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お見舞い

何があってもわたくしの自由な未来のために婚約破棄をしなくては…。そう心に決めた午後、遂にその時は来た。



「お嬢様、殿下がお見舞いにこられました」



クローディアの作戦1

殿下は寝て待てと仰られたが、目上の方を寝たままで迎えるのは失礼にあたる。あえてそれを行う。ベッドからおりることなくずっと寝たままで迎えるのだ。これでわたくしに幻滅して礼儀のなっていない令嬢として婚約破棄の一歩を踏み出すのだ。



「リリア、お通しして」



すると暫くして扉が開き、殿下とのアラン様が入ってきた。



「ク、クローディア。具合はどうだい?」



「ご心配なく」



「まだ熱があるようだが」



「ご心配なく」



クローディアの作戦2

極力冷たくする。素っ気なく愛想のない令嬢を演出するのだ。

まぁ、本人はわかってないが「人形令嬢」は普段から素っ気ないのでこの作戦は意味をなさないのだが。



「殿下、わたくし殿下にお願いがございます」



ジルベルトの纏う気配が変わる。



「手紙でも書いたが婚約破棄はしないよ?」



まずい。先手を打たれた。こうなれば身分が殿下よりも下なわたくしに打つ手はない。




…いや、まてよ。わたくしは愛想の悪い冷たい令嬢を演出するつもりなのよね?ならばこの雰囲気を押し切って婚約破棄を無理やりにでも押し通せないかしら。



「いいえ殿下。わたくしは婚約破棄がしたいのです」



まさか無理やり強行突破されるとは思っていなかったであろう殿下は驚く。それでも表情をすぐに戻し貼り付けたような笑顔でわたくしに問う。



「クローディア、この婚約の意味をわかっている?この国の王太子である私と筆頭公爵家の令嬢である君は生まれた時から婚約は決まっているようなものだ。君は王妃になる教育も受けてきた。この婚約は、君の家と王家の結び付きを強めるために必要なものなんだ」



クローディアは唇を噛む。これは政治的な婚約だと、一令嬢のわがままで破棄できるようなものでないと貴族としての義務を突きつけてきたのだ。



しかし冷静になる。貴族としての義務。筆頭公爵家令嬢としての振る舞い。殿下の婚約者としての教養。クローディアは様々なものに縛られて生きてきた。だがその結果得られたものは何も無かった。この婚約は誰の得にもならない。結局破棄するのだから繋がりも王妃教育も意味を成さない。



「殿下、わたくしは自由になりたいのです」



「クローディア」



「どうして分かってくれないのですか!貴方はわたくしにとって足枷でしかないのです!」



クローディアはカッとなる頭の中でどこか冷静に考える。この噴火するように突然湧き出す感情は、前世で感じた「怒り」だった。わたくしは怒っているのだ。



「足枷…?」



ジルベルトは困惑する。 足枷。クローディアは確かにそう言った。私が彼女に何らかの形で足枷となっていて、その足枷を取るには婚約破棄しか方法がない。彼女は暗にそう言っていた。



いつもなら自制できる感情がコントロール出来なくなる。完璧に貼り付けていた笑顔の仮面が剥がれ落ち、呼吸が荒くなり体温が急激に上がる。



「私が君に何をした!今まで婚約者としての義務しか果たさず無自覚のうちに冷たくしてしまっていたかもしれないが、それでも君のことは常に気にかけていたつもりだ!何が不満なんだ!今日だって無理やり予定を開けて君のところに来たんだ」



つい言ってしまった。無理やり予定を開けたのは自分の意思だったというのに、これではまるで誰かに強いられ仕方なく見舞いに来たかのように聞こえてしまう。



「殿下こそ何がわかるのです!わたくしは…!」



そこまで言ってクローディアの言葉は詰まる。



なんて言う?この状況を説明できる?説明できたとして信じてもらえる?



頭が痛くなる。まるで大きな何かに激しく殴られるようだ。ガンガンと繰り返し押し寄せる痛みに視界が歪む。



「うっ…」



「…クローディア?」



ベッドの上で頭を抱えて蹲り呻いているクローディアはどう見ても普通ではない。そんな様子を見てジルベルトも瞬時に冷静になる。



「アラン!医者を呼べ!」



アランは頷くとすぐに部屋から出ていった。



「クローディア!クローディア!どうした!」



返事はない。ただ荒々しい呼吸が聞こえ、零れる涙がクローディアの頬を濡らす。



突然ふっ、と身体から力が抜け、クローディアは意識を失った。


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