これからの方針
遅くなりました
「あー…なんというか、すまない。王子がまさかあんな事を言うとは思わなくてだな。わしらから謝らせてくれ」
王子さんが出ていってその姿が完全に見えなくなった頃、儀式の間は微妙な空気が漂っていた。王子さんから謝罪がなかったからか、カイズさんが頭をさげてくる。それに習い、周囲の者たちも頭をさげてきた。
「あ、と、…皆さん頭をあげて。私気にしてないし。むしろラッキーってくらい思ってるし」
本当に気にしてなかった。だってあんな王子とずっと一緒にいるとか…。恐ろしすぎる。だから、あっけらかんと言う私に驚きの表情をみせる彼らに、それに、と私は続ける。
「まあ、あんな態度とられたら怒りたくもなるけど、当の本人がいないなか怒ってもねぇ? それに、あなたたちは悪くないんだから頭さげないでくださいよ。確かにあの人はあなたたちの国の王子かもしれないけど。上の人が下の人の非や失敗に頭さげるのはわかるけど、下の人が上の人のために頭さげるのは、よっぽど上の人が優秀か人がいいときだけでいいから」
今、遠回しにかなり王子をディスったが、大丈夫だろうか。
「…王子にあんなん言われたら、普通怒るか泣くかだろ」
「変わった人ですね」
皆、私を不憫がってお咎めはないようだ。
「えーと…これって、私はどうしたらいいんですかね? なんなら住むのは下街?とかでもいいんですけど。とにかく、面倒事はごめんですよ?」
「うーむ、それは無理だろう。何かしら力があるかもしれぬ。もし魔力があるのなら、制御も覚えなくてはならない。少し窮屈かもしれんが、生活は王宮内になるだろう」
「そう、ですか…」
魔力かぁ。あったら何がきるのかな。あ、ここまできたから、多少はあるんだっけ? …あんな王子がいる場所で生活だよ? 楽しめることみつけなきゃ、やってらんないわ。
「とにかく、部屋は手配する。本来なら一人のはずだったから、神の乙女のための部屋は、もう一人の彼女がつかうはずだ。…ルシ王子が連れて行かれたからな。まあ部屋ぐらいならいくらでも用意できる。国王にもこの一件は連絡がいっているはずだ。」
「わかりました、えっと…さっきはマイにしか言ってなかったし、一応名乗っときますね。天久春。ハルが名前なんで呼ぶならハルで」
「「「!!」」」
あ、確か姓があるとなんかあるんだっけ? マイが名乗った時も王子が反応してたし。みなさん、驚くにしても凄い顔だな。
「…あなたも姓がおありでしたか」
「あー…、私たちがいたとこは、みんな姓があるんで」
「そうでしたか。こちらでは姓があるものは、基本、位が高い者たちばかりで、貴族たちがもつものという認識。面倒事が嫌ならば、詮索されないためにもあまり言わぬほうがいいかもしれませぬ」
「なるほど、やっぱそんな感じだったか。こーゆーこちらの常識とか全くわからないから、ためになります」
そんなこんなでカイズさんに言われ、騎士二人も自己紹介してくれた。で、今その二人に客間に案内してもらっている。ちなみに、一回声を荒げたけどそれ以外は終始丁寧で柔らかな物腰だったその1さんはヨハネス・リブラ。その2ことシンと呼ばれていた方はシン・タウラス。二人とも軍に所属していて、かなり上の人間らしい。
「…にしても、お前、ほんと災難だったな。王子にあんな事言われるし、もう一人の女は王子来たとたん、コロっと態度変えてたし」
無駄に長い廊下を歩いていたら、私の数歩前を歩いていたシンさんが言う。
「あー…、安いドラマか!ってくらい早い展開でしたもんね。うん、あれには驚いたけど。早すぎる展開に驚きまくったけど。でも正直、少しショックだったけど、そこまで悪い事とは思ってないし別にいいかなぁって思いますね」
「普通、傷つきませんか?」
シンさんと違って、私に歩幅を合わせ隣を歩くヨハネスさんが気遣わしそうにきく。
「んー。なんて説明したらいいのかな。人間、よほど信頼していないと素の自分なんて見せれないと思うし、だからマイが初対面の私に仮面被って接してても不思議な事だとは思はないし。私だって、被る時は猫被りますしね。それに、こっちの世界知ってる人と知らない人じゃ、縋りたくなるのは前者でしょ? まあ、ショック受けたは受けたけど、ただそれだけ、って感じかな」
「強いんですね」
「やっぱ変わってるな、お前」
なんか、ひどくない? 褒められてるのか貶されてるのか…
「ヨハネスさんだって、少なくとも猫かぶってますよねぇ?」
「そういや、荒ぶってたな」
「!?」
お返し、ってわけじゃないけど、なんか気になってはいたし、私から話をヨハネスさんに変える。
「あれ、相当レアだぞ。初対面であれ見れるとか、ハルついてるな」
「ちょ、やめろ、シン!」
「「あ」」
「…」
また口調が崩れてシンさんの口を押えようとするヨハネスさんに、私とシンさんの声がハモる。
「…そっちが素なんですか?」
「いや、違いますよ?」
「いや、素だろ」
「シンはもう黙っててくれますか?」
美形が怒りながら笑うと怖いな。笑って躱してるシンさんがすごい。…とにかく、ヨハネスさんにとって、触れられたくないことらしい。なら話を変えよう。
「ところで、この王宮には美形しか入れないというルールでもあるんですか?」
「は?」
「いや、会う人みんなそれなりに綺麗な顔立ちしてんなーって思ってたんで」
「…ルシ王子が言ったこと、やっぱり気にしてるのですか?」
「あ、いや、だってシンさんもヨハネスさんもイケメンの部類に入るでしょ? 王子さんもまあ、みれる顔だったし。みなさん顔面偏差値高いなーって」
「「顔面偏差値…」」
「で、実際のところ美形ばっかりなのかなって」
「さあ、そういった話は聞いたことないな。一応、ここで働く人は与えられる仕事ができる人しかいないし」
「そうですね、顔で採用…とかはないかと」
「え、それって王族も?」
こことはつまり王宮だ。つまり、あの、ナルシスト王子も何か重大な役割が…!?
「…お前、言いたいことが顔に書いてあるぞ」
「まあ、国王は有能な方ですしね。ルシ王子もそれなりに国政を学んではいますよ?」
苦笑しながら補足をするヨハネスさんに私はさらに驚愕する。
あの王子が国政!? 将来大丈夫かこの国。確か第二王子だったよね? 第一王子がどんな人か知らんけど、そっちがまだマシなんじゃない!?
「お前、その顔ルシ王子の前ですんなよ?」
「…それに、ルシ王子は剣の腕もありますしね」
「ダウトォォオ!!」
信じない。絶対に信じない。あの王子が?剣?
「ないないない。ありえない」
「えらい否定の仕方だな」
「王族なら、幼少期から武術をならいますからね。さすがに俺らとは無理でも部下たちとなら互角ぐらいだと思いますよ」
軍にいる人と互角…
「まあ、それなりにできる事はできるお方なんですが、まあ、ちょっと、あのように女性好きでして。たまに困ったりするのですが」
笑いながら肩をすくめるヨハネスさんにシンさんが続ける。
「でも、今日のアレはないだろ。いくらここじゃ黒目に黒髪が珍しいからって自分の好みで人を判断するのはどうかと思うぜ」
「珍しいの?」
確かに召喚されたあの部屋に黒髪っぽい人はいなっかたけど。
「他国にはいるけどな。アムネスト王国じゃあんまりいない。この国は赤、金、青、茶、緑が多いかな。人により多少濃さは違うけど」
「じゃあこの髪目立つのか…」
「でも、綺麗ですよ? 夜空みたいですね」
「!?」
怖い怖い。イケメン怖い。こんなセリフさらっと言えるとか凄すぎでしょ。
私の髪を指して微笑む彼に、内心ぎょっとしてしまう。
「ア、ハイ、アリガトーゴザイマス?」
「なんで疑問形?」
笑って私の髪に触れてくるヨハネスさんに、こんな事に免疫のない私は固まってしまった。
「あ、の。お世辞でも嬉しいですけど、こういうのは見てるのが楽しいわけで、されても反応に困るんでやめてもらえますか?」
「ふはっ」
私の言葉にヨハネスさんはぽかんとし、シンさんは大笑いしだした。
困るから言っただけなのに、なぜ大笑いされるんだ。
「お…おま、最高! 見てるのが楽しいとか…そこ普通は顔赤らめて照れるとこだろ? ぶふ、それが、こ、困るとか…はははっ、ヨハネ、お前、困るってよ、ふ、くくっ、さいっこーだな」
いや、可愛いコならそれやってもいいかもだけど。私が顔赤らめるって、気持ち悪いから。絵面できにアウトだから。私の容姿で褒めれるとこ、姿勢のよさぐらいだと思うからね?
「ハルさんは、こういったことは苦手でしたか。すみません。でも、本当に綺麗だと思いますよ?」
「あ、はい。どうも」
「ふ、くく。ヨハネ、お前がこんなふうに流されるのって初めてじゃないか?」
「うるさいですね」
「はは、…あー笑った笑った。いいネタになるわ。ハル、ありがとな」
シンさんにお礼を言われたが、絶対ヨハネスさんにとっては迷惑な話だろう。ネタって言いきってるし。なんかまた悪いことしたなーとか思っていると、何か思ったことがあるらしくシンさんが話しかけてきた。
「そいやさ、ハル今みたいなの嫌なんだろ?」
「え? あ、はい」
「じゃあさ、この俺らが付けてる黄色のバッジあるだろ? これ付けてるやつは注意しな?」
そう言ってシンさんが自身のシャツの左襟を指す。そこにはは、ひし形をしたシルバーの土台に、一部黄色い石が埋め込まれたボタンのようなものがついてた。ヨハネスさんをみると、彼の襟にもある。
「…それは?」
「詳しくはまた時間があるときに話してやるけど、簡単に説明したら軍のチームカラーみたいなもんだ」
「軍の中に、それぞれ赤、青、緑そして黄色とグループがあり、それぞれ得意分野で別れているんです。赤なら前線にでて攻撃専門。青は頭脳系。緑は魔力持ちが集まっていて治癒に特化しているんです」
「で、俺ら黄色は防御が優れてる。…って言っても訓練は攻撃も守りもやるから赤のやつらともやり合える力はあるけどな」
なるほど、つまり、緑とかなんとか言ってたカイズさんのあれは、このことだったのか。…治癒。カイズ強そうだったし、怪我も治せるとか最強か。
「ん? でもなんで注意、なんですか?」
色でグループが別れているのはわかったが、それが防御の黄色が何故注意なのかがわからない。
「あー…俺らんとこ、自由っていうか。ヨハネみたいなやつが多いんだよ」
「なんですか、俺だけ。シンだって似たようなものでしょう?」
「別にこいつの事口説いてねーじゃん」
「今は、ですけどね。ハルさん、気をつけた方がいいですよ。彼、俺以上に手がはやいんで。あんまり近づきすぎると妊娠してしまいますよ」
「「!?」」
先程のお返し、と言わんばかりに、それはもう、とてもいい笑顔で言うヨハネスさん。
「別に手ぇだしてねーよ! 可愛いねって言ってるだけじゃねーか! てか妊娠しねぇよ!!」
「女性を褒めるのは悪いことじゃないからだめとはいいませんけどね」
ああ、なるほど。つまり黄色の人たちは女性をみたら褒めるなり口説くなりするのが多いらしい。…イタリアかっ!!
そんなやりとりをしていると、やっと客間についた。
「じゃあ、数日間はそこに寝泊まりすりことになるとおもうぜ。新しく部屋を準備したらまた来るから」
「もうしばらくしたら、世話係のメイドが来ると思うので、何かあれば遠慮なく言ったらいいですよ」
「え」
どうしよう。
すごく、すっごくこの部屋にいたくない。
無駄に広い部屋。豪華なシャンデリアにたぶん金で装飾されているのであろう壁や天井。一人で寝るにはデカすぎるベッド。庶民の私には、とてもじゃないけど落ち着ける部屋じゃない。
「あの、ここより小さい客間はないんですか」
「いや、基本みんな客間は同じ造りだからな」
「お気に召しませんでしたか? もう少し先にここより少し広い部屋がありますが、そちらにしますか?」
「ここより広い!? いやいや、いいです。大丈夫です。広すぎて落ち着かないなと思っただけなんで」
ここより広いとか、もうどんな部屋だよ。
「…女って皆こういう豪華な部屋は喜ぶものだと思ってたわ俺」
「シン、そういうのは人それぞれだ。…確かに珍しいと思うけど」
「聞こえてますよ?」
悪かったな! 生まれも育ちも普通の家庭だったから、ここでいう庶民となんら変わらないんだよ! ここの庶民がどんな生活か知らんけど! そしてヨハネスさん素の口調でてますよ!
「まあ、今日はもう遅いですし、お風呂に入って休むといいですよ」
「あ、たぶんメイドが着替え持ってくるハズだ」
…部屋の広さのあまり、さっきはスルーしてしまったけど、
「メイド!? さっき世話係とか言ってましたけど、私の、じゃないですよね!?」
「いや、たぶん専属になるんじゃないか? 基本側にいてくれるはずだ」
NOOOOOO!!
「え、いらないです。専属とかいらないです」
絶対、落ち着かないじゃん!それ!!
「っていわれてもな」
「俺らが決めているわけじゃないですしね」
「服だけで結構です!って伝えててください! 何かあったらこっちから訪ねるんで!」
そう言うと二人は、わかった、とりあえず伝えておくと言って、去っていった。
そして二人が去った今、部屋の中を一通りみたのだが、どれも高価そうな物ばかりで恐怖しかない。もし壊したらどうなるんだ。こっちの金ないんだけど。
悩んでいても仕方ないし、とりあえず、言われた通り風呂に入る。…はい、もちろん、そこも広くて落ち着きませんでした。
「…新しい部屋、これ以上豪華だったらむりだな」
そんなこと考えながら風呂からあがり、脱衣室に置かれたタオルをとる。タオルの側に置いていたはずの私が元から着ていた服は無くなっており、そのかわり、ワンピースのような、薄手の長袖が置かれていた。
「あー、これが着替えかぁ。…ワンピースとかいつぶりだ」
体を拭きながら、服をみてみる。フリルがたくさんついたデザインだったから正直好みではなかったが、色が紺色と、落ち着いた色だったのが救いだ。
「んー、これ、前ボタンか。普通に着けたらいいのかな? …ん? …あれ?」
…なくね?
準備されていた着替えにはなかった。あったのはパンツとワンピースだけ。
…
……
「……ブラがない!!」
そう、ブラがないのだ! 何を言っているかわからない? だからブラがないんだよ!!
「まって、何でないの? サイズがわからなかったとか? …もしかして、こっち、無いの!?」
だとすれば、かなり困ったことになった。ブラなしで生活し続ければ…垂れる!!
それだけじゃない。ブラが無いと、安定しないから違和感ありまくりだ!!
ささっとブラ無しで着替え、メイドを探しに行く。メイドは部屋の扉の前で待機していた。一通り話をきくと、この世界にブラが存在しないということを知った。そして、お洋服事情も少しわかった。女性は脚を出しては、はしたない、とされるようで、今着ている私の服も、メイドさんが着ているる服も、床まで布がついていた。つまり、ロングワンピース。
…やること決まったね。
この世界の事学びつつ、時間みつけて服、作らなきゃ。ブラ無いとかありえないし。第一、メイドの脚拝めないとかありえない。もちろん、ロングのメイド服もいいけど、やっぱりメイド服と言ったら膝丈。向こうの世界居たときは、コスプレとして、何回か服作っているし、大丈夫いける。
…きっとこの世界は、今みたいにあの世界に普通にあったものが無かったり、不便に感じる事はたくさんあるのだろう。なら、今後はそういう不自由を無くすように頑張るか!
今後の方針が決まった所で、私は眠りについた。
ベッドは大きかったが、最高の寝心地だったので、少しは悪くないかなと思った。