1話前編
五大陸の中に未開拓な大陸が一つ……。
獣道には死骸や息絶えたであろう者達の屍が散乱している。
遥か大空からの陽の光が燦々に輝き大陸全土に恵みを齎すが、その齎されるとある森の中には大きな川があり、
突き当たりには滝がある区間が存在する。
……そしてそこには水浴びをする一人の長髪の少女が居た。
幼い乳房などの象徴が陽の光により遮られており良く見えない。
水に濡れた黒髪は艶を出しており、
優美な容姿も相まって雅やかな雰囲気を醸し出す。
「……」
少女は見るからに物静かである。
ジト目ながらもキリリとした瞳を持っており、見る者によってはどストライクだろう。
切り揃えられた前髪から垣間見える濃い眉毛はフェチ心を擽られる。
確かぱっつんな前髪には『真面目』『頑固』『高貴』の意味があるのだとか?
だがそんな彼女を木の上より覗く男の陰があった。
長髪で美形な男であるといった風貌だ。
筋肉質な為か腕がガッチリしているが、
その男は虫の鳴き声のような気持ちの悪い笑い声を出していた。
(その芸術品のような裸体!!実に良いですぞ!!!)
少女の身体は反射光で良く見えないが男は心眼で見据えているのだろう。
透明な魔水晶を筒の先端に嵌めたソレに眼を当ててヨダレを垂らし、当たった地面の虫から煙が立ち昇る。
そんな事態にも関わらず男はそれを無視し、より少女に近付く為に、木から木へと移っていく。
「……フ!」
足音を立てず身を屈め茂みの中へと隠れ、
筒の先端に手を当て固定し静止する。
男の少女を見る目は真剣そのもので、
真剣のあまり頰に冷や汗が流れ出ている。
そして固唾を呑み込んだ瞬間時が来た。
何と少女が屈んだのだ。
彼女の足下の川の中には逸物のような物体があった。
(あれに触れれば私は合法的にキノト様の元へと駆け付ける事が出来るっ!!)
実はあの中には鋼の粘体がいる。
通常それは火の水晶を粉末にした物と一緒に詰めて投擲する事により驚くべき殺傷能力を発揮する代物だが水に浸かると粘体は死んでしまい、死後10分で中で白に変色し液体となるのだ。
そして己が最後の子孫を残すがの如く破裂する……のだが子孫を遺した事例はない。
つまりアレを浴びた少女はどう贔屓目に見てもアレな感じになるのだ。
……そう思っているのだが、中々触れようとしない。
キノトはピタリと静止している。
それに焦ったさと焦りを感じたのか男は狂乱のあまり頭をグワングワンし長髪を乱しに乱す。
(もう少し屈まれよ!!キノト様!!!!)
どう贔屓目に見ても変質者にしか見えないだろう。
あんな光さえなければ幼い乳房が見えそうなのに……と男が思っているとキノトと呼ばれる少女はその逸物に手を翳した。
何事かと注視していると彼女の手から『黒い魔法陣』が展開された。
そして白い光線のような物が発されたかと思うと川の水諸共逸物を凍て付かせた。
続き彼女の腕が獣の腕へと変わった所で伏せる男は全身を黒いウネウネに変えて影を縫う蛇ように地面を滑る。
彼女とは反対側の方向に逃亡を開始したのだ。
(早く宿に戻らねば!??)
逃げ足は凄まじく速かった。
木などの障害物を正に影のように避けていた。
正直言って蓮コラみたいでキモいと思う。
だが後を追跡する影の方が凄まじかった。
それは枝や木の壁を縦横無尽に駆けている。
……突如背後から眩い光が発生した。
その為木陰を縫うように森の中を進んでいた黒い物体が目に見えるようになった。
「は……?」
そんな彼の間抜けな声は鈍い鈍器の音に掻き消される。
目線を向けると青い血が滴る凍て付かせた逸物を右手に、
身を隠す服であるのだろう桃色と藍色を別けた袴を左手に携えた人狼が光る口を閉じていた。
「キノ……ト様?」
キノトと呼ばれる人狼の身体は生い茂る毛により大事な所が隠されていた。
「願いが……叶わな……」
そう言い終わる前に彼は意識を喪った。
残るは寂しそうな表情に見えるキノトだけだった。
沢山の鳥の囀りや心地いい滝の水音が聞こえる。
良く見ると先程の滝は目と鼻の先にあった。
そんな自然豊かな森の中に一軒の民家がある。
そして何事も無かったのように男は三人に紛れ焚き火の上にある火鉢を囲むように正座をしているのだった。
「……」
そんな様子をドン引きする見知らぬ森妖精の少年が一人。
寧ろ絶望しているようにも見える。
「見た目に反してかなりスパルタね〜スピカちゃんって」
人間の女性がご飯を装った木の茶碗と質素な御菜である小魚を盛った木の小皿と小鉢に入れたたくわんを各人に回す。
「……キノトで良い。ユイ……」
その事に抗議の声をあげるキノト。
イメージ通りに可愛らしい声をしていた。
「ごめんなさいね。……キノトちゃん」
「ん」
謝る女性に対し少女は生返事で許した。
ほんわかとする光景だ。
「「「いただきます」」」
そして三人(?)は食事の合図をして朝食を食べ出した。
「うむ」
まず男はたくわんに手を出した。
食べてみると歯ごたえが良く味も染みている。
「美味だ。流石は花嫁修行をしただけの事はある」
「あらあら。お上手です事」
そんな様子を横目にキノトは小皿に盛られた小魚を箸で掴み口元に運ぶ。
運び方も食べ方も上品だ。
所作の一つ一つが舞踏のように思える。
「……美味しい」
無表情で感想を洩らす少女に笑顔を浮かべるユイ。
そんな中少年は箸を持ちながら微動だにしない。
「う〜どうしたの?ユウト??食べないなら私が食べちゃうわよ」
そう言いユウトからたくわんを横取りするユイ。
「ありがと……」
キノトは小魚を横取りした。
「では私は……」
そう言いご飯を横取りしようとしようとするが、
少年のエルボーにより男は壁際まで吹き飛ばされた。
「また……ですか」
気持ち悪い笑みを浮かべながら立ち上がる男。
「いや。ルージュ。何お前清流に鋼の粘体なんて入れてんの?魚が食ったらどうすんだよコラ。その髪毟るぞ」
ユウトは憤怒の表情で近づいて来ている。
彼の周囲には魔素が吹き荒れていた。
そんな言葉に嘲笑気味にルージュは笑った。
ちなみに本名は『リュション ・ヴォレ・ルージュ』だ。
「良く見なさいこんな立派な毛根が毟られる筈が御座らんでしょう?」
見せつけるそれは生きているかのようにウネウネしていた。
耳を済ませば何故か虫の鳴き声が聞こえてくる。
「……それにメタルスライムは死んだら白い液体と化し周囲の無機物と同化する性質を持ちので」
「そんな問題でも無えよ!!」
……主人である筈であろうキノトはその光景を無視し行儀良く食べている。
「……おかわり」
「はいはい」
そしてユイに今度は大盛りにして貰っていた。
「それにイキっていますが私は下の毛も長髪なんですよ?
……それなのに貴方は
皮の被った小鬼を恥ずかしげもなく……。
私の大鬼を見習いなさい」
そう言いユウト及び女性陣に蠢く下半身の布を見せつける。
「……キノトちゃん」
(コクッ)
「え?」
ユイの一声に頷くキノトは先程仕舞い込んだ杖を取り出して薙ぎ払った。
すると伸びた杖が縄と化しルージュを捕縛した。
捕縛されたそれは意思があるかのように障子を開き家屋の外へと赴き『風呂』を炊く為に備えてある焚き火に髪を焚べた。
当然だが髪が燃えた。
「キノト様!ご冗談ですよね!??
私こう見えて髪の艶に気を使っているのですよ!!
御身の淀みない髪質に近付ける為に毎朝死んだ鋼の粘体を採取して塗りたくっているのですよ!?」
そんな様子を塵を見る目で見ているユウト。
「……ブチ転がしますよ糞餓鬼」
そう言い青筋を立て叫び声をあげた。
魔素が荒れ狂っている。
そんな荒れ狂う風の力により焚き火はより一層火力を強めた。
だが、ルージュの髪が燃える傍から再生していく。
「チャアアアアアアアア!!!!」
「アアアアアアアア!!」
「ブルァアアアアアアアア!!!!」
◇◇◇
ルージュは倒れ伏していた。
消火に成功したがやる気が灰になっていた。
完全に燃え尽きていたのだ。
◇◇◇
「「……」」
二人は皿洗いをしていた。
ユウトは荒く……キノトは丁寧だった。
だが何故かユウトが余所余所しい。
喋ろうと口を開けるが喋れず……そんな事を何回もしていた。
「なに?」
そんな事が焦れったかったのかキノトは無表情でユウトを見つめた。
それに気圧されたユウトは恐る恐る口を開いた。
「今朝……リュションさんに裸を見られてたって聞いた」
思いを打ち明けるかのようなユウトの声質に耳を傾ける。
その喉を震わせる声は作業を止めた水面に僅かに波紋を広げていた。
「……スピカ姉もスピカ姉じゃ」
「……キノトっ」
「ゔ。……キノト姉に羞恥心とか無いの?
仮にも男に裸を見られていたんだよ!?」
かなり強めの語尾で戒められた為言い直し真意を確かめようと顔をキノトに向けるユウト。
「……」
キノトはジッとユウトの顔を見つめていた。
そんな彼女の行動に驚いたのか恥ずかしくなり顔を水面に戻す。
「キノト姉ってまだ子供だから分かんないと思うけど俺って一応森妖精なんだ。
だから人間の汚い所は普通の老人より知っているつもりだよ」
申し訳なさそうな表情で水面に反射される自身の顔を見つめ呟いたユウトは同じく映るキノトの水面を指差した。
「ほら!キノト姉って将来凄く美人になる顔をしてるし!」
そう言われ水面に映る自身の顔を見つめるキノト。
チラリと横を見ると悟ったような表情をしたユウトが傍にある滝をジッと見ていた。
「……世界を旅するのって楽しい?」
苦悶な表情を浮かべながらの彼の問いかけにキノトは答えない。
その頃家屋ではユイがルージュを布団に寝かしつけていた。
傍目から見たら従来の肌の青白さも相まって永眠しているようにも見えるだろう。
外で洗濯物を干しているユイは柔和な微笑みを浮かべながらポツリと呟いた。
「……本当に行ってしまわれますのね」
不意に家屋の横を見ると暖を取る為に纏めてある薪が不足している事に気付いた。
「……滝から帰ったらルージュさんについて来て貰うようにお願いしようかしら?」
ユイの顔色は夕暮れの色と同化していたのだった。
その日の夜……。
ルージュとキノトは探検服へと着替えた。
普段キノトが着る袴は全身を覆っているので、
こういった膝まで見える露出度の上がった服装は新鮮に思える。
現にルージュは自然の空気を吸うかのようにキノトの残り香を嗅いでいた。
そして見送る為にユイとユウトの二人は滝壺の近くまで来ていた。
「……」
「朝方までには帰って来ますよ」
二人を置いて裏にある開かれた洞窟へと入っていった。
ちなみに入り口の脇の目立たない所には鍵穴のような物があった。
◇◇◇
深い静寂に包まれた空間には革の靴が岩肌に擦れる音しか聞こえない。
蝋燭のカンテラの火しか光源がない薄暗い通路を二人は歩かされる。
「今回はこのルートですね」
この洞窟は森全体に通路を複雑に張り巡らせている。
通ったルートを線で引いている紙を見ながら進む。
……次第に左右の壁に牢屋のような物が見えてきた。
その傍らには石造りの動像が仁王立ちしている。
「動像……ですか」
【動像ゴーレム】……。
それは『土』と『錬金』により造られた非生命体。
これらを最初に作った者はここ『緑の大陸』の何処かの地下に棲まう種族『土小人』だ。
彼等は男も女も一律にけむくじゃらの大食漢で
そこの大陸でなければ生きていく事は出来ない。
性格は荒々しいが悪くはなく旅人をもてなす事が彼等の信条だ。
だが、その技術を知った人間の国家がある日森の大陸全てに点在するドワーフの穴蔵に攻め込み捕囚し『五大陸』全土に散らした事で動像の技術は齎された。
……今では森の大陸に彼等の目撃情報はなくなり、
動像は人の金持ちの『骨頂品』兼『警備員』として置かれている現状だ。
「彼等がそれを発明したのは数世紀前ですよ?
それがこんな旧びた場所にあるなんて……。
やはり牢屋の中にある彼等と関係性があるのでしょうかね?」
牢屋を中を見ると種族様々な骸骨が散乱していた。
所々肉片がこびりついており腐臭が漂っている。
そう思っていると不意にキノトが人狼化して鼻をルージュの背中に擦り付けた。
「お前も変わらない」
「……それは調教の一環ですかね?」
そうこうしていると行き止まりになった。
どうやら此処が終着点らしい。
何やら広大な壁に壁画と古代文字が描かれており、
数えると『二十七』箇所あった。
「やはり此処にも【兄弟の神話】が描かれていますか」
『ギルド』曰くこれら壁画に描かれた絵と古代文字と同一の内容が全国の洞窟に分布しているらしい。
……故にこの地に住まう知恵ある生物の全てが『女神』の存在を崇めているとか。
学者の中にはこの世界に『魔法』と言うモノが齎されたのはそこからだと説を押す者もいる。
「……女神の勝利を讃える為にこの地は決まった時期に祝祭を挙げる。
魔族の血を引くモンスターを勇者の使命を帯びるギルドが屠るその祭りは【荒野祭】と呼ばれている……か」
ルージュの言葉にキノトは頷き、
そして鼻をスンスンと動かした。
「……まだ行ける」
その言葉に二人はより深く洞窟を進み始めた。
主人公は長髪で男。種族はセイレーン。
平常時の性格は銀魂の東条やハンターのプフ。
本気を出すと黒の契約者の魏志軍。
声優は『遊佐浩二』さんか『羽多野渉』。
本気モードで『草尾毅』さん。
(真面目そうなナリをしてソープランドに通い詰めており、歩く風俗紹介所とも言うべきほどにその方面の知識に精通しているらしい。
ちなみにこいつがダンまち世界にクロスオーバーしたらアイズのストーカーになる)
ヒロインは髪を括っている。種族はヴェアウルフ。
性格は黒の契約者の銀。
声優は『橘さくら』さん。