神の乙女
すみません、続きだいぶ遅くなりました!
「おい、大丈夫か、あのこ」
周囲の心配そうな、可哀想なものでもみるかのような視線を無視して彼女のもとにフラりと向かう私。
そんな事、今気にしてられない。
傷が治った。…数日かかって治るはずのものが、たった数秒で。
そしてこれは現実。
ガシっ
「ねえ、」
彼女の肩を両手で思いっきり掴むと、少しびくってされた。
「現実が受け止められないんですけど」
「私も…」
「これ現実なんだよね?」
「…みたいですね」
「この世界のことなんか知ってます?」
「いえ、なんにも」
「びっくりですよねー。私も知らない」
まあ、とうぜんだよね。知ってたら、不安そうになんてしないか。
「…あの、腕大丈夫なんですか?」
ちらっと私の左腕に視線をよこす彼女。先ほどの傷痕がないにしても、血が出るところをみてたのだ。そして今はないソレ。気にならないわけがないか。
「へーき。全く痛くない。切ったことさえ疑いたくなるほどにね」
そっか。と不思議なものをみるような、でもどこか安堵したように彼女が呟く。
…いい加減、この彼女よびをなんとかするか。
「あの、名前きいてもいいですか? あ、私は天久春って言います。ちなみに高2です」
「姫川舞です。同じく高2です」
「同い年か!」
マイは制服だったから確かに身長的にも高校生だとは思っていた。そして同級生だなんて! この状態で同級生とは、話しやすいからかなり心強い! しかもなかなか可愛いコ!! ここかなり重要っ!!
「ね、ね! タメでいい!?」
「あ、うん。敬語じゃなくていいよ」
「やったーっ!」
さて、気づいている方も多いと思うが、私、春は、かなり敬語が苦手です!! 堅苦しいじゃん。あ、勿論ちゃんとした場とか、えらーい立場の人とかにはしっかりするけどね?
「マイもいるし、1人じゃないならなんとかなるかなぁ」
先ほどより、かなり冷静でいれるのがわかる。
「マイ…」
「あ、呼び捨て嫌だった?」
「ううん、ただ馴れないから…。普段は姫川さんとかヒメとかまいちゃん、だったから」
「あー…。そっか、普通はさん付けとかだったね。
自分が住んでたとこは下の名呼び捨てが普通だったからさー。嫌ならマイさんとお呼びしましょうか」
「やめて(笑) マイでいーよ」
ふざけてかしこまったように言うと、マイは笑ってかえしてくれた。
笑い顔も可愛い。そのちょっと困った感じ?
今まで一体、何人やられてきただろう。
「マイって呼び捨てにされるのなんか新鮮だし。私も下の名前で呼んでいいかな?」
どこに断る理由がある。
「もちろん!」
「じゃあ、ハルちゃん! よろしくね!」
「!!」
なんだこれ。可愛すぎ。
そしてむず痒い。○○ちゃんってちゃん付けで呼ばれ馴れないからぞわぞわする。けど、ハルちゃんってマイがふわって笑いながら言うものだから、悪くない。むしろもっと呼んでください!って感じだね。
テンション上がるなか改めて彼女を見直すけど、ほんっと可愛い。肌は白いけど、不健康っぽくないほどの白さで、すらりとした手足。私よりは高いけど、高すぎない身長。160センチくらいかな? なにより、第ニボタンまで開いた制服から見える鎖骨が…えろいです! だが、動くたび、明るすぎない茶色がつくる首より少し上のゆるふわウェーブが、そのエロさを抑え、愛らしさと絶妙なバランスをとっている! 彼女ほど眉上パッツンが似合う子はいるのか!? そしてなんと言ってもぱっちり二重を縁取るバサバサの睫毛! これがまた可愛さ2割増しにしている!!
…ん、…ちゃん! ハルちゃん!!」
「ハッ!?」
「大丈夫? なんか硬直してたけど…」
「あ、ごめん、一人テンション上がってた」
いかんいかん。別の意味で冷静じゃなくなってたわ。
「あー、えと。まあ、少し冷静になったし、ごめんなさい、もう一回詳しくこの国とか神の乙女?とか、教えてもらってもいいですか?」
「私も。なんで突然ここにきたか気になります」
説明を求める私たちに返してくれたのは、先ほど傷を治してくれた老夫だった。…老夫って表現よりか、おじいちゃんって感じだなぁ。なんかハツラツと畑仕事とかしていそう。
「わしが説明しよう。まず、初めまして、お嬢様方。わしはカイズ・ヴァルゴ。まあ、なんだ。この国の軍人だ。といっても、非戦闘系だがな」
この人が軍人!? どうみても60歳は過ぎてるよね!?
そして軍人で非、戦闘系ってなんだ!?
「カイズさーん、なんすか非、戦闘系って。カイズさんが非戦闘系だったら俺らは何になるんすか。ザコ以下じゃないっすかー」
「そうですよね。緑だけどたまに戦闘にでる時はすごく強いし、その見た目で80過ぎてますもんね」
「「80!?」」
騎士さん達により説明が中断されてしまったが、衝撃の事実に私とマイの声がハモる。なんか、途中の緑ってよくわからんかったけど。とりあえずかなり凄い人って事はよくわかった。
「おまえたちなぁ…話を戻そう。わし達の国は他国よりも魔物が出やすい国でな」
「はい?」
「魔物の活動が活発になると"神の乙女"と呼ばれる者が現れるのだ。」
…。
マイと顔を見合わせる。彼女もどこから突っ込んでいいのかわからないようだ。
「その者は魔物の瘴気に強く、また、魔物はその神の乙女がいるだけで逃げていくという。しかしだな、稀に魔物が活発になっても神の乙女が現れない時があるらしい。まさに今がそうだった。」
「あの、まさか…ですよね?」
ここが何らかの撮影現場でないとわかった時。そして、カイズさんが傷を治してくれた時。脳裏に浮かんだ言葉―――異世界
「まさか、現れないならどこかから呼ぼう!…ってことで、私たちが呼ばれたとか、そしてその神の乙女が私たちとかいいませんよね?」
「飲み込みが早いな。結論を言うとそうだ」
「…っ」
「!」
つまり、これが本当なら異世界召喚されたってわけで、しかもこれから魔物をどうにかしないといけないって事だ。こーゆーことは、確かに物語や妄想でならいくらでも楽しい。異世界転生や召喚モノは大好物だ。現実に起きたらな、とか考えたことあるけど、しかし実際そうなると妄想のようにいくわけじゃない。…最悪、死ぬ可能性だってあるわけだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私たち、帰れるの!? そもそも私、神の乙女なんて知らないし…魔物って何? …意味、わかんないよ」
「マイ…」
うん。私も意味わかんないよ、ほんと。そして恐い事に、ヲタすぎて現実を飲み込み始めてる自分がいるし。
「残念ながら、君たちが帰る術は現状、ない」
「デスヨネー…」
「そ、んな…」
ラノベとかで異世界召喚されたら帰れない。んで、魔王退治だの帰還方法探しなどが始まるのが恒例だ。何となく帰れない気のしていた私は、少しのダメージで済んだが、マイにはかなりのショックだったようだ。じわりと目尻に涙が浮かんでいる。
「勝手な事だとはわかってる」
「…そのわりには、最初、すごい喜んでましたよね、皆さん」
可愛い可愛いマイを泣かせたのだ。思わずジト目で言ってしまったのは許してほしい。
「…なんだよその言い方。それに泣く様な事か? 喜ばしい事だろ? 神の乙女だぞ?」
そして、その言い方は騎士その2さんの反感を買ってしまったらしい。まだショックから立ち直れず泣き気味のマイを庇うように抱きながら返す。
「確かにあなた達にとっては喜ばしい事だと思う。私たちがその神の乙女かどうかはわからないけどね。でも、こっちにだってこっちの生活があった。それが突然全く知らないところに連れてこられて、魔物とか神の乙女ってこっちにとって馴染みのない事言われて。終いには帰れないという。喜べってのが無理な話。逆にききますけど、あなたが私の立場なら喜べるんですか? 仕事、友人、家族は? あなたにだってあるでしょう?」
「…っ。それは、そうだが…」
「やめんか、シン。彼女の言っていることは正しい。おまえが逆の立場なら、彼女以上に怒っているぞ。冷静に話そうとしてくれるあたり、賢明だ。あまり話を遮るな。せっかく理解しようとしてくれているんだぞ?」
「…っすみません」
「わしに謝ってどうする」
「…悪かった」
理解はできるが、きっと彼らとしては嬉しなことだったから受け入れがたい事なのだろう。渋々といったふうにその2ことシンと呼ばれた男は謝ってきた。
「いーえー。私も結構強く言っちゃたし、こっちもすみませんでした」
さっきの淡々と言った言い方は、キツイ言い方だったと思うから苦笑しながらこちらも謝る。
「で、気になってる事があるのでお伺いしても?」
「ああ、わし達で答えられることなら答えよう」
「えと、元から神の乙女って2人呼ぶつもりだったんですか?」
結構最初から気になってはいたのだが、こういったものは基本主人公が1人で召喚されるはずだ。もしくは一緒にいた友人とかと。だが、私は、マイとは全くの初対面だ。だから不思議に思い、神の乙女は2人必要なのかとか思っていたのだが。
「いや、召喚は1人のはずだった。」
一瞬、カイズさんの瞳が開かれたが、もとに戻り否定される。
「元から簡単な事ではなかったから、召喚できるかさえ怪しかったのだ。なんというか、一種の賭けのような。だから召喚の儀式のため国の魔力持ちほとんどが集まったからな。」
「そうなんですか。という事は、カイズさんも魔力を?」
「ああ、そうだ」
80越えの軍人で魔力持ち。改めてすごいな。
「その辺の詳しい話はまたやるとして。本来、神の乙女とは1人のはずだ。少なくとも、過去の記録に2人以上いたなど、みたことがない」
「つまり、私か彼女のどちらか?」
「いや、現状ではまだはっきりとは断言できない。記録にないでけで、2人とも神の乙女かもしれん」
「…ちなみに、両方違うという可能性は?」
一応、こっちで2人平和的に暮らせるかも?と、一縷の望みをかけてきいてみたが、
「いや、それはないだろう」
否定された。
「なぜ言い切れるんですか?」
「召喚の際、この魔法陣をくぐり抜けこちらに来るにはある程度の魔力がないとここまでたどり着かない。そういう術式だ。つまり、少なくとも魔力はあるという事だ。そして、過去に数回だが、召喚された者がいる。…もうずっと昔だがな。そして、こちらに来た者は、決まって神の乙女であったそうだ」
「まじかぁ…」
マイを抱きながら空…じゃなくて、無駄に豪華な装飾をされた天井を仰ぎ見る。これは、いよいよ腹を括らないといけないらしい。
非現実的な話だ。本来なら信じなかっただろう。けど、みてしまった。一瞬で傷が治るのを。磨かれた重い剣を。そして、あの魔法陣も、ここが異世界なら説明がつく。なかったもんね、プロジェクタ。
はぁ。とため息をつく。
「…マイ、少しは落ちつた?」
「うん、ごめん。ありがと、ハルちゃん」
「ううん、仕方ないよ。私も1人だったら取り乱してたと思うし。今の話聞いてた?」
こくん、と頷きマイが肯定する。
「これから、どうするの?」
「こっちの世界で生活して、何か帰れる方法わかったら試す、って感じかなぁ? なんならマイとルームシェアとか?」
「ハルちゃんいっしょだと心強い」
泣いてちょっと赤くなった顔でへへっと笑うマイは、最強に可愛かった。
今回ほどではないですが、これから更新はゆっくりにしていこうと思います。そのかわり、今までより1話1話の長さを長くするので、気長に待ってくれるとうれしいです。