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少年Aは動き出す。  作者: のわーるあびす
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少年Aは不安になる。

ベッドに横たわり、眠ろうとするが、むしろ頭の中がクリアになってしまい、考え事をついしてしまう。

いつからだろうか、自我が目覚めたのは。

自分の意思で動けるようになったのは。

俺は、自分の名前を知らない。

俺は、自分の生まれを知らない。

自分の家族を知らない。

というか、実家というものがない。

何故かは知らない。

日本人としての常識、食べる前の合掌、室内では靴を脱ぐ、初詣などの事は何故か知っている。

だが、俺は意思を持った中三の頃以前の記憶がない。

いや、正確には、組み込まれたプログラム通りに動いて、何も考えて行動なんてしていなかった。

そんな中、どうしてなのか。

中三の二学期にふと考えてしまった。


「自分とは何なのか」


それで、プログラムに齟齬が生じてしまったのだろう。

俺の行動プログラムの一部が破壊され、自我が芽生えた。

その時、明らかに周りの人とは異質な存在を判別できるようになった。

所謂、‘主人公’というものだ。

主人公の周りのその主人公とあまり関わりのない人物は全員俺と同じようにプログラムを元に動いているようだった。

それらを、所謂、‘モブ’というものだ。

だが、主人公とある程度離れている、関係を持たないであろう存在は、どうやら自我をしっかり持って自分の意思で動けるらしい。


そこで俺はこの世界を神々の書く小説のようなものであると推測した。


このことから、俺はこの物語の世界について様々な考察をし、行動を起こそうとした。

だが、ある行動を起こそうとすると見えない力に阻まるのだ。

その行動とは主人公に行動を仕掛けることだ。

主人公の周りでは如何なるアクションも起こすことができない。

神がまるでプロット以外の事をされては困るとでも言うように何もできなくなる。

例えば、主人公の取り巻きの一人に話しかけようとするものなら、行動を起こそうと席を立とうとしても、立てなくなってしまう。

主人公にあまり関係ない人物に話しかけること自体は別に問題がなかったのだが、その場合他愛無い世間話や、アニメの話などになり、一般的に見ておかしくない会話の内容ではあるが、俺には中身のない言葉の羅列のように聞こえて超えてならないのだった。

そして、案の定そのプログラムと主人公の事を話そうとしようものなら築いたら席についていて授業が始まっていたなんてこともざらにあった。

ネットの人と連絡を取ろうともしたが、俺の周りで起きていることをタイピングしようとすると、直後に指が 硬直してしまい、何もできずじまいであった。


そこで、俺はこの学校から離れようとした。

転校して、自分を持って、どうにか名前を作って普通に暮らそうと思っていた。

それがたとえできなくても、不登校になればよいと考えた。

だが、それさえもできなかった。

転校生や休みがちな病弱な生徒が出るというのは主人公にとっては大きな出来事で、筋道とはそれてしまうと神が考えたのだろうか。

俺は、中学卒業を大人しく待ち、高校では自由に生きようとしたのだが、ここで俺は失敗した。

主人公と同じ高校に進学してしまったのだ。

俺はそこで高校生活での自由は諦めた。

もうこれは逃れられない運命なのだと。


まぁでも、諦めたといっても自宅では基本何でもできるし、主人公に干渉さえしなければバイトだって買い物だってできる。

干渉するしないの判別は簡単で、バイトを受けようと考えるとそのバイトが主人公と関わる可能性がある場合は即刻体が動かなくなってしまう。

なので、体が動かなくなるならできない、動くならできるのだ。

そして、名前も偽名を使えばいい。

幸い学生証はあったので、何とかバイトすることはできる。

なので主人公にかかわる事以外では、普通の人生を送っていけてる、と思う。



その他に、俺の身に起きている特殊な事象としてなぜかは知らないが、俺は魔力というものが見える。

いや、正確な名前分からないがその謎のエネルギーの流れを見ることができ、それを魔力エネルギーと呼んでいるだけだ。


そして、そのエネルギーを使いある事ができる。


エネルギーの打ち消し。

そして、貯蓄と利用。


俺は勝手に無法則と名付けている。

簡単に言えば、物理や化学の法則をすべて覆すような能力だ。

電車だって片手で止められるだろうし、ジャンプすれば宇宙まで届かせることだってできるだろう。

黒鉛からダイヤモンドを作る事だって容易い。

何なら活性化エネルギーを0に反応熱だけで化学反応を完了させることもできる。


そんな、まるで主人公のようなチート級の能力を行使することができるのだ。


自宅の中では、だが。

外ではやはり、誰かに見られて噂になったら堪ったもんじゃないと神は判断したのか何もできない。


だが、そこで一つの疑問が湧く。

こんな能力を与えたくせに、制限をかけ、モブのような扱いしかされないのか。

俺は不思議でたまらなかった。

しかし、逆らう気もなかった。

いや、逆らおうとはしたが無理だった。


でもまぁ、この神々のプロットの中、自由に思考できるだけましなのだ。

俺の周りのプログラムが組み込まれているモブ達に比べればマシにも思える。

もうあの廃人のような生活は送りたくはない。

今じゃなくてもいつかは解放される。


そして、社会に出て自由に暮らすんだ。

高校卒業までの二年間を乗り越えさえすれば解放される。


後二年。


二年……。


本当にそうか…?


高校が主人公と同じだったのは本当に偶然なのか?


社会に出ても主人公が近くにいたら?


この神の物語が高校だけで終わらなかったら?


どんなお話でも、いつの時系列だろうとモブは大切だ。


主人公が社会に出てもモブは必要なはず。


俺を作品から離れさせたくないのか?


どれだけ弄ぶ気なんだ?


中学の頃、普通に生きたかった俺がどれだけ苦労したことか。

その苦労によって忍耐力は手に入れられはしたが、例え忍耐力があろうといつかは限界が来る。

そして、社会に出るとなると主人公の交流関係も増えていくだろう。

俺の行動範囲は狭くなっていき、離れることもできず、ネット上でしか活動できなくなる。


二年間耐えたとして、本当に自由は手に入るのか?


自我が芽生えた罰とでもいうつもりなのか?


だとしても、この無法則を与えた理由は?


自我を芽生えさせてしまった贖罪か?



まぁ考えていてもしょうがないことではある。

どうせ神が描く喜劇なのだ。

俺はきっと解放される。

だからもう早く寝て明日をまた消化しよう。

そしてこの状況から抜け出すんだ。


そう頭を振って考えないようにしても、一抹の不安は消えそうもなかった。


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