第61.5話 勇者サイドストーリーその5
.5話の投稿?大丈夫です、本日もう1話本編を投稿します。
ジョーダー学園。この世界最高峰の学校と名高い学園である。出身や貴族、平民などの身分を問わず亜人...(人間以外の種族の総称)であっても才能を認められれば入学することができる。
その為、安全であり中立であり対等なこの学園に入学することを望む者は多く、この学園を卒業できた者はそれだけで一種のアドバンテージを得ることができるほどだ。
そんなジョーダー学園にかつてないほどの危機が迫っていた。
「魔王がこの学園に何の用だっ!!」
そう、魔王と呼ばれる存在の1体が...このジョーダー学園へとやってきたからである。
「あれは『千手の魔王 ディアブロ』だな」
そう言ったのは横山 歩夢、1年程前にセンヤの捜索に行った際に共に行動したメンバーの1人だ。【望遠共有】という固有スキルを持っていて壁や障害物をすり抜けて遠くのものを見ることができ、なおかつその映像を近くにいる者へ共有することができる。
「これが魔王…」
その姿はおぞましく、纏っている雰囲気から魔王と呼ばれることに素直に納得する。
「魔王...あれが…あれが…」
委員長も魔王の存在を見て驚いている...ん?何か違う...っ!?
「おい待て!いいん」
俺は委員長の様子から次の展開を予測し慌てて止めようよするが、パリーン!という音とともに委員長は窓から飛び降りてしまう。
「え、ど、どうしたの!?」
その委員長の行動にクラスは騒然とする。そしてその視線の先にはその委員長を止めようとした俺の元へと注がれている。
「委員長は魔王を倒しにいった...センヤは魔王に殺されたのだという結論にアイツらは至った。おそらく委員長はセンヤの敵を打つつもりだ」
クラス中が先ほどよりも騒がしくなる。それもそのはず、俺達は勇者と呼ばれ普通の人よりも高いステータスに固有スキルを所持してはいるがまだレベルと実戦経験が乏しいのだ。
今戦ったとしても勝つことができずにただ死ぬだけだろうということは誰にでも予想できた。
「ちょっと伊藤!もしかして」
「あぁ、委員長連れ戻してくる!」
白波の言葉を遮るようにそう言い、委員長の壊した窓から飛び降りる。
いくら慌ててたからって窓壊すのはどうかと思うぜ委員長…
俺は魔王のいる学園入口付近の広場へと向かった。
「っイトウ!何しに来たんだっ!教室で待機だと言っただろうが!!」
俺が広場へとたどり着くと俺の存在に気づいたフォード先生が慌ててそう言ってくる。
「いや俺も来たくなかったんですけど、アホが飛び出していきまして...」
「?リンドウはコチラに来てはいないぞ??」
アホで伝わるのかよ...いやそれはともかく...委員長はどこに行った?場所が分からないはずはないし...
辺りを見渡すように探すが委員長の姿は見当たらない。俺の考え違いか?と俺が教室に戻ろうとした時だった。
「おいあれ!」
誰かのそんな慌てる声が聞こえたのでそちらの方に振り向くと...
「うりゃぁぁぁぁあ!!!」
気合いの入った声とともに剣を振りかざす委員長の姿を視界が捉える。当然振りかざした先にいるのは魔王だ。
「って、何やってるんだよぉぉぉ!!!」
俺は慌てて委員長の元へと走り出す。
「んだ...っ!」
そんなもの効かないだろ...と思っていた委員長の攻撃に何故か魔王は予想外の反応を示し、魔手で受け止めようしていたのを止め、委員長の身体を弾き飛ばす。
「うぐっ!」
弾き飛ばされた委員長の身体は地面をバウンドするが
1度目のバウンドで投げ出された身体を空中で整え着地する。そしてすぐさま駆け出す。
「うぉぉぉおお!!」
剣を腰に下げたまま再び魔王の方へと向かっていくが...
「うざってぇ!」
「ぐっ!」
押さえつけるに叩きつけられた魔手により身動きがとれなくなる。
「厄介なもん持ってやがるな…」
そう呟く魔王の言葉を俺を逃がさず、先ほどの魔王の焦りから...俺はとある記憶を思い出す...
神魔炎龍装 イフリート
神と魔の者を殺すための武器。それを委員長を握っている...だから魔王はあんな反応を...って委員長が遅かった理由ってアレを取りにいったからか...というか保管している場所には誰もいないだろうし...それはつまり無許可で持ち出したってことになるが…
俺は委員長と魔王を見ながらそんなことを考えていた。本来なら委員長を助けに行くべきなのだろうが...やはりその必要はなさそうだ。
「う、うう...」
「っ...コイツ、力が増してやがる」
委員長は徐々に押さえつけられた魔手を押し退けていき...
「うりぁあ!!」
ついにその魔手の呪縛を解き放つ。
「【猪突猛進】!」
【願望思想】と【猪突猛進】は委員長の固有スキルだ。
【願望思想】は委員長の感情による想いが強ければ強いほどステータスが上がる固有スキル。
【猪突猛進】は任意で発動でき、前方方向にしか攻撃ができなくなる代わりにその威力を格段に引き上げる固有スキルとなっている。
魔手を払い退けることができたのも【願望思想】によるそれに抵抗するという想いの強さが増したからである。
「スカーレットノヴァ!!」
委員長の持つイフリートが火に打たれたように真っ赤に熱を帯びていき、それが刀身全てに行き届くと更に深みを増した赤色となる。そしてそれを思い切り振り抜くと...業火に包まれた炎の塊が魔王目掛けて飛んでいく。
魔王ディアブロはそれを見て受け止めるか何かする素振りを行うが...何かに気づいたのかニタっと笑うと何もせずに炎の塊を見守るだけとなった。
どういうつもりだ?避ける必要もな...っ!?
ディアブロにその攻撃が届くことは無かった。何故ならディアブロの目の前に薄緑色の丸いワープのようなものが出現し、その攻撃が消えていったからだ。
そのワープのようなものに委員長の現最強技はいとも簡単に防がれてしまった。しかも防がれてしまっただけでなく...
シュン...とこれといった音もなく同じワープのようなものが委員長の右横ら辺に現れる...ってマズイ!
「!?っ...」
委員長のあの技は体力や魔力を全て失い使う技なのだ。つまり、あの技を使用した委員長は動くことができない!
頭でそんなことを考え駆け出すが...俺の予想していた通り丸いやつはワープらしく委員長の放った攻撃が新たに出現したワープから現れたのだ。もちろん、その進む先には委員長の姿がある。
くそっ!くそぉぉぉ!!!
頭で...体で...間に合わないことが過ぎり直感的に分かる。分かってしまうが...それでも懸命に足を動かす。
そんな中、委員長の顔が俺を捉え...
なんで...なんで笑うんだよっ!!
ニコッと笑う笑顔を俺に見せ、委員長は業火に包まれた。
「ユノォォォォッ!!!」
そして俺の雄叫びが響き渡った。
前回話していた通り、道中の出来事を省いていますので…次話にヤツは登場しますよ。




