第72話 報われるべきもの
ひとまず落ち着きましたので、また投稿していきたいと思います。
あの後、俺とベル、メルトの3人は屋敷内へと移動し、空いているとある部屋へとやって来た。向こう...ジョーダー学園に行くためのゲートのようなものを置くためだ。
「それじゃあ、ここに頼む」
俺がそう言うとベルはコクリと頷き、ゲートのようなもの...【空間繋穴】を設置した。これで今このゲートはジョーダー学園にあるシズリアさんの学園長室へと繋がっていることになる。
「あ、そうか…なぁメルト?」
「?...何でしょうか?」
「学校って行きたいか?」
「え?あ、あぁー...」
俺の言葉を聞いたメルト。その視線の先には今しがた設置されたワープホールがある。そう、このワープホールのおかげで俺達は学園への行き来が簡単に行えるようになったのだ。これがあればメルトだけでなく他の希望者も学校へと行かせることができるだろう...
「でも、私メイド長ですし…」
どうしようか...迷ったような困ったような顔をしながらメルトはそう言う。
「別に俺はメイド長だからといってダメと言ったりしないぞ?人増えたし何とかなるだろうし…対応できない場合はパーティーチャットで連絡を取ればいいさ」
ジョーダー学園は特殊な学園である。種族や貴族などの差別はなく、入学できるかどうかも全て実力で決まる。その為、中には都合上働きながら学園に通う者がいないこともない。最低限の授業を受け成績を残す...要はそれに応じた結果さえ残せば許される学園なのだ。
それにシズリアさんに渡したものに国王、オルドリックからそこら辺の融通をきかせてやって欲しい...といった内容も記載れている。それを考慮した上で俺達を入学させると言ったのだから問題ない...多分。
「でしたら…私も入学してもよろしいでしょうか?」
「分かった。あ、あとそうだな…ユキと残りのサシスセソ組くらいには聞いておいてくれ、あいつらは最初に来てくれた奴らだからな…本人達が望むのなら叶えてやりたい」
入学の意思を伝えたメルトにワープホールに入る前にそう言っておく。年齢的にも俺の一個下だし、同い年くらいなのに奴隷だったということを考えると...まぁ、同情のような気持ちが芽生えてきたりするのだ。
彼女達は皆、一生懸命に頑張ってくれていたし...俺というよく分からない存在にも、必要以上に踏み込んだことは聞いてこなかった。それでも頑張ってくれた彼女達に俺は...報われて欲しいと思っている。
『努力は必ずしも報われるものではない』
俺が小学校時代のバスケの監督が言った言葉だ。その時は最初、何を言っているのか分からなかったが…中学に上がってからその意味を理解した。
小学生のバスケ...ミニバスケットボールと呼ばれるものは最低でも10人は試合に出さないといけないという決まりがある。5対5で戦うバスケットにおいて、10人を出せというのは...最低限ベストメンバー以外の5人を1クォーター分、出場させなければいけないということ...要は...小学校時代には出れる者がいたのだ。
それが中学に上がると、小学校に比べ学校数が減るため...競争率が上がったのだ。また、ミニバスケットボールと違い10人だすといったルールもない為、基本的にベストメンバーとシックスマンと呼ばれる6人目や7人目くらいの選手が途中交代で入り、それらのメンバーで試合をこなすのが...主流となっていた。
幸いにも...というかあまりこう言うことは言いたくはないのだが…俺にはバスケの才能が人並み以上にあった。だから試合に出ることが出来たのだが…現実とは厳しいもので...努力して、頑張ってる者がいても...それを超える才能を持った奴っているのだ。
ベストメンバーに選ばれる為、自主トレーニングを積み重ねても、そんなことをせずともその座を勝ち取ってしまう者がいる。もちろん、そいつは練習自体はマジメにやっていたし、自主トレーニングをしないものなんて多数存在した...人並みの練習をしてベストメンバーに選ばれただけの...良くある普通の話だ。
だが…そんな良くある普通の話の裏に...影で人一倍以上に努力をしてもベストメンバーに選ばれなかった者がいることも俺は知っている。その時、俺は監督の言っていた『努力は必ずしも報われるものではない』という言葉の意味を理解することが出来たのだ。
もし、努力が必ず報われるのなら…この世界の人々は世界をまたにかけるスポーツ選手でありふれているだろう。でもそうではない...何故ならスポーツにしろ音楽にしろ...そこには才能という壁がつきまとうからである。だから、監督の言葉の意味も理解することが出来た。
でも...だからこそ俺は報われるべき努力は報われて欲しいと思っている。
確かに彼女達を選んだのはスキル...言わば才能である。だが、スキルは積み重ねやレベルアップで得られるものだ。つまり、基本的に誰でもその頑張りに応じて身に付けられるものでもある。
だからこそ...それらを持っていた彼女達を選んだし、選ばれたのは彼女達の頑張りだ。そんな彼女達が今度は俺の屋敷で頑張ってくれている。メイドの仕事に加え、戦闘なんかのトレーニングも自主的にしてくれている。
だから...彼女達にこんな恩返しをしたいと俺は思うのだ。
ちなみにというか余談ですが...本文に出てきた報われなかった少年は...センヤやシュウマと違う遠くの高校へと進学し、そこではちゃんとスタメン含めベスメンを勝ち取ることが出来たとかいうハッピーエンド。




