第34話 奴隷達が家にやってくる 前編
というわけでオークションで落札した奴隷達がやって来ます。
タイトルのリズムは「月曜◯が街にやってくる」というとあるアニメのEDのサビの冒頭部分に合わせて言ってください(笑)
「…ご主人様、皆様のニヤニヤ顔が止まらないのですが…」
「それは自業自得というやつだ。諦めろ」
困った顔をしながらメルトが俺に言ってくるが、今言ったとおり自業自得なので仕方ない。
「それより…来たみたいだからしっかりな」
「はい…わかりました…」
優しい
そうは言うが、返事を返すメルトの声にはやはり元気がない。
「ハァ…メルト…お前は母親と出会えたことと今の気持ち…嬉しかった気持ちと悲しい気持ち、どっちの方が大きい?」
「え?それはもちろん、母と出会えたことの方がはるかに大きいですよ」
メルトは当然じゃないですかという表情をしながら俺に言ってくる。
「なら、その嬉しかったことを喜べよ。お前は今、想像以上に恵まれているんだぞ?」
「え…」
俺がそう言うとメルトは口を開いたまま俺の方を見る。
「そうです…そうですよ。私は今喜ぶべきです…悲しむ必要なんてないじゃないですか」
そして、自分に言い聞かせるようにそう口にする。その表情は先程のものとは違い元気さが漲っている。
「ありがとうございますご主人様。もう大丈夫です」
「そいつは良かった。ほら、ちょうど来たから頼むぞ?メイド長」
「お任せください、ご主人様!」
メルトの元気のある返事を聞き、俺は満足する。
そして…玄関の入り口が開かれる。
「それじゃあ失礼します」
ここまでオークションで落札してくれた者達を運んでくれた若者がそう言うと帰っていく。
若者がいなくなったのを確認して運ばれた者達の方に視線を向けると、辺りを見渡してキョロキョロしている。
するとその中の1人の幼女と目が合う。その幼女はジーッとこちらを見て視線を外そうとしない。
「…お前がユキを落札した者か?」
見た目と一緒の可愛らしい声でそう聞いてくる。
あれ?俺こんな娘、落札してないぞ…?
俺は確認を取るためにウニとメルトに視線を向けるが…2人とも首を横に降る。
んー…手違いか何かかな?と俺が頭を悩ませていると…
「ご主人様!コチラを…」
メルトが誓約書などの用紙から1つの手紙を見つけ俺に渡す。その手紙に差し出し人の名前は書いておらず、仕方なく封を開け中身を取り出すとそこには…
ノルディン・ボーシュリクスの名の元に文章が書かれていた。
その手紙には今回の件お詫びを兼ねて、このユキという少女を落札したので俺に渡すというものだった。
このユキという少女は先日のメインオークションの1番目玉だった少女らしく、白狐種という希少な存在であることなどが書かれていた。
「あーそうだな…どうやら俺が君の主になる「ユキです」」
「俺がユキの主になるみたいだ。名前は千弥、加藤 千弥だ。」
「センヤ…ですね。覚えたのです!」
ユキは敬礼のポーズを取りそう言う。
手紙にも書いてあったとおりユキの容姿は狐耳と尻尾があり、それらはどちらも白色である。煌びやかに輝くそれら…特に尻尾は大変美しく、とてもモフりがいのありそうなものに見えた。
俺は自然と吸い込まれるようにしゃがんでユキと同じ目線になり聞いてみる。
「なぁユキ?尻尾を触ってもいいか?」
「尻尾ですか…?センヤは主なのでいいですよ?」
と言うとユキはトテトテと俺の方にやって来て後ろを向き尻尾を突き出してくる。
俺は優しく尻尾に触れてみる。そしてモフモフモフモフと尻尾を触り…
あああああ、なんだこの最高のモフり具合は!家で飼っていた犬よりはるかに上位のモフモフさだ!
と少しの間モフモフして至福の時を過ごしていると…ふと、狐耳の方に目がいってしまい…流れるように耳に触れてしまう。すると尻尾とはまた違う素晴らしい感触がありモフってしまう。だが、こちらは尻尾と違いユキに反応があったようで…
「ふぁ、セ、センヤ…耳はダ、メですぅ…」
そんなことを言いながらも本心からは嫌がっているように見えず、モフモフの感触が素晴らしいのと興味本位でついつい俺はユキをモフり続けてしまう。
「ふ、ふぁ、ふぁぁぁぁあ…」
ユキは必死に声が出ないように口を押さえていたのだが…ビクン!大きく反応したかと思うとそんな声を出し、そのままパタリと俺の方に身を任せ気を失ってしまう。
え…ってええ!ちょっと待って!ちょっと待って!これって良くあるパターンのやつじゃん!!…え、ってことは…
俺はソローと顔を上げ周りを見渡すと案の定、たくさんの女性陣から冷めた白い目で見られており…
「…すみませんでした」
俺は頭を下げ素直に謝罪をすることにした…
〈視点変更〉
私の名前はスカーレット・ヴァーリー。色々あって先日、奴隷としてオークションに出品されることになったんだけど…
私はテーブルに座り頭を抱えている男性を見る。
彼の名前はカトウ・センヤという珍しい名前でその特徴から考えるに…東の方角にある英雄国シュナスティーブの出身だと思われる。なぜなら以前私はシュナスティーブの英雄の血を受け継いだいる者と出会ったことがあり、その者と外見などがとても似ているからだ。
だが以前会ったその者よりも彼…カトウ・センヤは非常に危ない存在であると私は思っている。
理由は先ほど私と同じように彼に落札されたユキという幼い女の子、白狐種という大変珍しい種族の娘を彼は…その…え、エッチな目に合わせたの!
白狐種などは希少であるが、その希少さ故にその…耳がとても敏感であることは彼ほどの年齢の人…ましては落札しているのに知らないハズなんでなく…その…家に運ばれていきなり…そういう行為をすることに…私はただただ軽蔑するしかなかった。
それは私も…今は奴隷となった身ではあるし、少なからずその…そ、そういうことを強要される可能性も考えてはいた。
でもそうは言っても私はまだ15歳の少女なのである。そして、どちらかというと少し…いや実はかなり乙女な妄想を抱いているのである。奴隷となる前だって、いつか英雄と呼ばれるような素晴らしい男性やどこかの国の王子様と偶然出会い恋に落ちるようなことばかりを想像していたし、奴隷となった現在も…奴隷という身であり使用人として過ごす日々、でもご主人様はとても優しい方でいつしか2人は互いに愛し合いやがて夫婦になる…と、そんな妄想ばかりをしていた。
…ええ、笑いたければ笑えばいいじゃない。いい歳になった少女が何を夢見てるんだと…
実際、何人の人達に馬鹿にされてきたかわからないしね、…
「フ、フフフ…」
「え、えーと…スカちゃん…大丈夫?」
私は気づかないうちに変な笑いが出てしまっていて、シルフィちゃんに心配されてしまう。
ヤバイヤバイ、過去の出来事を思い出して変な笑いが出てしまっていた。
「え、ええ大丈夫よ。ちょっと動揺してしまって…」
私がそう言うとシルフィちゃんも「確かに衝撃的だったもんね…」と納得してくれたようだ。
フー…危ない危ない、せっかくできた友人がいなくなってしまうところだった。だって、こんな少女じみた乙女の妄想なんて話せるわけないもの…
でも、私個人の意見としては妄想や想像くらいは好きにさせてほしいと思う…だって他人に迷惑をかけない想像の世界にまで口を出されてしまったら…拠り所とするものさえなくなってしまうのだから…
そう考えて私は改めて彼…カトウ・センヤの方を見る。そこには未だに落ち込んでいる彼の姿があり、それを見た私は内心ハァー…と深い溜息を吐き、やっぱり夢見る少女のようにはいかないんだなぁ…と現状の現実を疎ましく思うのだった。
その後、彼の元気が直らず元々指示もあったということから…落札組の中から私とサラスティちゃんとシルフィちゃん、それからメイド長のメルトさんと我等がご主人様となったカトウ・センヤの秘書であるウニさんと買い物に出かけることになった。
メルトさんとウニさんは2人とも…とても綺麗で可愛らしく、優しく頼りがいを感じさせる方達で…メルトさんは2つウニさんは自分と1つしか年齢が違うことに驚きを隠せないでいた。
ただ、カトウ・センヤという存在があんな事をしていたが本当は素晴らしい人なのだと言う…洗脳されてるんじゃないか?と疑いたくなるような話以外はだけど…
でも、そう思っていたのは私だけではないようで…
「スカちゃん、サラちゃん。ウニさん達ってさ…私達と少ししか歳が離れてるなんて思えないよね…」
「だよね?実は私もそう思っていたのよ…」
「とても素敵な方達ですよね?私達も見習わないといけないですね…」
「「……」」
私とシルフィちゃんはサラスティちゃんの言葉に黙り込んでしまう。
なぜなら、1人ガッツポーズをして意気込んでいるサラスティという少女は…とても私達と同じには見えなく…あちらサイドの人間に思えてしまったからだ。
「??」
だが、そんな少女はこちらの考えていることなど分かるはずもなく、首を傾げているのであった。
その後、街を案内されつつ買い物を済ませ帰路についている最中…
「キャッ!」
ドンッと人にぶつかってしまう。まぁ、正確には向こうから私にぶつかりにきたんだけど…ことを大きくするのもアレだから…私は内心怒りながらもまた歩き始めようと思った…けど…
パリーンッ!!という耳に響き渡る音がして、歩みを止め音がした方を見てしまう。するとそこには…
「おい!てめぇのせいで壺が割れちまったじゃねぇか!!どうしてくれんだよっ!!」
怒りの形相をして私の方を睨みつける男性がいた。
「キャア!!」
男性は私の方に近づいてきてドンッ!と私のことを突き飛ばす。私の体は壁にぶつかり崩れ落ちる。突き飛ばされた衝撃と壁にぶつかった衝撃が私に痛みという感情を教えてくれる。
すると男性は倒れている私の方にまた近づいてきて、その右手が振り上げられていることに気づくと私は咄嗟に…
「ごめんなっ!」
ごめんなさいと謝ろうとするが…それは最後まで言うことなく終わってしまう。
なぜなら…
「アンタ…俺の使用人になにしてんだ?」
殴ろうとした男性の腕を掴みそう口にした…
ご主人様という存在がいたからだ…
後半はまさかの別視点での話でしたが…正直、次回をセンヤ視点でいくかスカーレット視点でいくか迷っています…




