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ドリンクと下町


手のひらにひんやりとした感覚が感じられ、凍った果物のカラン、という涼し気な音がする。



クローディアの手には人生で初めて買った飲み物が握られている。



「いい香り…」


歩く度に、揺れた果物とドリンクから甘く柔らかな香りがふわりと漂う。



クローディアはアヤリナから勧められて「さいだー」にいちごを浮かべたものを選んだ。「さいだー」が何かは分からなかったが、おすすめされたら拒むのは失礼だし、街に降りたことの無いクローディアよりもアヤリナを信じた方が良い。



しかしクローディアはひとつ疑問があった。飲み物を購入したことまではいいのだ。が、この飲み物は『屋台』で購入したのだ。屋台には椅子もないし机もない。周辺をみても何かを飲み食いするためのそれっぽいところは見当たらない。どこで飲むのだろうか。



「あの、アヤリナ様。一体どこでこれを飲むのですか?」



「ふふふ…クローディア様、この飲み物には下町特有の飲み方があるのです!」



下町特有の…?



「食べ歩き、ならぬ飲み歩きです!」



「飲み…歩き?」



「はい!下町にももちろんカフェのようなものはありますし、ちゃんと席に座って飲むこともあります。ですがこういった屋台で購入した飲み物は、歩きながら飲んだりすることが多いんです」



歩きながら飲むなんて…はしたないわ!

でも…

周りを見ると木陰でたって飲む人、花壇の隅に座って飲む人、友人と喋りながら飲む人など、ほとんどちゃんとした席に座って飲む人はいなかった。



「でも…わたくし達は貴族で…」



「クローディア様、私達は今平民ですよ?誰も貴族だなんて思いません」



アヤリナはそう言いながら簡素なスカートの裾をヒラヒラとさせる。



「お嬢様、そうですよ!気分転換なのですから、貴族の概念に凝り固まっていてはダメです!」



「そういうものかしら…」



「「そういうものです!」」



なるほど、よく分からないが「歩き飲み」という行為は下町ではそれなりによくあることのようだ。



と、いうことは、今わたくしたちは立っていて、今のまま飲み物を口に入れることになるのだ。



抵抗がすごいわ…

立っているのに飲むなんて。



数秒悩んだ後、意を決してコクリ…と1口口に含んだ。



!?



口の中がシュワっとする。

シュワシュワと泡がたってなんとも不思議な感覚だ。口の中が弾けるようだ。



「口が…シュワシュワするわ」



「クローディア様、それがサイダーです!サイダーは炭酸水に甘味料を混ぜた飲み物で、炭酸水はシュワシュワするんですよ」



人生初のサイダー。

いちごの香りと、透明で気泡が止まることなく出る飲み物に浮かぶ赤は、日差しの中できらきらとしていて、世界に色がついたようだ。



「美味しい…」



3人それぞれの飲み物を飲みながら街を歩く。賑やかで活気溢れた街にいる人たちは、今までクローディアが見てきた『人間』の特徴が何ひとつとして当てはまらない。



相手をさぐり合い見え見えのお世辞を言い合い相手を落とすことしか考えない貴族たち。



だがここの人達はどうだ。

皆裏表のない満面の笑みで生きている。裕福、とは言えない生活だろうに、不満を言うことなく今の自分を楽しみ精一杯生きている。



自分たちとは違う。

貴族としてまわりより優れようと、美しくなることにお金を費やし、よく良く考えればさして意味の無い争いを繰り広げる。お金はあっても幸せはあるのだろうか。国を維持する貴族がこんなことでいいのか。






「クローディア様?」



アヤリナの声でハッとする。深く考えすぎるのは悪い癖だ。今は3人で気分転換をしに来ているのだ。せっかく取れたふたりとの時間を大切にすべきだ。



「ごめんなさい、少し考え込んでしまって」



「もう少ししたら定期考査ですものね」







―――定期考査!









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