第47話 助けられてよかった
あぁ...そうか.....
俺に抱かれている少女...ウェルナ・ボーシュリクスはユノの友達だと言った。つまり、彼女はこの世界で中々の役割を担った存在だということだ。
そしてそんな彼女を助けるのが...少しでも遅かったら...
俺はチラッと海に沈んでしまった船があったであろう場所を見る。すっかり遠くなってしまったので大体の位置しか把握できないが...というかもう陸だし...
俺はシャーブリルから飛び降りウェルナを降ろす。
「ウェルナ様...俺のことはセンヤと呼んでください。そう呼んでも違和感がないようにセンヤルドという名前にしましたから...」
「そうですか...ではセンヤさんとお呼びさせていただきますわ…あと私のことは呼び捨てで敬語もなくて構いませんわ、ユノやイトウも呼び捨てで敬語もなく話していますから」
「じゃあ俺のこともセンヤで...さん付けはいらない」
敬語って苦手だから助かる。
「あの...センヤ?...ずっと気になっていたのですけど…このドラゴンは...」
「ああ、シャーブリルか...俺の仲間だよ」
「そうですか...シャーブリルもありがとうございます」
ウェルナはそう言うとシャーブリルに向かってお辞儀する。
『ほぅ...礼儀のあるお姫様ではないか…』
俺の言葉は理解できてもウェルナの言葉は理解できないので【会話通信】を使いシャーブリルに伝えている。
「そういや、お前ってどうすればいいんだ?ずっと海にいるわけにもいかないだろ?」
カード化して持ち運ぶようにしたらいいのだろうか…?
『あぁ...それなら...』
シャーブリルはそう言うと何をしたのか体がどんどん小さく変化していった。
「か、可愛いですわ!」
そしてマスコットキャスターのような見た目になるとボフッと俺の頭の上に乗る。
『これで問題ないだろ?』
「うん、便利だな...固有魔法か?」
『いや古代魔法の1種だ...他にも会話ができるようになる魔法とかもあるぞ?』
話せるんかーい...
『なら、俺のスキルを使う必要もなかったんだな...』
『確かに...それもそうだな...どれ...』
「よろしくなウェルナ嬢」
「しゃ、喋りましたわ!?」
シャーブリルが急に話だしウェルナがそれに驚く。
「何か話せたらしいぞ…」
「そ、そうでしたの...よろしくお願いしますシャーブリルさん...」
「うむうむ...む?おおそうだ!センヤよ我に名前を付けてはくないか?シャーブリルという同種族のくくりで呼ばれると我の名前は語られるぬかもしれぬ」
シャーブリルが俺に名前をつけてくれるに頼んでくる。
名前...名前かぁ…じゃあ蒼海竜のカイとシャーブリルのルを取ってカイルと名付けよう。
「じゃあ今日からおまえの名前はカイルだ」
「かっこいい名前ですわね!今の見た目にもピッタリですわ!!」
「うむ、我も気に入ったぞ…我名前は今日からカイルだ」
はい名付けイベント終了。あとはボーシュリクスへと帰るだけだなのだが…
ここからボーシュリクスまでは結構距離がある。夕暮れも終わるぐらいなことを考えると...歩いてボーシュリクスにたどり着く頃には遅い時間になるだろう。
ここに来るまで20分くらいだから...3時間くらい歩くのか...失敗したな...こんなことになるならハチコウを素材入手に回さなきゃよかったな...
ああ...迎えに来させるか!
俺は【会話通信】を発動させる。
『レオナ?今どこにいる??』
『今?まだギルドにいるよー??』
レオナには動けないでいたヤツらの仲間をギルド...というよりオルドリックに引き渡すように伝えており、先ほど俺がウェルナの奪取に成功したことを伝えた際に既にオルドリックへと引き渡していたことを教えてくれたのだ。
『オルドリックに馬車かなんかで迎えを寄こすように言ってくれないか?俺達もボーシュリクスに向かって歩くから』
「わかったー」
俺はレオナに現在の位置を伝える。
よし、これで大丈夫だ!
「それじゃあ歩くか...ボーシュリクスに向かって歩けばギルドの連中が馬車か何かで回収してくれる」
「え?こちらに迎えに来てくれるんですの??」
「ああそうだ。そういう手はずになっている」
「そんな...まさかセンヤはこうなることをすでに予測していたと?...確かに私を助けてくださった時も迅速な対応でしたし…」
「まぁ...そんなところだ...」
本当はそこまで考えていなくて今頼んだんだけどな...
それでも、そんなことを知らないウェルナは「すごいですわ...」と俺の所業に驚いている。
悪いな...名前を明かしても固有スキルなんかまでは教えるつもりはないんだ。
そうして俺達はボーシュリクスを目指して歩みを進めた。
「そういえば...センヤはどうして名前を『偽造』しているんですの?」
歩きだすとすぐにウェルナは俺に聞いてくる。
ウェルナは【鑑定】持ちだ。だからウェルナは俺の名前を見ることができるが…そこに表示されているのは俺の【能力偽造】スキルによって表示されたオーシャン・センヤルドという偽りの名前だ。
つまり俺が名乗らなかった限りウェルナは俺が加藤 千弥であると気づかないでいたわけだ。逆に言えば俺が加藤 千弥であるのに表示されている名前がオーシャン・センヤルドだということは俺が【能力偽造】のスキル使って名前を含めた偽りのステータスを使っていることに気づくことになるというわけだ。
「あー...俺の名前って目立つだろ?だから厄介事を避けるために偽造してるんだよ」
「そうでしたの...確かに珍しいですものね」
「そうなんだよ…だから他の人にバレないように今まで通りセンヤ呼びで呼んんでくれ」
「わかりましたわ!でも...そうなるとセンヤが私に名前を明かす前に偽造した名前を伝えようとして躊躇っていたということは...ユノ達の存在を知っていたということですわよね?そして私がユノ達と繋がりがあることも...それは何故ですの??」
ほほぅ...賢いじゃないかウェルナ姫...俺の取った行動から理由を推測し、ほぼ完璧の答えを導き出すとは…これは未来のボーシュリクスも安泰かもしれないな。
「その手に付けてるブレスレット...それは俺達の間でしか知りえないものだ」
「これですの…?」
ウェルナの右手に付けられた貝殻でできたブレスレット。それは俺達が当時小学生だった頃に流行ったものであり小さな貝殻と1回り大きな貝殻で作られるものだ。そして相手に渡す際、大きい方の貝殻の数や配置によって自分にとってどんな存在かを表すのである。
ウェルナのブレスレットの意味は『親友』。しかもこのブレスレットは俺達の間だけで作ろうと決めたオリジナルのもののため他者にはマネが出来ないようになっているのだ。
「あと紐の結び方を見るに...これを渡したのはユノだってことがわかった。だからウェルナには本当の名前を伝えようと思った」
「ユノがくれたブレスレット...なんとなくで作られたものではなかったんですのね…」
ウェルナは俺の話に耳を傾けるが視線はずっと外したブレスレットに注がれている。
「まぁ...あとはお守りみたいなものでもあるから...身につけといて良かったんじゃねぇか?俺がウェルナを救えたのも案外ソレのおかげかもしれないぞ??」
俺が付け足すようにウェルナにそう言うとウェルナ
は「そうですか...」と俺に返すと、考えるように目を瞑り頭をブレスレットにつけ小さく「...ありがとう」と言葉を零し再び右手にブレスレットを着ける。
「...では次の質問ですの!」
「まだあるのかよ…」
顔を上げそう口にしたウェルナの表情もまた生き生きとしたものに戻っていた。
「それで…センヤはいつ学園に途中入学なさるのですか?」
これで何回目かわからないウェルナの質問が飛んでくる。
ちなみに今はもう迎えの馬車に合流できたため馬車内での会話となっている。
学園に入学...ねぇ...。
「うーん...俺のことを探してくれたシュウ達に会いには行くつもりだけど…学園に入学する気はないなぁ...」
「え!?ど、どうしてですの??」
ウェルナは俺の答えを想像していなかったのだろう…俺の答えを聞くと動揺を露わにする。
あと、シュウとは伊藤 秀馬のことである。秀馬は俺と幼なじみの関係で、いつかは思い出せないが気づいたら自然とシュウと呼ぶようになっていた。
「うーん...シュウ達以外にも別件があるからジョーダー学園には行くけど...入学するメリットが俺にはない。というかシュウ達も別に俺が無事だと知ったら在籍する必要なんてないだろ?」
「どういうことですの??」
ウェルナの話を聞く限り、シュウ達は俺の捜索をアイザトラスに協力してもらう代わりにジョーダー学園に在籍し魔王討伐に向け勉学や訓練に励んでいるということだが…
「そもそも俺達をこの世界に召喚したのはアイザトラスの連中だ。理由は俺達に魔王と呼ばれる存在達を倒して欲しいから。だけど俺達には全く関係ない話であることに変わりない...だから連中も強要はしなかった。そうだな?」
俺の問いにウェルナはコクリと頷く。
「だから連中は俺達を帰らせる手段を用意した。まぁ当たり前だよな…そして元の世界に帰りたいクラスメイトは帰還し、残りたい奴等だけが残った。ここまではいい...だが、俺はどうなる??」
「えーと…ですからセンヤのことを探す手伝いを...」
「それは当たり前のことじゃないのか?俺だって帰ることを望んだら帰らせないといけない立場にいる身だぞ?」
「あ...確かにそうですわ!」
「そう...そしてシュウ達の残った理由も俺を探すためである。なのに何で半年探してダメだったからってだけで学園に在籍することを今度は強要されている?おかしくないか??」
「そうですわね…言われてみればおかしいですわ...でも...だとしたら少なくともセンヤがイトウ達の前に顔をだすだけで学園に在籍する理由・義務はなくなるということですわよね…?」
今度は俺がウェルナに問いにコクリと頷く。
「そうだ。連中の言い分はシュウ達が在籍するのは半年間探しても俺が見つからなかったから、あとはウチらで探すからお勉強しててねってことだ。つまり、俺が学園に行けばその必要がなくなるってわけだな」
「なるほどですわ!あれ?でもそれだと皆様、元の世界にお帰りになられてしまうのでしょうか…?」
「どうだろうな…俺はまだ帰るつもりはないから...いるんじゃねぇかな??」
ヒロトなら喜んでこの世界に残るだろうし、シュウとリョータも俺が無事に生きていると分かればこの世界を楽しもうと思うはずである。
ユノやなっちゃんも同様におもしろいこと好きな奴らだからまず間違いなく残るだろう。
という考察をウェルナに伝えると...
「安心しましたわ…せっかくできた友達がいなくならなくて...」
と安堵した表情をする。
「お、そろそろ到着だな...」
窓から見える森林の道に気づき俺はそう口にする。
前回の話の感想にて質問された「センヤがウェルナに実名を教えた理由」の回答が曖昧で申し訳ありません。
前回の話がウェルナ視点であったため同時刻のセンヤがウェルナのブレスレットに気づき名前を教えようと思ったことを伏せさせていただいたのですが…自分で返信後に文の回答が適切ではないと思いました。
感想をくださった方、すいませんでした。




