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心境

医者の話によると、クローディアの記憶は戻るかどうか分からないそうだ。本人が思い出すことを強く拒否した結果が記憶喪失なため、無理に思い出そうとすると体調に異常をきたすこともあると言う。



「どうすればいい…」



ジルベルトは深く悩んでいた。

クローディアがこんなことになってしまった原因の一部は明らかに自分にある。自分がした中途半端な行動がクローディアに『助けを求める』と言う選択肢を無くさせてしまった。もっと親身に相談に乗ることもできた。もっと気にかけてやれたはずなのに。



自分がクローディアにしてやれたことなんて何もなかった。ただ恐怖を与え、記憶を奪っただけだった。



医者曰く、ふとした時に戻るかもしれない。何か記憶と深く結び付いている場所や物にふれさせる事も効果的だと。



ジルベルト個人としては、クローディアには記憶を取り戻してほしい。でも思い出す事で彼女を苦しめる結果になるのならば、このままの方がいいのかもしれないと思ってしまう。クローディアが失っているのは『人』に関する記憶だけだった。それ以外のこと、学問や教養、物の名前などは覚えていた。



今のクローディアは誰のことも覚えていない。それはすなわち誰のことも思い出したくないのだ。今までクローディアは本当に人形と呼んでも全くおかしくない程に人形だった。それが突然なぜか変わった事で、人の醜い部分と出会うことになってしまったのだ。『人』に強い恐怖心を抱いてしまったのだろう。



『今まで親しかった人と話すことも記憶を戻す鍵になるかもしれません』



ーーー彼女の中で私は「親しい人」だったのだろうか。



今更そんなことを言っても意味がないことはわかっている。



ーーー私と話せば記憶が戻ってくれるだろうか。



そんなわけないだろうに、そうならいいのにな、と醜くも何かに縋りたい思いが溢れてくる。



「はぁ…」



自分の情けなさに自嘲混じりの溜息が漏れた。




*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー



いまだ慣れない部屋に戸惑う。



わたくしが今いる部屋は王宮の一室の様だった。自分の部屋との違いに戸惑いが隠せない。そして何故だか分からないが、この部屋に訪れる人は皆わたくしに「休んでください」と言うのだ。見る限り自分の体に異常は見られないのに。



「おはようございます、お嬢様」



少し目元を腫らしたメイドがわたくしに声を掛ける。何かあったのだろうか。



「おはよう。あなた、大丈夫?目元が晴れているわ。何かあったの?わたくしで良ければ話を聞くわ」



無理に笑っている彼女がどうしてだか心配でたまらない。



「…っ!なんでもありませんっ」



彼女が溢れそうになった涙を袖でゴシゴシと擦る。



「ダメよ、そんなに擦ってはもっと酷くなってしまうわ」



そっと彼女の腕を取り自分のハンカチで涙を拭う。



「あなた、名前はなんて言うのかしら」



「リ、リリア・パールと申します」



「リリア…」



聞き覚えがある様な気がして思い出そうとするが、またもやそれは白いもやによって阻まれる。



「何かあったらわたくしに言ってね。どの道今はずっとベットの上で暇ですもの。決して無理をしてはダメよ」



「はい…」



リリアの返事にクローディアはふっと笑みを浮かべた。



リリアはやるせない気持ちでいっぱいになる。目の前にいるのは間違いなく自分の主人なのに、まるで別人の様だ。クローディアがいつもより優しい口調なのは、記憶がない影響なのだろうか。クローディアは自分のことを覚えていない。そんなことは分かっているのに、いつもと違う柔らかな表情に複雑な気持ちが湧き上がり、どうしても平静を装うことができなかった。






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