」
「その心配はいりません!あるじゃあないですか!みーくんの部屋が!」
「あ!付き合っているんだし、それで良いわね!じゃあ楓ちゃん、湊の部屋に」
「ちょっと待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
俺の制止にも構わず続けられる二人の会話を、最大限の絶叫で遮った。大体なんだよ俺の部屋って。いくら何でもおかしいだろう。
「どうしたの湊、うるさいわねぇ」
母さんは、耳を抑えて迷惑そうに聞いてくる。
「い、いや。何でこいつが泊まる事になるんだよ!?しかも俺の部屋!?アウトだアウト!」
楓と一緒に寝るとか絶対にダメだろう。俺の貞操が心配になってくる。
「何かダメな理由でもあるの?……アンタ、彼女にもう少し優しく接しなさいよ!愛想尽かされちゃうわよ?」
俺としては、その事態を心の底から望んでいるわけだが……。それを母さんと楓の前で直接口にする勇気はない。
反論出来ず黙り込んだ俺に楓は、
「みーくん、改めてよろしくね?」
悪戯っぽく笑って言った。
こうして、不本意ながら楓のお泊りは決定事項となってしまったのだ。